第2話 コーヒー

「お前、読んでいるな?」


朝食が終ったのでコーヒーをポットに入れてコックピットに入った。

大型輸送機ゼラニウムの中では、ここが最も安全な区画になる。

体育館のステージほどのせまい区画に、独立した生命維持装置が備えてある。

万が一、機体が損傷した場合はコックピットに逃げ込めば助かるようにだ。

寝室や衣類、非常食や水も数年間分はストックされている。


このコックピット内には輸送機唯一の人工知能が設置されている。

紫色をした円盤型で丸テーブルほどのサイズだ。

俺はコレをコーヒーテーブルのように使っているが機内全ての管理をしてくれる。

生命維持から軌道管理までしてくれる相棒だ。

正式名称は「ディープ」だが紫色をしているので「紫さん」と呼ばれている。

普段は音声で会話している。


俺「お前、読んでいるな?」

紫さん「はい、地球のニュースを読んでいますが変わったことはありません。」

俺「そっか、紫さんよ、今日のタスクを言ってくれ。」

紫さん「緊急タスクは無いですが、点検作業が2つあります。」

俺「じゃあ、今日はそれをやる。日給は?」

紫さん「日給換算すると約10万円です。」

俺「なんだ、しけてるなあ。」

紫さん「機長、単純ですが重要な仕事ですよ。」

俺「やるよ。もちろん。」


ポットから熱々のコーヒーを注いで専用のカップをすすった。

宇宙では専用カップから飲まないとコーヒーの味が変になる。

香ばしい湯気を吸い込みながら制服に着替えた。

黒いズボンと白いワイシャツと機長の帽子。

なんだ、航空機のパイロットと同じだなという人もいるだろう。

その通り、この輸送機ゼラニウムの製造は航空会社の子会社が担当している。


しかし腹が立つのはコーヒーの値段だ。

このポットサイズで1万円は高すぎるだろう。

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