第3話 異世界で仏


確か俺は空を見ていた。

綺麗だなーって


そしたら水が降ってきた。

雨というか滝の直撃??


で、ブラックアウト…


とっさの事で何も分からなかったが、気絶する前に


(これで戻れたらいいけど、やっぱり美少女には会いたかったな…)


と思ってしまった。

自分でもドン引きするほど煩悩まみれだな…



そんな俺の今の状況。


俺はベッドに寝かされていて、服も麻の質素なものに替えてある。部屋は簡素な小屋のよう。


つまり、誰かが俺をここまで運んできて丁寧に着替えもさせてくれたというわけだ。


帰れなかったのは残念だが、死んでいない、ましてや多分人類初のスライム葬にもならなかった。ありがたや…!


「おっ!起きたかい!」


美しいソプラノの声が響く。



こ・れ・は!



勢いよく振り返った俺は見た。



ピンク色の可愛いスリッパ!

花柄の黄色いエプロン!

赤黒いゴツゴツした肌!

身長推定3m!

頭に生えた2本のツノにつぶらな赤い瞳!



「……」



固まる俺をにこやか(?)に見つめる


大鬼オーガ。」



そこからは少し省略させてもらう。

…男の号泣なんて見てて気持ちのいいものじゃ無いだろ??


で、俺に起こった事の顛末はこうだ。


俺はスライムを倒す時に霊符ふだを使い、スライムは燃えて塵になった。


実はそれを見ていた人が居たのだ。

いや、人というか…鬼?


1人のオーガの少女である。


彼女は思った。火事だと。


彼女は家の教育が良かった様でとっさに「火事だーー!!」

と叫ぶと桶に水を入れ、自宅から丘に走っていった。


彼女は丘の麓に着くやいなや、ろくに確認もせず

こう、山なりに水をぶっかけた。


うん。火事になったら大変だもんね。うん。焦っちゃうよね。


少女の母親が着いた時には彼女は丘の麓でふんぞり返っていたらしい。


うん。君は正しいよ…



母親が確認の為に丘に登り、

頂でびしょ濡れになって気絶する俺を見つけたという訳だ。


まぁ、ケータイも水没して!連絡できるかもという一縷の望みは消えたけど!

霊符もびしょ濡れで乾かさなきゃいけないけど!

ちょっと溺れかけたけど!



俺を安全なところまで運んでくれたし?服もくれたし?

隣でオーガの少女は涙目になりながら謝ってくれたし?身長は俺より頭一つ小さい。11歳ぐらいかな?おめめパッチリで普通に可愛い。



そしてモンスターに襲われた時にやってしまった、齢9歳以来の失態の証拠も隠滅してくれたし……

あの時、こっそり洗濯機に投げ込むのがどんなに大変だったか…



「本当にうちの娘がすみませんねぇ!」


母親の名前はリーシャさん。

俺が居るのはリーシャさん家であり、オーガの里である。

ちなみにさっきの丘からは約3キロ程!

オーガは目がいいらしい。


「い、いえいえ!こちらこそ助けて頂いて…」


「ごめんねぇ」


隣で俺を心配そうに見つめるのはリンファちゃん。彼女の近くにはドラム缶のようなものが転がっているが、彼女はそれになみなみと水を入れて運んだようで。

オーガは力持ちらしい。



…よく俺死ななかったなぁ。



「そう言えばまだ名前を聞いてなかったね!」



「あっええとク、クロガネです!」

本名じゃねーか!



「いい名前だね。クロガネは人間の里から来たのかい?」




人間の里。


そうか、そうだよな。

俺を見ても警戒してないようだったし、この世界にも人間が居るのか…!


「なんというか記憶が曖昧で…」


リンファちゃんの目に涙がたまる。


「ちちち違うよ?!リンファちゃんの所為じゃなくて気が付いたら丘にいた…というか。」


我ながらとても怪しいと思う。


「そうか…なら、人間の里に行けばお前さんのことを知っているやつが居るかもな!

今日はもう遅いから明日連れて行ってあげるさ。あと、ご飯を用意してるから一緒に食べるか!」



殺されると思ったさっきの自分を殴りたい…




異世界に来て初めての食事はシチュー。なのに、とてもしょっぱかった。

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