エピソード5【きみの未来を守るために】⑩
* * * *
そして、気づいた時には、僕は真っ暗な闇の中にいた。
煙の匂いは感じない。
ということは、タイムスリップは成功したと考えて間違いない。
だが、おかしい。
何かがおかしい。
暗闇だからだろうか。
何も見えない。
違う。
今までのタイムスリップとは何かが違う。
ここは、あの時の病院のトイレじゃない。
エレベーターの中でもない。
どこだ?
ここはどこなんだ?
僕は、分からなかった。
自分が、いつの日のどの場所にタイムスリップしたのか全く分からなかった。
いったい、ここは……
どこ……な……んだ……
…………
その時、僕は急激な眠気に襲われた。
そして一瞬で、そのまま、深い眠りに陥ってしまった。
* * * *
――2日後。
気づいた時には、僕は病院のベッドの上にいた。
隣には、うららがいる。
僕の隣のベッドには、うららがいる。
生きている、うららの姿がそこにあった。
そして、ようやく、僕は自分のいる場所が分かりかけてきた。
ここは病院。
でも、トイレに閉じ込められた時のあの病院ではない。
僕は驚いた。
今までのタイムスリップとは比べものにならないぐらい驚いた。
まさか、生まれた直後にタイムスリップするなんて
想像もしていなかった
でも確かに、赤ちゃんというのは、お母さんのお腹の中で充分に栄養をもらって成長したら、外に出たいと思うのだろう。
『閉じ込められていたお腹の中』から、外に出たいと思うのだろう。
お母さん、今まで栄養をくれてありがとう。
そう思いながら、お腹の外に出るのだろう。
そして、長い長い人生を歩いていくのだろう。
でも、まいったな……記憶は大人のままで、もう1度、赤ちゃんからやり直すなんて。
でも、いい……これでいいんだ。
もう1度、うららを守るチャンスを貰えたんだから。
ここから始まるんだ――――
前と同じく、病院のベッドの上で隣同士。
生まれた瞬間から、きみの隣にいられるなんて最高じゃないか。
うらら。
僕が守ってやるから。
君は、隣のベッドで泣くだろう。
おもいっきり泣くだろう。
でも安心して。
僕も一緒におもいっきり泣いてあげるから。
君を1人で泣かせたりしないから。
ねぇ、うらら。
運命は、やっぱりいずれ、きみの命を奪うかもしれない。
でも、僕は気づいたことがある――
そう。
看板の事故の時、うららはその日に亡くなった。
だけど、車の事故の時は、2日後の早朝。
うららが亡くなった日に、少しの誤差がある。
つまり、こういうこと。
ちょっとしたことで未来は変わっている。
やっぱり、未来は変えることができるんだ。
うらら。
きみは僕が守るから。
絶対に守ってみせるから。
ねえ、うらら。
とにかく、今はゆっくりおやすみ。
生まれたばかりなんだから、一緒にゆっくり眠ろうじゃないか。
泣いたっていいよ。
おもいっきり泣いていいよ。
僕も隣で泣いてやるから。
大きな声で泣いてやるから。
だから、今は
ゆっくりおやすみ
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