エピソード1『ゲームと私』③
* * *
「うっわ~! 大きいね~!」
ファミレスから少し歩き数分後、私たちは駅前のゲーセンに到着していた。
まず、びっくりしたのは、その店舗の大きさ。
3階立てで、フロア面積は250坪ほど。
1階が、主にプリクラとクレーンゲーム。
2階が、メダルコーナー。
3階が、ビデオゲーム。
とまあ、大まかに言うと、こんな感じの作りだった。
「パロパロランド……か」
ゲーセンの名前は『パロパロランド』
大きな看板には、この店のキャラクターと思われるサングラスをかけたクマの絵が、でかでかと書いてあった。
「あっ、このサングラスのクマって……」
何だか見覚えがあるな。
あっ、そうだ。
そういえば、この間のニュースでやってたな。
このゲーセンは、今、急成長している企業が経営している店だ。
不況の中、業績は右肩上がりで、どんどん店舗を増やしているって言ってたな。
そうか、あのゲーセンなのか。
そりゃ、大きいはずだな。
「さっ、リツコ、中に入ろうや!」
「う、うん」
私は、ユカッチに腕を引っ張られ、店内へと入って行った。
――10分後。
「す、すごい!」
少しの間、店内を物色したあと、2階のメダルコーナーに移動。
そこで、私は度肝を抜かれた。
というのは、幼い頃に遊んでいたメダルコーナーというのは、本当に小さくて単純なマシンばかり。
だから、規模の大きさに、開いた口が閉まらなかった。
びっくり。
ひたすら、びっくり。
大型のマシンがずらりと並び、奥には、パチンコやスロット、大きなスクリーンに映し出される競馬のゲームなどが、店内一面に溢れていた。
カジノだ。
パッと見た感じは、カジノだ。
普段ゲーセンになじみのない私にとっては、それぐらいの大きなインパクトだった。
「ほな、リツコ。うちが預けとるメダルがあるから、一緒にやろうよ」
「え? メダルって預けられるの?」
「うん、そうやで。預けといたら、いつでも遊べるんやで」
「そうなんだ~」
す、すごいな。
ユカッチは、こんな魅惑のワンダーランドへ、しょっちゅう立ち寄ってたのか。
どうしよう。
何だか楽しくなってきた。
メダルゲームなんて子供の遊びだと思っていたけど、今の時代は違うんだ。
大人が楽しめる作りになっているんだ。
そして、ユカッチは、メダルの自動預け払いマシンに暗証番号を入力――
「この機械から、預けといたメダルを引き出すことができるんやで」
「へえ~、そうなんだ」
「うん、見といてな」
さらに右手の静脈を認証させて、ロック解除。
す、すごい!
なんて、ハイテクなの!
未来だ!
この空間は未来だ!
「ユカッチ! す、すごいね!」
「ちょ、ちょっと、興奮しすぎやって!」
私は、はた目から見たら気持ち悪いぐらいに、テンションがどんどん上がりつつあった。
普段、全く近づかない空間だけに、見るもの全てが新鮮で眩しかったからだ。
そして、メダルカゴには、ユカッチがストックしていた枚数が払い出されていた。
「ねえ、ユカッチ」
私は、目を輝かせながら言った。
「いったい、何枚ぐらいあるの?」
「そうやね~、ちょうど、このカゴ1杯分やから千枚ぐらいちゃうかな」
「え!?」
せ、せんまい~~!?
「すごいじゃない! そんなにあるなら、早くお金に換金しようよ!」
「アハハ、あほか」
ユカッチは、笑いながら私のおでこをペチンと叩いた。
「パチンコ屋やカジノじゃないんやから、そんなことできるわけないやん。あくまで、メダルゲームはお遊びやねんて。分かった?」
「あっ! そ、そっか!」
そうだよね。
そこ、肝心だよね。
これは、あくまでもお遊び。
メダルは、この空間だけで使えるお金のようなものだもんね。
「よ~し!」
じゃあ、楽しもう。
この空間で、大金持ちの気分を楽しもう。
ユカッチ、ありがとうね。
ここに来て良かったかも。
あのまま1人で帰ったら、私はきっと部屋で泣いていた。
目の下のクマを、さらに大きくしながら泣いていた。
ずっとずっと朝まで泣いていた。
ありがとうね、ユカッチ。
すっごく感謝してるよ。
「よし、ほんじゃ、今日はこれにしよかな」
5分ほど店内をまわったあと、ユカッチは、中央にある一際大きなマシンの席に座った。
そのマシンの名は『トリニティー・フィーバー』
15席あり、直径6メートルほどの円盤状のマシンだった。
「じゃあ、だいたいの遊び方を教えるね」
「う、うん」
ユカッチは、事細かに遊び方の説明をしてくれた。
このマシンは、大まかに言うと、プッシャー式のメダル落とし。
要は、メダルを投入して、動いているテーブルに押し出された分のメダルが自分の手元に払い出されてゲットできるということ。
だが、これだけではない。
この程度の仕組みなら、私の小さい頃にも似たようなマシンはあった。
でも、違う。
ここからがハイテク。
投入したメダルが、スタートチャッカーに入ると、画面のスロットが回り、ドラゴンの絵柄が3枚揃うと、ジャックポットチャンスに突入できるという。
『ジャックポットチャンス』
それは、このマシン最大の魅力。
もし、ジャックポットに入れば、すごいイベントモードになり、大量のメダルが払い出される模様。
しかも、確変なら、それの何倍もゲットできるようだ。
まあ、ユカッチの話では、その確率は、ほんとに小さいらしいけど。
でも、ユカッチはいいな。
こんな楽しい所に、彼氏と2人でいつも来てるんだもんな。
それに比べて私は……
あっ!
ダメだ! ダメだ!
こんな所でネガティブになっちゃダメだ!
せっかくユカッチが、最高のレジャースポットに連れてきてくれたんだから!
「よし!」
楽しまなくっちゃ。
う~ん、そうだな。
やるからには、ジャックポットを狙ってやる。
大量のメダルをゲットしてやる。
私は、自分に気合いを入れながら、ふと店員さんが作業をしているカウンターのほうに目をやった。
「ん……?」
すると、少し気になる物を発見。
「ねえねえ、ユカッチ」
そしてすぐさま、カウンターの壁に張っているポスターを指さして言った。
ちなみに、そこには、こう書いてあった。
《目指せ! 保有メダル枚数10万枚! 素晴らしい特典があるよ!》
「あれ、何だろう?」
「さあ、なんやろね……」
ユカッチは、唇を尖らせながら首を傾げた。
「でも、10万枚なんて絶対無理やで」
「やっぱり、そうなんだ」
「まあ、このマシンでジャックポットを当てて、確変がずっと続いたら可能かもしれへんけどね」
でもな、とユカッチは言った。
「めっちゃ、運が良くなかったら、まず不可能やね」
「そっか~」
私は腕を組んで、深く頷いた。
「じゃあ、宝くじを当てるようなもんだね」
「まあ、ほんま、そういう感じかな」
ユカッチは、笑いながら言った。
「でもまあ、せっかくやから、10万枚狙って頑張ってみよか」
「うん! やろう、やろう!」
私はピョンピョンと小さく飛び跳ね、体全体で楽しさを表していた。
よし。
新たな目標も出来たぞ。
絶対にジャックポットを狙ってやる。
大量のメダルをゲットしてやる。
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