エピソード4【シンデレラは恋をする】③
* * *
――女房が再婚したと聞いてから1ヶ月後。
俺は、何ひとつ変わらない日常を送っていた。
会社での表向きは部長職だし、仕事はまあ、問題なく順調だ。
だが、やはり、心にポッカリとあいた穴は埋まらない。
あぁ、あいつは再婚したのか――
ちょっと気を抜くと、そればかりが頭の中に居座ってしまう。
でも、しょうがない。
これは、全て俺が招いた結果なんだから。
俺が全て悪いんだから。
「もう、こんな時間か……」
日もどっぷり暮れ、腕時計にチラッと目をやると、もう7時を回っていた。
「さてと……そろそろ、今日の仕事は終わりにするか」
最近の俺は、クリアラバーズの取引きがない日など、仕事が終わると寄り道もせずに、すぐに家に帰るようになっていた。
ふっ……皮肉なもんだ。
家に誰もいなくなってから、帰るのが早くなるなんて。
何だろう。
何だか、飲みに行く気力も近頃は無くなってきたんだろうな。
無気力――
今の俺は、まさにそんな感じだった。
「よし、帰るか……」
俺は席を立ち上がり、コートを羽織り始めた。
――すると、その時。
「あの……」
小さな声で、俺を呼び止める声がした。
「部長、ちょっとよろしいですか?」
声の主は、俺の部下でもある事務の近藤恵子。
年は、確か28歳。
その近藤恵子が、俺に話しかけてきた。
「どうしたんだ? 仕事で分からない事でもあるのか?」
「あっ、いや、その……」
彼女は小さな声で言った。
「今晩、お時間ありますか?」
「え?」
「ちょっと、ご相談したいことがあるんですが……」
彼女は、そう言うと、うつむいたまま何も言わなかった。
おそらく、彼女は精一杯の勇気を出して、俺を誘ったのだろう。
俺は、日頃から彼女とは親しかった。
と言っても、もちろん恋人関係などではない。
何と言うか、放っておけない。
俺にとっての彼女の存在は、そんな感じだ。
実は、彼女は孤独な幼少期を送っていた。
複雑な家庭だったようで、身内は父親だけ。
本当にやさしくていいお父さんだったようだ。
しかし、その父親も、彼女が小学3年生の時に、病気で他界。
それからは、身寄りもなく、高校卒業まで施設で育ったらしい。
そして、亡くなった父親と俺の雰囲気が似ていると、以前、飲み会で聞いたことがある。
だからだろう。
だから、俺に安心感を抱くのだろう。
そして、俺から見ても、自分の娘のようで、できるだけ力になってあげたいと日頃から思っていた。
「かまわんよ。ファミレスでいいかい?」
「はい! ありがとうございます!」
彼女は、嬉しそうにペコリと頭を下げた。
ハハ。
ファミレスでこんなに喜んでくれるなんて、本当にいい子だな。
俺はコートに身を包みカバンを抱えると、職場をあとにした。
さてと。
久しぶりに外食するか。
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