エピソード5【きみの未来を守るために】⑪
* * * *
――25年後。
「今日は、いい天気だな」
朝――
ベランダの窓を開けた僕は、頬に触れる心地好い風と、春の日差しを満喫していた。
あれから、25年が経った。
まあ、さすがに、小さい時はすごく気苦労が耐えなかったかな。
だって、体は子供でも、知識は24歳の僕なんだから。
特に、1歳や2歳の時は、いつから言葉をはっきり喋り出せばいいのか、いつも頭を悩ませていた。
そんなことばかりを考えていたら、逆に言葉を喋るのが他の子より遅くなってしまって、母親が病院に相談に行く始末。
小学校や中学校の勉強にしても大変だった。
テストは、普通にやれば、毎回100点近くになってしまう。
そうならないように、微妙に調整するのが毎度のことになっていた。
ちなみに、高校に入学してからは、割と普通に生活できたから、かなりホッとしたのを今でも覚えている。
とまあ、こんな感じで、僕は順調に成長していった。
そして、僕の隣には、小さい頃から常にうららがいた。
ずっとずっと、いつも、うららが側にいた。
25歳になった僕の隣にも、変わらずうららは側にいる。
「マコト~、朝食の用意できたよ~」
「あぁ、すぐ行く」
僕は、小鳥のさえずりを聞きながら窓を閉め、リビングへと向かった。
どうやら、うららが朝食の準備をしてくれたようだ。
実は今、僕はうららと結婚して2人で住んでいる。
籍を入れたのは、大学を卒業して社会人になってすぐのこと。
うららはびっくりしていた。
だって、付き合い始めて、たった1ヶ月後にプロポーズしたんだから。
でも、うららは快く受け入れてくれた。
笑顔で『よろしくお願いします』と言ってペコリとお辞儀をしてくれた。
これが、僕が考えた末の、うららの命を守る秘策だった。
浦本羅々が、あの日、命を奪われるのなら、それまでに別の人間になればいい。
そうすれば、未来は変わるんじゃないのか。
僕はそう考えていた。
だから、
だからなんだ。
僕と結婚して『春野羅々』になればいい。
そういう結論に達したんだ。
プロポーズをした場所は、あのフランス料理店『アムール・エトランジュ』
あの日、付き合って半年目のお祝いが出来なかった場所で、どうしても新しいスタートをきりたかったからだ。
うららを待っている間、僕はプロポーズしたあとのことを考えていた。
きみは嫌がるだろう。
結婚したら『春野羅々』になることを。
♪春の~うららの~♪
また、そんなふうに歌われるんじゃないかと嫌がるだろう。
でも、喜んでくれるだろう。
僕と結婚することを喜んでくれるだろう。
そんなことを考えたら、自然と笑みがこぼれていた。
そして『浦本羅々』から『春野羅々』に変わったからだろうか。
うららのあの事故があった日は、何事もなく通り過ぎて行った。
あの事故の日から2年が経った今も、僕たちは穏やかな日常を過ごしている。
ちなみに、あの自販機は、半年ほど前に撤去されて無くなっていた。
あれは何だったんだろうか?
ひょっとしたら、前に進めない僕を見かねて、神様がチャンスをくれたんだろうか。
分からない。
やはり、そこまでは分からない。
ただ、あの自販機が無くなったことによって、僕が過去に戻ることは、もうできなくなった。
これから、もしかしたら、再び何かの事件が起こるかもしれない。
でも、僕が守っていく。
うららの未来は、今度こそずっとずっと僕が守っていくんだ。
「マコト、美味しい?」
「あぁ、うららが作ってくれる朝食は、いつも最高だよ」
「もう、口がうまいんだから~」
「ハハッ、本当の気持ちだよ」
「アハハ、だったら嬉しいな」
朝──
窓から、春の日差しがこぼれてくる。
素晴らしい朝の世界に、僕とうららは一緒にいた。
とりあえず、今はじっくり味わおう。
うららが作ってくれた、フレンチトーストとスクランブルエッグ、そして素敵な香りのエスプレッソ。
「うらら、愛してるよ」
「私も愛してるよ、マコト」
とりあえず、今はじっくり味わおう。
うららが僕の側にいることを。
この素晴らしい朝を一緒に迎えられることを。
僕とうららの間には輝ける未来があることを、じっくり、ゆっくり味わおう。
何も恐がることなんかないさ。
だって、そうだろう?
未来は
自分で変えていけるんだから
【To be continued】
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