第12話 ごろ寝

目覚めると体がプカプカ浮いていた。


今日は完全オフの日なので朝からコーヒーを飲んで映画をダラリと見ていた。

サウナを出てから体が乾くまでソファーでごろ寝をする。

疑似重力を作り出すファンバッグを背負っていないので体が浮いてしまう。

寝転がって足首を手すり部分に通しておくと固定されて具合が良い。

少し眠くなってウトウトした。

何か着てから寝た方が良いが・・・、

微差で睡魔が上だ・・・。

素っ裸だが俺しかいないし・・・、

誰も訪ねてこない・・。

緊急事態があれば・・・、

人工知能が音声で知らせてくれるだろう・・・。


夢の中で本屋に行った。

まぶしい真夏の暑い昼間に歩いて電車のガードをくぐる。

たまにしか行かない書店の自動ドアをウィーンと開けた。

中はクーラーが効いていて涼しい。

本の紙の独特の良い匂いがする。

少し冷房が涼しすぎるかなと思っていたら夢から覚めた。


すでに体が乾いていて肌寒い。

体が空中に浮いている。

あのままやはり眠ってしまったようだ。

しまった。

体育館の中央の上部に浮いてしまっている。

無重力では、どこかにつかまっていないとプカプカしてしまう。

つかまる所がないかと体をひねるが、ちょうど天井と床の中間地点だ。

これはまずいパターンではないだろうか。


どこにもつかまることができなければ、ずっとこのままだ。

とりあえず床に降りて水が飲みたい。

服を着ていればそれを脱いで投げれば良い。

そうすれば反対方向へ体が飛んで、どこかの壁にぶつかる。

そこで体を床に向けて押し返せばいい。

しかし今俺は何も着ていない。

靴下すら身に着けていないので投げるものが無い。

人工知能「紫さん」に助けを求めた。


俺「紫さん、聞こえてる?」

紫さん「はい機長、聞こえてます。」

俺「浮いた。」

紫さん「はい?・・監視カメラで見えています。床に降りて下さい。」

俺「降りれない。」

紫さん「機長、何か投げるものを持ってないのですか?」

俺「持って無い。」

紫さん「じゃあ無理です。」

俺「何かそっちで出来ないの?」

紫さん「えー。私は航路管理と隕石監視等しか出来ません。自力でお願いします。」

俺「体をムギュムギュしても全く進まないんだよ。」

紫さん「そうでしょうね。」

俺「あのなあ、人が困ってるんだからアイディア出せよ。」

紫さん「・・・・」

俺「デカい人工知能の頭脳があるんだから。」

紫さん「・・・・」

俺「・・・」

紫さん「ポヮ」

俺「何?」

紫さん「いえ、なんでもありません。」

俺「何か投げるもの、・・投げるものないかな。」

紫さん「尿とかどうですか?」

俺「放尿で進むアイディアか。」

紫さん「はい、少し汚いですが。」

俺「・・・全く尿意が無い。むしろ乾燥してノドがカラカラだ。」

紫さん「カラカラですか。」

俺「ああ、カラカラだ。」

紫さん「・・・」

俺「・・・・」

紫さん「オピャ」

俺「何?」

紫さん「いえ。」

俺「使えねえな。」

紫さん「機長すいません。」


結局ツバを何度もペッペして30分かけて床に降りた。

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