序章の第二話 ミルがいる日常 (2)




ミルとの生活は大変充実した毎日を送っています。



ミルが私達の家族の一員となって早一月が経ちました。

ミルは怪我する事も病気する事もなく、元気に成長を続けてます。


今日は学校の創立記念日で休みです。





父は生憎仕事の為いませんが、母と二人で銀杏ケ丘の西にある高台にある銀杏神社に、ミルの健やかな成長を願って祈願に行く事にしました。



銀杏神社は、銀杏ケ丘が未だ市や村と呼ばれる程、人口が多くなかった時代からそこに建っており、私が生まれて一月目のお宮参りもこの神社に参ったと母から聞いてます。



銀杏神社の神様は、お伊勢さんや出雲大社の様な大きなモノではなく、神様がおわすとされる本殿もこじんまりしています。


この神社に奉られている神様は、"家庭"や""家族"を守護する御利益があるといわれ、銀杏ケ丘や環和市だけでなく近隣の市民から愛され親しまれています。




また、"家族"という括りは血の繋がりだけの事ではなく、ミルの様な愛犬や愛猫であっても、家族が家族として認識していれば犬や猫、爬虫類や昆虫類であっても加護(御利益)を得られるとの事です。


銀杏神社の神様の加護は"家族"と云われていますが、神社で神主として代々遣えている方がいうには、"家族"というのは神様の加護の一部で正確には"絆"や"縁"を司っていると聞きました。






そんな銀杏神社に今日は母とミルと一緒にお散歩を兼ねた祈願に行きます。





出掛ける前にミルにわんこ用オムツと体固定型のリードの装着。





えっ? おトイレの躾がきちんと出来てるならオムツは必要ないって? エチケット袋とスコップがあればいい?



糞尿(おトイレ)の躾もしてるけどそれでもオムツは必要だよ。普通に街中ではそれでもいいかも(?)知れないけど、神社の境内でのそそうは…駄目……絶対駄目。ペットにも加護を与えて下さる神様だからこそ、バチアタリな事は控えなきゃ。



たまに見掛けるけど、初詣の時にわんこを参拝に連れて来る人(実話)。大勢の参拝客いるのに、抱っこではなく長いリードで普段の散歩の様に来てるけど、私達みたいに愛犬家でない人もいるんだし、糞尿だけでなく、噛みついたら傷害って理解してるのかなぁ?あの人達。





閑話休題





実はミルを連れての遠出、といっても市内だけど。遠出は今日が初めてだったりします。


近所をミルを連れての散歩は何回か行ったけど、家から数キロも離れてのお散歩は、今日が初めてなのです。

生後二ヶ月にも満たない散歩はリードでのお散歩ではなく、服の胸ポケットやジャンバーといった上着の中に頭だけ出して収納し、話掛けながらのお散歩。


これを行ったか、行ってないかでその後のリードを着けた散歩に影響を及ぼすの。

具体的にいうと、飼い主の温かさという安心に包まれた状態での初めての外の景色は不安よりも安心感からの好奇心へと繋がる。TVとかでよく見掛ける「初めてのお散歩」で外に出るのを怖がってそこから「引きこもり化」するのを緩和してあげる事が出来るの。


………余談ですが、ウチの仔も体のサイズが小さい間は胸ポケットや半纏のポケットで「ポケット犬」して話掛けながらのお散歩をしてました。そのお陰で初めてのリードのお散歩であっても物怖じせず喜んでました。





閑話休題





徐々に慣れさせたら、今年の夏は四国に住む父方のお婆ちゃん家に皆で遊びに行こうねって計画してます。お婆ちゃん家まで行くには鉄道とバスと船(お婆ちゃんの住んでいるのは四国本土ではなくて、四国に属してる瀬戸内に浮かぶ島な為、船が必要)を乗り継いで行く必要があって途中、どうしても長時間の人込みやミルにとって見知らぬ風景の中を移動しないといけないし、その為には色んな場所に連れて行って慣れさせる事が大事。






