命懸けの脱走劇1
紅茶といえば、市販のティーバックでじゃぶじゃぶとして飲むものであり、
香りもそこまでなく。ただ体を温めてくれるものだと思っていた・・・。
高級なカップとソーサーにガタガタ震えながらお茶を飲む。
なんてとても良い香りなのだろう!
お茶請けのクッキーは芳醇なバターの美味しさが広がり、どこかの貴族のティータイムかと錯覚してしまいそうだ。
「貴生川さん、それで新作はどういう感じにするの?」
サギはワクワクした素振りを見せながら紅茶に大量に砂糖を入れている。
「新作って言われても」
そこで俺は自分が銃口を向けられたことを思い出す。
「今は・・・スランプなんだ!」
書けない「理由」をこいつに言ったらきっと撃ち殺されるに違いない。俺は書きたくない時によく使っている「スランプ」という単語を口に出してごまかす。
「スランプっていつ位続くの?」
「そうだな。いつかはわからない。作家というのは毎日コツコツ続けることで成果が出るものじゃない」
もちろん口八丁だ。
言い訳することには長けている。
サギの方を向くとへえ、と言いながら
「やっぱり作家さんってすごいねえ」
とニコニコしながらさらに砂糖を追加している。
コイツ・・・飲む気あるのか?
「ま、時間はあるし!ゆっくり考えてよ!俺もサポートするからさ!」
サギはそう言い終わると、勢いよく紅茶を飲んだ。
「あ、ああ」
なんとか言い訳で俺の命は繋がった。
さあ、問題はここからだ。
どうやってここから脱出するか。
初めからこれしか考えていない。こんな物騒なところに俺は居るべきではないのだ。早くあのアパートに戻り、死ぬように寝たい。
まずはサギがどうやったらこの場から居なくなるか・・・。
アパートからここまでサギはずっと着いてきている。巻くのは中々難しいだろう。
「うっ・・・」
その時、サギが呻きだした。
「どうした?」
俺は慌てながらサギに近寄る。
すると
「紅茶の利尿作用かな?ちょっとトイレ行ってくる」
そう言って、サギは部屋から出て行ってしまった。・・・なんだ、焦って損をし・・・
俺、今、一人?
バッと辺りを見回すが、人の気配はない。
居たとしても、きっとドアの外だ。
・・・好機。
俺は、窓を開いた。そこは広い庭。大きな気。そして人の気配はない。
やるしかない!
俺は窓を開き、外に出た。
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