Wan-Nyan-Life
縁ゆかり
序章の第一話 ミルがいる日常 (1)
「あ~ん。ほらほら、落ち着いて。誰も君のを取らないから」
「よしよし。ん。おねむ?…寝るならお布団にいこうね」
ミルの小さな体を持ち上げると、ミルを柔らかい布が敷き詰められた籐籠に寝かせ、綿100%のハンカチを布団替わりにしてその体にかぶせてあげた。
「こらこら。ちゃんと君が眠るまで、一緒にいてあげるから。ね」
ミルは眠そうな顔をこちらに何度も向け、私が傍にいる事を何度も何度も確認していた。
ミルを寝かせ始めておおよそ数十分___
ミルはやっと眠りに着く事が出来たのか、籐籠に丸まって寝た。
「……おやすみ、ミル」
ミルがきちんと眠ったのを確認した私は、ミルを起こさない様に気を付けて物音をたてない
様に部屋を後にした。
____私の名前はタマキ…神月(こうづき)珠姫。銀杏ケ丘高校に通う至って普通の何処にでもいる女の子。お母さんから引き継いだストレートの黒髪に、お父さんから引き継いだ茶色がかった瞳、背の高さは……う~ん。同級生たちに比べるとちょっと小柄かな。あと五センチ、たった五センチ身長が欲しいけど、代々お母さんの方の家系は身長が小柄な人が多くてそれが私にも遺伝しちゃったっぽい。
____先程寝かせた”ミル”というのが昨日から私の家族の一員に加わった子。
子って言っても私が生んだ子供って訳でも、お母さんが生んだ年が離れた妹って訳でも、親戚から預かっている子でもないよ。
_____ミルは、大好きな従兄のお兄ちゃんから貰ってきた、神月家待望の”わんこ”なのだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
去年まではマンションに住んでいた為、犬や猫といったそこそこの大きさの動物を飼う事が出来ず、涙をのむ程に我慢していたけど、去年の夏にそれまで住んでいたマンションが公共工事という名の高速道路建設の為に立ち退きを迫られ住んでいられなくなった為、この機会に一軒家を買うとなり、元々住んでいた街の二つ隣にある”銀杏ケ丘”という住宅街に住む事になりました。
今まで住んでいた”環泉市”ではなく、”銀杏ケ丘”になったのは・・・第一に今までに住んでいたマンションの水道光熱費を含んだ生活支出を基準にそこよりも安い場所が環泉にはなかった。
第二に、お父さんもお母さんも私にとっても ”銀杏ケ丘”は利点があった。その利点というのは私が通う銀杏ケ丘高校に近く(今までは自転車で片道1時間かかっていたのが数十分)、お父さんが勤めている”アトリエときがね”から徒歩数十分、お母さんがいつも利用しているスーパー”夢紡ぎ”まで自転車で五分。
銀杏ケ丘に住むに辺り、私とお母さんが望んだ事はそこそこの大きさの庭がある古民家で、犬が飼える事の二点のみ。
お父さんが望んだのはそこそこの大きさの庭と土間がある古民家である事。
うん? 「新築で建てないの?」って?
新築だと……土地と建物が別々で購入を考えなくてはいけなく、立ち退き手数料+貯蓄的にとてもじゃないけど予算的に無理だし、何よりも新築で建てる場合、建築許可申請とか工事の期間がどんだけ短く見積もっても半年以上かかるしその間の生活を考えたら無理だった為、(土地付き)”古民家”という選択になった。
※作注:現実はもっと面倒な手続きでお金がかかります。その様なモノだと流して下さい。突っ込み入れても、保険に入れた"ご都合主義"タグってことで・・・・・・。
マンションやアパートという候補も一応あったのだけど、前に住んでいたマンションの部屋面積や毎月の家賃などのコストを踏まえて探したけど、生憎と良い所が見つからなかった。
今、住んでいる元”古民家”は、前に住んでいたマンションの道を挟んで向かい側にあるお風呂屋さんの番頭のお婆ちゃんの伝手で買う事が出来た。
この古民家の元の持ち主の方はお風呂屋さんのお婆ちゃんの従妹の方で、現在は日本から遠く離れた南米にあるアルゼンチンに住む老夫婦との事。何年か前まではたまに日本に帰国して古民家の手入れをしていたらしいのですが、一時帰国の目的がご近所に住んでいた息子さん夫婦とその子供さんであるお孫さんに会うという目的だったらしいのですが、お孫さんが高校を卒業したのを機会に息子さん一家もアルゼンチンへと移住していき、管理や売却手続きも全てお風呂屋さんのお婆ちゃんに託したとの事。