いつもと違う道の為か、ミルはキョロキョロと辺りを見回しながらも、所々こちらに振り返って「どこ行くの?」って顔で見て来る。


その仕草が凄く可愛いくて、「ウチの子は最高(///ω///)♪」って思わず叫びたくなってきちゃうけど・・・・何とか我慢して母と二人ミルを間にして並んで歩く。





ミルのスタミナも少しずつついて来たとは言っても、未だ生後一月と少し。数分置きに休憩を挟みつつ、五十分かけて銀杏神社に着きました。






表参道の第一の鳥居前で端に避けて立ち先ず一礼。神社によってはお参りの作法が違うけど、ここ、銀杏神社の場合は第一の鳥居前で一礼し、道の先にある第二の鳥居近くの御手水場で両手と口を濯ぎ、更に第三の鳥居前にある御守り売り場(社務所前)で祈願紙を購入して゛家族の健やかな成長祈願゛を思いながら紙に加わった家族=今回の場合はミルの名前を記入して本殿前にある祈願願い箱に紙を納めた後、本殿前の賽銭箱前で普通にお参り。


普通一般的な神主さん達が常駐されている規模の神社の場合、本殿の手前に拝殿とか神楽殿等の建物があるんだけど、ここ銀杏神社の場合は建物といったら、本殿、社務所、休憩所の3つしかない。因みに、神主さん達が住んでいるのは社務所と地続きというか屋根続きに建っている建物。





母と二人並んで、ミルは私が抱っこしつつ、第一の鳥居前で一礼。



その間、ミルはというと何か感じるモノがあるのか道の奥をじっと見詰めたまま大人しく私に抱っこされたままでした。



一礼が終わるとミルを下に下ろし、ミルを挟む形で母と並んで石畳を進みました。



銀杏神社の参道は体感では中々気付けない程の緩やかな坂になっており、第二の鳥居前近くの御手水場近くから行く事が出来る、少し参道から離れた位置にある高台の広場から銀杏ケ丘が見渡す事が出来き、坂を歩く事で溜まった気付かなかった疲労を癒す事が出来る。

この高台の広場は夏になると、銀杏ケ丘市が主宰の銀杏ケ丘花火大会の観覧場所となります。初詣シーズンには銀杏ケ丘の街と共に初日の出が観れる場所としても人気があります。

え~と、それから他にも何かあったと思うんだけど……あ、思い出しました。

年に数回発生する濃霧の日は、この高台の広場から神秘的で幻想的な世界を体験出来ます。銀杏ケ丘の街全体が濃霧の白いモヤモヤに包まれ、まるで雲の上から街を見下ろしている様な景色を観る事が出来、プロアマ問わず多くのカメラファンから絶景ポイントとしても親しまれています。



第一の鳥居前から参道の石畳の上を進む事十分。第二の鳥居が見えて来ました。


今日は私自身は学校の創立記念日で休みですが、平日な為、参拝客とすれ違う事がありませんでした。




御手水場で両手と口を濯ぎ、持ってきたハンカチで手を拭いたら、近くの脇道から高台の広場へ続く道へと入りました。



今日は晴れていたので、街の西側の向こうにはうっすらと海が、目視するには少し遠いけど東の奥には環泉市が、南には銀杏並木が見渡す事が出来ました。

未だ季節的に早いけど、銀杏並木の葉の色が緑から黄色に変わる頃になると地元及び近隣の市民が銀杏並木に、゛ぎんなん゛を求めて集まって来ます。

そういう私も何度か゛ぎんなん拾い゛に参加しています。

ぎんなんは、黄色になって自然落下した実を踏み潰す等して中の種を取り出し軽く乾燥させて網の上で焼いたり、蒸したりしたモノを食用としてます。

種の内側は食用としますが、外の部位…果肉は熟すると下水かどぶ川の香りかと思う程の臭みが発生し……食用にはちょっと。食べられない事もないですが、流石に生は……。食べたいという勇者様、食べるなら自己責任でお願いします。何かあったとしても当方は責任を負いませんので悪しからず。一応和菓子にぎんなん外実の半生砂糖漬けがありますが、未加工な生ぎんなん(外実)は食用にしても大丈夫か知らないよ♪~(・ε・ )。





閑話休題(それはさておき)




十分休憩も出来た事だし、第三の鳥居目指して歩きだしました。




少し歩きだした所で、第一むr……今日初めての参拝客さんに遭遇しました。




前から此方に歩いて来るのは、茶色でもふもふなトイプードルを両手に抱えた二十代後半位のおしとやかそうな雰囲気の女性とその子供さんと思われる四、五才位の男の子の親子連れ。





