エピソード1『ゲームと私』⑧



* * *



――1週間後。



「ハァ……」


仕事が終わって家に帰った私は、ベッドに横たわり、大きなため息を吐き出していた。

あれから、1週間が過ぎた。

ルイとは、マンションの前ですれ違った時など、挨拶をする程度だが、変わらず仲良く接している。

でも、それ以上の進展はない。


「ん~……」


ひょっとして……あのカプセルの内容通りってことなのかな。

つまり、


『最高に素敵な出会い』


っていうのは、現実になった。

でも、別に、


『これから、その彼と付き合って最高に幸せな日々を送る』


なんてことは、一言も書いていないわけで……

じゃあ……そこから先は、私次第ってことなのかな。


「あれ……?」


ちょっと待って……他のカプセルは、いったいどんな物があるんだろう?

ん~、やっぱり見てみたいな。

でも、そうなると、このカプセルは返さなきゃいけないんだよね。


「う~ん……」


まあ、いいか。

これ以上は、何も進展がなさそうだし。


「よし!」


もう1度、ゲームにトライしよう。

せっかく、あと4回もチャンスがあるんだから。

とりあえず、今のカプセルを返却して、2回目のチャレンジをしてみよう。

そうすれば、今度はもっとルイとの恋が進展するかも。


「あっ、それとも……」


世界でも数少ない、超すごいセレブと知り合いになれたりして……

そして、ゆくゆくは、色んな国を自家用ジェットで飛び周るような生活になったりして……


「うふっ」


うふっ、うふっ。

やだ。

何だか楽しくなってきちゃった。


「よ~し、行くぞ~!」


私は近くにあった上着を羽織い、鼻歌まじりで、もう1度パロパロランドに向かった。



――40分後。



再び、パロパロランド3階の奥にある特別室に、私は足を踏み入れた。

前と変わらず、部屋の中央には例のクレーンゲームがスタンバイ。

私の夢を叶えてくれるマシンがそこにあった。


「いらっしゃいませ、中川様」


前島さんは、前回同様、丁寧なお辞儀で私を出迎えてくれた。

私も軽く頭を下げたあと、前回ゲットしたカプセルを前島さんに差し出した。


「あの……このカプセル、お返しします。その代わり、もう1度クレーンゲームをさせて下さい」

「かしこまりました」


前島さんは言った。


「ですが、このカプセルの効力は無くなりますよ。よろしいですか?」

「はい、大丈夫です」


私はコクリと頷いた。

だって重要なのは、今の状態を維持することよりも、前に進むことなんだから。

だから大丈夫。

このカプセルの効力が無くなることには、何の後悔もない。


おそらく、これから、ルイに会うことは無くなるだろうな。

いや、別に隣に住んでるんだから、会う可能性はいくらでもある。

でも、今までが異常すぎた。

ドアを開ければルイに会う。

そんな感じだったもんな。

確かに毎回『最高に素敵な出会い』はしてたよね。


でも、ダメ。

それじゃ、ダメなのよ。

ずっと続く恋に進展しなくちゃ意味ないのよ。


よし!

やるぞ!

このクレーンゲームで、もっともっと凄いカプセルをゲットしてやる!



――5分後。


「つ、つかんだ! そのまま! そのまま落とし口まで!」


私が操作するアームは、カプセルをがっしりと掴んでいた。

あとは、落とし口まで!

アームさん!

私の夢を乗せたアームさん!

そのまま落とさないで、私の元へ持ってきて!


私は、心地のいい緊張感を味わいながら、アームの行方を見守った。


――そして。


「あっ!」



コトン――



「やった!」


小さな音を響かせ、落とし口にカプセルが払い出された。

私は、急いでそのカプセルを、両手で大切に握りしめた。


「次は、いったい……」


どんな内容がインプットされているんだろう?

胸のドキドキが高鳴る中、急いでカプセルの内容を確認。

──すると。


「え……?」


そのカプセルの液晶画面には、こう映し出されていた。



《想像もしない刺激的な出会いをするあなた》



はっきりと、こう映し出されていた。


やった!

これは激しい恋の予感!


「よし!」


私は、両手で小さくガッツポーズをした。

すると、そんな私に向かって、


「申し訳ありません、中川様」


前島さんが、私に頭を下げながら言った。


「また1つ言い忘れていたことがございます」

「え?」

「そのカプセルは、同じ日に限り再度プレイをすれば、3つまで同時に併用可能です」

「そうなんですか?」

「ええ。どういたします?」

「ちょ、ちょっと待ってくださいね」


3つまで……併用可能……か。


私は、部屋の隅を腕を組んで歩きながら考えた。

え~と……今、ゲットしたカプセルの内容が……


《想像もしない刺激的な出会いをするあなた》


だよね……


確かに、このカプセルだけじゃ、また出会いだけで進展しないかもしれない。

もし、次のカプセルの内容が良ければ、私は新しい恋、そして結婚までいけるかもしれない。


現状維持より前に進む。

私はこう決めたから、もう1度ここに来たんだよね。


じゃあ、やるしかない。

恋を光の速さのごとく進展させるためには、もう1回、ゲームにチャレンジするべきだ。


「お願いします!」


私は、クレーンゲームの前に小走りで駆け寄った。


「もう1度、ゲームをします」

「かしこまりました。では、いつでも始めてくださいませ」


前島さんは、ニコリと微笑み一礼。

私は再び、クレーンゲームをプレイした。

──そして、1分後。



コトン――



「よし!」


慣れた手つきで順調にアームを操作した私は、短時間でカプセルをゲット。

沸き上がる期待感と共に、落とし口に急いで手を伸ばした。


次はどんな内容なの!?

どんなに素晴らしい文章がインプットされてあるの!?


私は、焦る気持ちを抑えながら、カプセルに目をやった。

すると、そこには、こう映し出されていた。



《ずっと続いていく恋に直面するあなた》



はっきりと、こう映し出されていた。


「や、やった!」


き、きた!

これは期待できる!

だって、ゲットした2つのカプセルの文面を合わせると、



《想像もしない刺激的な出会いをして、ずっと続いていく恋に直面する私》



って、ことになるもんね。

これは、期待できる。

期待せずにいられますかっての。

私の頭の中は、すでにバラ色のお花畑。

きらびやかな蝶々もいっぱい飛び回ってるときたもんだ。

今の私にはツキがある。

何だか、どんなゲームにも勝てるような気がするわ。

よ~し、こうなったら……


「すみません! もう1回プレイしてもいいですか!?」

「かまいませんよ。どうぞ、チャレンジしてくださいませ」

「ありがとうございます!」


私は勢いに身を任せ、本日3回目のゲームにトライ。

すると、カプセルの内容はこうだった。



《おもいがけない大金を手にするあなた》



それは、誰がどう見ても最高の内容。

とても素晴らしい文章が、私の目に飛びこんできた。


「ということは、この3つのカプセルの文章を合わせると……」



《想像もしない刺激的な出会いをして、ずっと続いていく恋に直面し、さらにおもいがけない大金を手にする》



って、ことだよね!?


「やった! やった!」




やった~~!



私もついに!




セレブの仲間入りよ~~~~~~!!







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