エピローグ【アムール・エトランジュ】③



そして、いったん厨房に戻り、それぞれのテーブルへ前菜を運ぶ準備を始めた時、


「すみません」


またまた扉が開き、20代男性のお客様がやってきた。


「来週の金曜日に予約したいんですけど、大丈夫でしょうか?」

「はい、大丈夫ですよ」


あたしは空いている席にその男性を通し、予約内容を話しあった。

名前は、伊集院ルイさん……か。

ていうか、すごくイケメンじゃん。

何だか、フランス人みたいだな。


そして、少し話をして分かったことだけど、この伊集院さんは、どうやら、この店で彼女さんにプロポーズをする模様。

内容的には、照明をいきなり真っ暗にして、彼女さんとの思い出の曲をかけたあと、ケーキと共に指輪の入ったカクテルを持っていくことに決定。


そして、そのケーキのプレートには『リツコ、一生愛してるよ』という文字が。



もう最高!

こういうことされたら、感動して泣いちゃうに決まってるじゃん!



あ~、いいな~、あたしもこんな恋がしてみたいよ。

この何年か、まともに恋愛してないもんな。

最近、楽しかったことといえば、この間、たまたま行ったパロパロランドっていうゲームセンターで、ジャックポットに確変も重なってメダルを10万枚ゲットしたことぐらいかな。

あっ、そういえば、なんか10万枚のメダルで特典が貰えるって店員さんが言ってたな。

その時は、急いでいたからすぐに帰ったけど、とりあえず、今度行った時に、その特典と交換してもらおうかな。


あ~、でも、あたしの楽しみがそれぐらいってどうなのよ。

ていうか、絶対ダメじゃん。

とにかく、自分から恋を探しにいかなきゃ、何も始まらないよね。

お父さんだって、恋愛真っ最中なんだから、負けてられないっつーの。



よし!

恋をするぞ!

絶対、最高の恋をするぞ!



あたしは心の中でそう決心し、伊集院さんを見送るため、玄関の扉を開けた。

すると、一歩、足を踏み出した時、伊集院さんがくるっと振り返り、


「あの……ひとつ聞いてもいいですか?」


と、玄関上の看板を指さしながら尋ねてきた。


「このお店の名前……アムール・エトランジュってフランス語ですよね?」

「はい、さようでございます」

「実は僕、フランスと日本のハーフなんですけど、フランス語は全くできなくて……アムール・エトランジュって、どういう意味なんですか?」

「えっと、それはですね……」


あたしは看板を見上げながら言った。


「アムール・エトランジュとは『不思議な恋』という意味です。なぜ、この名前にしたかというと……」


確か、とあたしは言った。


「この世の中は、不思議な恋だらけ……ちょっとした巡り合わせで、色々な恋が始まる……料理も同じで、ちょっとした組み合わせで、今まで見たこともないような料理が生まれる……そんな感じで、ここのオーナーがつけたみたいです」

「へ~、素敵なお名前ですね」


伊集院さんはニコッと笑ったあと「では来週、楽しみにしています」と軽く頭を下げ、店をあとにした。



「不思議な恋……か」



あたしは1人、看板を見ながらポツリとつぶやいた。


あぁ。

いつかあたしも、不思議な巡り合わせで導かれるような最高の恋がしてみたいな。


「アムール・エトランジュ……うん、やっぱり、いい名前だね」


あたしは、星がキラキラと輝く夜空を眺めながら、そっと扉を閉めた。



『アムール・エトランジュ』



それは『不思議な恋』という意味を持つ素敵な言葉。





ようこそ


アムール・エトランジュへ




最高に不思議な恋が皆様に訪れることを祈って、美味しい料理を提供させていただきます。





素敵な時間をお楽しみくださいませ。








【END】



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アムール・エトランジュ ~どこかで誰かが不思議な恋~ ジェリージュンジュン @jh331

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