第3話
そんなわけで俺たちは、中学3年生にして天涯孤独になってしまった。
湊の祖父母も俺の祖父母も、もうずっと前に亡くなっていた。そのうえ俺たち二人の両親は全員一人っ子で、親戚は本当に誰もいなかった。ここまで境遇が一緒だと、時々本当に双子で同じ家に生まれたのではないかと思えた。お父さんとお母さんが二人づついる家庭。意外と違和感ないんじゃね?なんて湊は言っていたし、俺も同感だった。
その四人の親を一遍に失うということは、客観的に見てもだいぶ悲惨な状況だろうと思った。それでも湊からも俺からも涙は結局零れなかった。ヤツは知らないところで泣いていたのかも、などと考えたが俺が知らないうちに湊が涙を零せる訳がなかった。知らないところなど考えれば考えるほど、俺たちはお互いになかったから。
ともかくそれから色々な人にお世話になった。役場の人や、学校の先生、そう遠くないところに住む、米じぃと柿ばぁ。米じぃと柿ばぁに至っては、いまだに食事でお世話になっている。
というのも、料理など一切できなかった湊も俺も両親がいなくなると食事に一番困った。この小さな町にはコンビニなんてないし、弁当屋があるわけでもない。自分たちでなんとかしようとすると、毎日町の端っこにあるラーメン屋に通わざるをえなくなる。
そんな俺たちに朝ごはんを作ってくれ、夕飯を作ってくれるのは柿ばぁだった。休日くらいはなんとかできる様にしろと、突き放す様に言うのは米じぃだ。でも、俺たちの将来を心配して言ってくれているのは湊も俺も最初から知っている。米じぃの口癖は「この命、そう長くねぇ。」だし、週に一回は欠かさず俺たちの家に自分が作った新鮮な野菜や米を届けてくれる。
おかげで俺はだいぶ料理ができるようになったと思う。湊はお世辞にも上手とは言えないが、ヤツなりに頑張っている。それでも俺たちが米じぃと柿ばぁのうちでご飯を食べさせてもらうのは、ひたすらに俺たちの甘えだ。
二人でご飯を食べても、やはりどこか味気ない。高校生にもなって恥ずかしい話だが、きっと俺たちは寂しいのだ。「おかえり」が返ってこないのをわかっていて「ただいま」を言うことも、誰の気配もしない暗い家も、ただひたすらに腹の奥底に居座る寂しさを刺激する。おかしな話だが、二人でいるのに寂しいのだ。
それはきっとお互いの存在が当たり前すぎて、自分とは別の人間であるという感覚が薄いから。だから二人でいても、まるで一人でいるような寂しさがいつまでも治らない風邪の様にまとわりつく。
そんなことを米じぃも、柿ばぁもわかっていて甘やかすし、湊も、俺もわかっていて甘える。2年経った今でも甘えている。米じぃの口癖が現実として訪れたとき、俺たちはどうなるだろうと他人事の様に考える。今度は涙するのだろうか。それとももう俺たちが涙を流すことは一生ないのだろうか。やっぱりどんなに考えても、俺にはまったくわからなかった。
求めたのはきっと雨じゃない オノマトペとぺ @General
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