エピソード2【草食系は大嫌い!】⑦




「最高だぜ……」



へ?



「俺は最高に美しいぜ! ベイベー!」



あ、あの……




「宇宙で1番美しいのは、この俺様だぜぇぇぇぇ~~~~~~!! フオォォォォ~~~~~~!!!」




うそやん~~~~!

混ざってもうた~~~~~~!!



ナルシストと肉食が混ざって、豪快で乱暴な自分大好き人間になってもうたやん~!

全身鏡の前で、いつのまにか上半身裸になり、両手を広げ絶叫しとる~!!


い、嫌や!

こんなん、コウスケやない!

うちの好きなコウスケは、やさしくて言葉遣いも丁寧で、笑顔がかわいくて、そして、なにより、うちを愛してくれる。

うちは、そんなコウスケが大好きなんや。

そんな草食系のコウスケが大好き……


「あ、あれ……?」


――その時やった。


「あっ……」


うちは、こんな状態になって初めて気がついた。

そう。

コウスケ自身を、真正面からちゃんと見てなかったことに。

肉食系になってほしいとか、もっと引っ張ってほしいとか、うちの理想だけを追いかけとった。

でも、コウスケは、着せ替え人形やない。

うちの理想に近づけるために、コウスケは存在しとるんやない。


「あぁ……うちは、あほや……こんな大事な事に、ずっと気づかへんかったなんて……」


今まで半年間、コウスケと付き合ってきた。

肉食系が好きと言いながら、文句ばかり言いながら、でも、別れへんかった。

それは、やっぱり、コウスケが好きやから。

草食系で、お菓子作りが上手なコウスケが好きやったから。


たぶん、うちは、コウスケにとって完璧な彼女やないと思う。

でも、コウスケは、うちの良い所をさらに好きになってくれる。

うちはコウスケの良い所よりも、ほんのちょっとの不満を大きくしすぎとった。


「やっと……やっと分かったわ……」



うちは、ありのままのコウスケが好き――――



せやから、肉食系やなくてもええねん。

草食系のコウスケが、大好きやねん。


何やろう。

何で、こんな簡単な事に気がつかへんかったんやろう。

不思議やな。

今になって、はっきりと分かるわ。


「コウスケ……」


うちは、急いでお風呂場に、お湯の入った洗面器を取りに行った。


「コウスケ……今、元に戻したるからね……」



バシャ!──



そして、洗面器に入れたお湯を、コウスケの頭にぶっかけた。

──すると。


「何しやがんだ!」


コウスケは、顔を真っ赤にして怒りをあらわにし始めた。


「俺の最高に美しい髪型が無茶苦茶じゃねぇか!」


コウスケ……


「くそ! 早くセットしなければ!」


お願いや……


「俺の美しい顔が!」


元に戻って……


「最高級のメイクもしなければ!」


草食系のコウスケに……


「俺の……」



戻って……



「美しい顔が…………」



お願いや……戻って……



うちは、神様に祈るような気持ちで、両手を胸の前で合わせお願いをしとった。

戻してください。

コウスケを、元に戻してください。

草食系のコウスケに戻してください。

その言葉だけを、心の中でずっとつぶやいとった。

――すると、次の瞬間。



「……あれ?」


え……?


「うわっ! びしょびしょ! もう、ユカちゃん! いきなり何するんだよ~」


あっ……


「見てよ、これ~。髪の毛も服もずぶ濡れだよ~」


そこにおったのは、紛れもなくいつものコウスケ。

やさしい穏やかなオーラを身にまとい、うちが好きな草食系のコウスケがそこにおった。


「コウスケ……」


うちは、自分でも気づかへん間に、涙がこぼれとった。

会いたくて会いたくてたまらんかった、草食系のコウスケがそこにおる。

大好きなコウスケがそこにおる。


「コウスケ!」


そして、子供のように泣きながら、おもいっきり抱きついた。

もう離さへん。

うちだけを見てくれるコウスケを、何があっても離さへん。


「コウスケ……めっちゃ、大好き」

「えっ? どうしたの、ユカちゃん?」

「ううん、何でもないねん……何でもないんやけど……」




もう少しだけ



このままでいさせてな





うちが好きなのは肉食系。


でも、それはもう過去の話。


だって、うちが好きなのはコウスケ。


そして、コウスケは草食系。


だから──



うちは、草食系が大好きやねん




『チェンジング・フレグランス』



うちには、もう必要ない。


だって、コウスケは、変わる必要がないんやから。


うちが好きなのは、ありのままのコウスケ。




草食系のコウスケやから。






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