すれ違う際、軽く挨拶してすれ違う。




 ミルにとって初めて遭遇する他のワンコで少し心配もしていましたが、変に怖気づいたり相手に吠えつくといった事もなく、すれ違う事が出来ました。


 町内というか家の周辺を散歩する際は、近所にワンコを飼っている家が少ない為、私や母、父がミルと散歩する時間で遭遇する事がなかったので…。


 すれ違っても吠えたり怖気ついたりしなかったので、ミルにいいこ、いいこって頭をなでて褒めてあげました。叱る時も褒めてあげる時にもきちんと分かる様にその時は解る様に、「何が」「良かったor悪かった」のか口に出して褒めたり叱ったりしてます。



 ※作注:これ、凄く大事。これをきちんとしてないと、変な性格なワンコに育ちます。ワンコに限らず、子どものしつけも同じ。褒める時も、叱る時もきちんとするのが凄く大事。具体例を挙げると近所の犬……飼い主のしつけが悪く、周辺地域からコモド犬(口の中が雑菌まみれで咬まれると蜂に刺された様にボコボコに腫れます)という称号を頂いてます。読者の皆様はご注意下さい。これ傷害事案なので。



閑話休題





その後は他の参拝客さんに遭遇する事なく、第三の鳥居前近くにある御守り売り場に到達。



昔はこの御守り売り場にも宮司さんや巫女さんといった神社の従業員の方も付きっきりでいたらしいのですが、私が生まれる少し前にあった不況によって人員を配置するだけの収入が得られず、御守りは自動販売機での販売となったとの事。


自動と言っても、御守りの販売に限定されており、御札や形代、酉の市のハカキ等は少し先にある社務所にて人間の手で販売されてます。始め人員コスト削減の為に販売出来るモノを全て自動販売機での販売を試したそうですが、ご利益は変わらなくても神社としてのイメージが悪いという住民からの反発を受け、御守り系限定での自動販売機を使った販売となったと聞きました。



なので、ミルの健やかな成長を願う形代は社務所にある販売所まで購入しに行かないと。






 社務所前販売所に行くと、珍しい事に……



 銀杏神社の神様である、“きしろ様”が神主様と……ピシッとしたスーツ姿のお姉さんと社務所直ぐ隣に隣接されている休憩所で何らかのお話をされていました。



 “きしろ様”はここ、銀杏神社に祀られている大銀杏の樹の精霊様が長い長い信仰の力によって神格を得たという神様で、見た目は金色の髪に私と身長はほぼ同じくらいで殆ど人前で話される事が見かけられない程に口数の少ない方なのに、行動力が凄く高い方です。


 いつでも会える、見る事が出来る方ではなく、運が良ければ神社の何処かで遭遇する事が出来るという方で……神社に訪れる参拝者の間で、遭遇する事が出来たなら「その日は何か良い事が起きる……かも」と噂されています。





 …………んぅ?



 神様がいるのがおかしい…?




 神社には神様が祀られているんだし、神様が神社にいるのはおかしい事では…………って、え? 普通の神社にはご神体はあっても神様本人(本神?)がいないのが普通………?




 あっ!



 凄く大事な事を説明し忘れていました。




 私達がいるこの世界の神様達は、見て触れる事が出来る存在として”います”。


 元々、貴方が問う様に神様は視る事も対話する事も一緒に遊んだりファーストフード店で食事したりしなかったのですが……………私の母が生まれた年に何かがあって(”何か”が”何があった”のかは神様ですら解ってません)日本中のあちこちの神社や神様と縁のある地に顕現される様になり、元々日本人の気質というか信仰方針が八百万(やおよろず)の信仰という考えだった為と、転生とか転移、顕現といった話が多くみられるアニメ文化が普通に受け入れられる土壌があった為、神様と人との間に軋轢等も生まれることもなく、その翌年にはあっさりと人々に受け入れられました。





 んぅ? 何か、おかしい事を言ったかな?



 ん~~~。”何か”の事? えっ。違う?



 一緒に「遊んだり、ファーストフード店で食事したり…」のクダリがおかしい??






 可笑しい?ってどうしてなのさ? 神様だからといっても、その守護している場所にずっと囚われている訳ではないよ?