お風呂屋さんのお婆ちゃんも、もういい歳でお風呂屋さんの管理業務に、この古民家の管理は肉体的に辛く、どちらにせよ近々手放す事を検討されていたと聞いた。
そんな時にマンションの建て壊しの話と、お婆ちゃんと親しくさせて貰っていた私達一家が古民家を探しているという話を聞き、私達が良ければという話になり、一度下見した後、問題と思えるモノ(地震耐久検査など)は見当たらなかった為、直ぐに購入契約を結んだ。
直ぐにも移り住んでも良い状態でしたが、管理されているとはいってもお婆ちゃん一人での管理の為、家族総出で家中の掃除と、壁の防音補強、設備の追加などといった細々した事をするという理由で翌々日__二日後からの入居となり、その二日後、問題なくマンションから古民家へと移り住む事が出来ました。
移り住んで一番始めに行った事は、大好きな従兄のお兄ちゃんや従姉のお姉ちゃんとその家族を呼んで広くなった庭で引っ越し祝いを兼ねたホームパーティーをやりました。
それから半年という時間が経って、今のこの家での生活に慣れた頃________
幼い頃から大好きだった従兄のお兄ちゃんが何やら大きな籠を持って我が家にやって来ました。
従兄のお兄ちゃん曰く、お従兄(にい)ちゃんの家で飼っている"みる"が先月終わりに産んだ子で、前々から私達一家が「わんこが欲しい」と言っていたのを覚えていてくれてて……里親候補としてどうかと連れて来たとのこと。
あ。言い忘れていたけど、"みる"というのは、従兄のお兄ちゃんの家で飼っている、マルチーズとプードルとのハーフで見た目が羊の様にモコモコした毛が特徴の小型犬に分類されるわんこなのだ。柴犬や秋田犬の様に外で飼うわんこではなく、室内で飼う種類の所謂、室内犬。室内でと言っても、家に閉じ込めておくのではなく、定期的に"さんぽ"に連れて行く必要があるけど。
因みに名前の"みる"の由来は、みるの体の毛が牛乳色(完全な真っ白ではない白色)で、みるの母親にあたるわんこ、モカの飼い主が喫茶店を営んでおり、その店のコーヒー をそのわんこが大好物でしょっちゅう飲みたがっていた為、その遺伝からかそのわんこの一族は全てコーヒー大好き犬という性質を引き継いでいる。
勿論、みるもコーヒー大好き犬で・・・・・そのみるの血を引き継いでいる、目の前の籠の中で可愛いらしく並んで眠っている仔わんこ達もコーヒー大好き犬になる(未だ生後一月以内の為、生育の阻害原因になるかも知れないので与えてないらしい)はず・・・・たぶん。
その仔わんこ達の中で一匹だけ、他の仔わんこよりも一回りも体の大きさが小さなわんこに目が釘付けになった。
___なんて言えばいいんだろう。凄く守ってあげたいって気持ちになる。
(((他の仔わんこ達も可愛いけど、この仔がいい。)))
家族全員の意見を聞いた所、全員一致でこの仔を貰う事になりました。
名前は”しろ”だとか、”ぽち”なんていう、昔ながらの名前が候補に挙がっていたけど・・・・数分の家族会議の後、”ミル”という名前に決まりました。
ミルの名付け由来は見た目が母犬"みる"にソックリで、お従兄ちゃん曰く、"みる"の若かりし頃そのものとのこと。ミルをお従兄ちゃん家に置いてあげたいのは山々ですが、ミルは初産の四匹の内の一匹で、マルチーズやプードルはだいたい年に一、二回・・・生涯通して三回から四回は出産するので残していくと閉経を迎える頃には飼いきれなくなる為、信用の於ける人に里親になって貰えないか聞いて回ってるとのこと。
そういった経緯から我が家の長年の夢であり念願であったわんこ・・・・ミルが家族に入りました。
-----おまけ------------------------------------------------------------------------------------
※作注:この回の話の犬関連のネタの大半は作者の体験談から作ってます。ウチの子達もコーヒー大好き犬でした。特に某メーカーさんの細長く薄茶色の缶缶のミルク入り缶コーヒーを見た日は、猫にマタタビ、ライオンに生肉、狐に油揚げの如く凄かったです((;^ω^)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます