エピソード1『ゲームと私』⑩



* * *



――10分後。


私は息を切らしながら、再び、パロパロランドに戻ってきた。


「今度こそ……」


そして、クレーンゲームの前に立ち、5回目のプレイを開始。


「右……前……もうちょっと後ろ……」


相変わらず、アームは私の分身のように動いてくれる。


「よし、ここだ……」


3番のボタンを押されたアームは、私の期待を全て背負い、ハンターのようにカプセルを狙って下がり始めた。


「よし! つかんだ!」



コトン――



で、出た!

運命を決めるカプセルが、マシンの内部から落とし口を経て、私の目の前に現れた。


神様!

今度こそ、素敵な恋を与えてください!

私は祈るような気持ちでカプセルを手に取った。


「え……?」


すると、私の二つの目が、カプセルを見つめたまま、瞬時に凍りついた。

なぜなら、そこには、こういう文章が映し出されていたからだ。



《別れるあなた》



な、何……?

これは何なの……?


「わ、別れる……?」


ちょ、ちょっと待ってよ。

嫌だよ。

こんなカプセル嫌だよ。

出会いを求めているのに、別れるなんて真逆じゃない。


「す、すみません!」


私は、慌てて前島さんに声をかけた。


「こ、このカプセルいらないんで、もう1回お願いします!」

「中川様……それは、できかねます」


前島さんは、冷静に首を横に振った。


「このクレーンゲームは、5回までとなっております。続けてご希望の場合、さらに10万枚のメダルと引き換えになります」

「あっ……」


そうだ。

そうだった。

私は、すっかり忘れていた。


5回──


このゲームがプレイできるのは、5回までだった。


「じゃ、じゃあ……これ、お返しします」


私は、交換条件なしで、すぐさまカプセルの返却を提案。

だって、これしか方法がないから。

『別れる』ってカプセルを持っていたって、いいことなんかあるわけがない。

だから、返却するのが最善の策だ。

――しかし。


「中川様……」


前島さんは、再び首を横に振りながら言った。


「それも、できかねます」


え……?


「厳密に言うと、もう手遅れということになります」

「手遅れ……?」

「ええ……」


前島さんは、丁寧に頭を下げながら言った。


「以前にもご説明いたしましたが、最後のカプセルに関しては、ゲットした瞬間に効果を発揮してしまいますので」

「あっ!」


そ、そうだった。

前島さんは、確かにそう言っていた。

このカプセルは、私の思いによって結果が左右される。

でも、最後だけは違う。

私の思いに関係なく、ゲットしたと同時に、そのカプセルにインプットされた情報の最善の結果を自動的にもたらしてくれる。

これが、このゲーム、最大の魅力だと言っていた。


でも、それは今までのカプセルの文面ならありがたい話。



《別れるあなた》



この文面なら、私は誰かと別れなければならない。

いくら、最善の結果が出ても、誰か1人の人と別れなければならない。


嫌だ。

そんなの嫌だ。


「ど、どうしよう……」


何で、何でこんなことに……

私は、ただゲームを楽しんでいただけなのに……


「あっ……」


そうか……私は、ゲームに負けたってことか……

こういうカプセルが出るのも、よく考えれば想像ができたはず。

でも、最初にいい文面が出ていたから、私にそういう思考は全くなかった。



私はゲームに負けたんだ──



メダルが無くなるのと同じで、ジャックポットを当てることができなかったんだ。


これは私の結果。

ゲームに負けた私の結果なんだ。


「失礼します……」


私は前島さんに軽くお辞儀をし、カプセルを握りしめ、その場をあとにした。




いずれ襲ってくるであろう『別れ』を考えながら。






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