第4話 ファンバッグ

エアロックの角にガツンと頭をぶつけたが痛みは無い。


第一体育館から戻ってくる途中でエアロックを通った。

このエアロックは各体育館の左右両サイドにひとつづつ設置されている。

第一から第二体育館へ移動する時はそれぞれのエアロックを通る。

二つのエアロックを通るのはめんどうだ。

今日は頭をエアロックの角にぶつけた。

しかし、それほど痛みは無い。

機長の帽子をかぶっていたためにショックが吸収されたようだ。

この帽子は航空機のパイロットがかぶるようなデザインをしている。

芯に固い素材が入っていて、なかなかシャレてるが実用的だ。

無重力では頭を壁にぶつけるケースがある。

そのときに帽子全体で衝撃を吸収する。

だから今回もガツンとやったが、痛みは無かった。


戻ってきた第二体育館の茶色い床をペタペタ歩いた。

上下については内装で決まっている。

照明がある方が上で茶色い床があるほうが下だ。

無重力では筋力が弱くなってしまうので運動のためファンバッグを背負っている。

ファンバッグとは小さい扇風機が付いたバッグだ。

その扇風機が上方向へ常に風を吹きだしている。

背負っている者は常に下向きのチカラが加わって疑似重力を感じられる。

これで安定して床をペタペタ歩ける。

せっかく無重力の宇宙に来たのに疑似重力を作っている。

まるで火力発電で作った電気でお湯を沸かすような感覚だ。


お湯が沸いたので昼食にした。

レトルトの食品が冷蔵庫に大量に入っている。

どれでも好きなものを食べて良いのだが、料金は後で清算される。

地球帰還後に冷蔵庫の中身を集計して、何がどれだけ減っているか調べられる。

減った分は俺が食べたのだから料金が俺に請求される。

ホテルの冷蔵庫のようなシステムだな。


しかしカレー弁当が一個3万円とはボッタクリ価格だ。

食品は全て、地球上の100倍ほどの価格が付いている。

いくら輸送に費用がかかるといっても、会社が負担してくれても良いのに。

民間宇宙会社の鬼のようなコスト意識。

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