 確かに、道祖神様(道そのものを守る神様)やお地蔵様といった神様の様にその場所、守護地域から離れずにって方もいますが、私達が住む銀杏ケ丘の街に顕現されている神様の多くは守護地に一日の大半はいても、時には守護地と隣接する地域に遊びに行ったり、守護地近くのファーストフード店やコンビニに出没されたりします。


 といっても、これは”日本”限定の話で、アメリカとか中国とかロシアなぁんていう日本以外の他の国の神様は守護地にヒキコモリされています。




 ヒキコモリといっても、「自宅警備員」とか、「天野岩戸に雲隠れ」とかとは関係ありませんよ。


 単純に、日本と違って他の国々では神様の顕現数(顕現される前の時代の元々の信仰されていた神様の数とも言い換え可能)が日本と比べて圧倒的に数が少なく、守護地の外に出て行動する余裕がない為だとか。


 分かり易くいうと………日本の外の国で信仰されている神様の柱数は少ない所で1柱のみ、多い所でも数百程。それに対して日本は八百万と云われる程多くの神様が信仰されており、極端な言い方をすれば、お米の一粒一粒にさえ神様が宿っているとも云われてます。




 あと、地域によって他の国とダブっている、被っている世界的に有名な神様に関しては守護地単位で分体というか双子というか増殖されてたりします。



 説明がややこしい?………かな?



 どういえばいいのかな?


 

 ん~~~



 ちょっと違う様な気もするけど・・・・



 日本と世界で共通してる有名神様で例題として挙げると・・・・



 弁財天様とか大黒天様とか恵比須様とかで有名な七福神の皆様。



 日本では「幸運」とか良い意味での福を授けて下さる神様として有名なんだけど、原形というかモデルとなった本神様は出身国ではけっこうキツイ系の神様として畏怖された存在だったりします。弁財天こと弁天様で例として挙げると本神は嫉妬とか美とかを司る「西洋神話のメデューサ」みたいな方だと記された書物もあります。


この場合、海外におられる本神様の方はそういう神として顕現され、日本の場合は美と金運と恋愛を司る神様として顕現されます。

 日本に顕現されたら海外では顕現されない、ということはなく、国外と国内の合わせて最低でも2柱は顕現されます。どういえばいいのかなぁ。



 う~ん。


 神様の顕現は「土地」と「信仰」がキーって事を覚えてくれたらいいかなぁ。


 そのせいか、神様本人(本神?)に神様の所属していた土地が複数あった場合に、本拠地が何処なのかを問いただしたとしても、あやふやな答えしか返ってきません。


 日本の神様でいうと、天照大神様。ご本神の所在地は忘れたけど、有名どころで三重県の伊勢神宮に本籍があるとされていますが....この神様。分け御霊とかいうので、日本のあちこちに祀られており、顕現現象によって祀られた場所の数だけ顕現され、これが原因で軽く日本がパニックになったと聞きました。






 また、宗教によってあやふやな場所として有名な.....日本の仏教でいう極楽浄土とか、キリスト教でいう天国が地球の何処にあるのかと顕現された神様に聞いても凄く怪しいあやふやな答えが返ってきます。


  ただ、地獄に関してはどの神様も共通で地面を指さし、次元が違う地面の底にあるとおっしゃってました。


 魔神とか悪魔などの存在は今のところ確認されていない為、所謂、”魔界”だとかは本当にあるのかさえ分かってません。





 閑話休題






 ミルの健やかな生長を願ったお参りを終え、帰宅の道に戻る前、きしろ様の方を見ると……



偶々なのか、きしろ様と目が合いました。


きしろ様は、此方を見てニヤっと微笑まれると、私においでおいでとされました。



きしろ様にお呼ばれされたので、きしろ様がいる休憩所に近付いて行きました。





きしろ様の近くに寄ると、きしろ様にお団子を奨められました。


きしろ様曰く、銀杏神社のお土産コーナーで今後取り扱う予定の銀杏の砂糖漬けが入ったお団子で、試食として食べてみて欲しいとの事。



味は……美味しいのは美味しいんだけど、ここの名産というにはインパクトが足りないかなと思う。と、正直に答えたら……他にも色々運ばれて来た。

















急遽始まった、きしろ様とのお土産の試食会はあの後、一時間にも及んだけど問題なく終える事が出来ました。



帰る直前、ミルの成長祈願が主だったのに試食会となったお詫びとして、きしろ様自らのミルへの祝福の儀をして戴けました。

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