彼女の断片

汚れた詩

彼女の断片

  __視界の隅に映る断片、僕は知らず知らずのうちに彼女を追い求めていた。


  …夢〈野原に佇む彼女、後ろ姿。風が優しく包み込む〉〈追っても追っても彼女の元へと辿り着けない。おかしい。これは蜃気楼?いや僕は夢を見ているのだろう〉

  …起床。「夢の自覚」によって僕は目覚める。なんだか不思議な気分だ。それに鈍い頭痛が教会の鐘をついたようにする。ベッドには知らない女の子。昨夜は酒を飲みすぎた。


  女の子Aと後列で受ける講義。ガヤガヤ。いつから大学は動物園になったのだろうか?前列、チラッと見えた気がした彼女の後ろ姿。顔は見えない。姿を見失う。なにをやってるんだ僕は、虚構の住人が境を超えて現実にやってきたとでもいうのか。少し、疲れているのかもしれない。


  カフェで女の子Bとランチを食べている。彼女はひとりカウンターに座っている、ような気がする。顔は見えない。居るような気がして、居たような気がして、彼女の姿を追ってしまう。女の子B「ねぇ、○○くん。○○くん!ねぇってば!さっきから何を探しているの?私の話聞いてる?」僕「あぁ、ごめんね。全然、何でもないんだ。ところでなんの話だったっけ?」女の子B「なんだかうわの空ね。他の女のことでも考えていたんでしょう?そういうの分かっちゃうのよ。もう、今日は帰るわ」女の子Bが席を立つ。全く女は面倒だ。


  公園。木々の間をチラチラ見え隠れする彼女。揺れるスカートの裾を捉えたような、気がする。顔は、やはり見えない。その全体像を捉えることは、出来ない。


  シーンの連続。重なる彼女の断片。やがてピースは埋まり、一つの像へと結実する。


  気が付けば彼女はだんだんと僕の近くへ、そして僕の隣へ、僕の本質へと侵食してきていた。僕は彼女と講義を受け、ランチを食べ、公園を歩いている。


  僕は彼女と同棲する。僕はベッドに伏せ、まどろみの中、エプロンをした彼女の後ろ姿を見つめる。台所に立つ彼女の足、リズミカルな包丁の刻み。振り向いた彼女の顔が見たい。力強く彼女を抱きしめたい。


  僕と彼女は裸になってベッドで向かい合う。そして見つめ合う。視線は下から上へとスライドする。


  さぁ愛しい君よその顔を僕に見せておくれ。


  (彼女の顔が見えるか見えないかといったときに、「僕」の顔が映し出され、「僕」は「僕」と抱き合います。終わりです。)

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彼女の断片 汚れた詩 @drydrops

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