第135話 絶海の孤島ドラゴニル

 ザクスリードから飛び立ったレブルゼーレは、超速との言葉通り馬鹿げた速度で飛行した。

 まるで竜巻の風を翼で砕くような轟音を響かせながら、同時推進力を得てぐんぐんと進んでいく。

 先頭で手綱を握るわしはしばらくの間、皆の風よけみたいな役割を担っていたのだが。気を利かせたクロエが風よけの結界を張ってくれたため、頬の肉が伸び切る前になんとか事なきを得ることが出来た。

 町からはおおよその時間で、三十分とかそのくらいだろうか?

 あいにく時計などを持ち合わせてはいないため、正確な時間は分からんが、体感的にはそのくらいに違いない。船であったならばかなりの時間を要しただろう。

 竜は最短距離を飛行したため、途中嵐の中を突っ切ることになったが。そのおかげで、大海に浮かぶ島を目視出来るところまで最短時間でやってくることが出来たのだ。


 わしらは上空から島を見下ろす。

 絶海の孤島の名の通り、大海原の只中にポツンと存在するドラゴニル。

 大きさはアルノームの三分の一もないくらいだ。たしかクゥーエルが眠っていた島もこんな大きさだったな。

 ほとんどが切り立った断崖だが、よく見れば小舟が着岸できるくらいの低い場所もある。しかし岸壁に打ち付ける波は結構な高さがあり、船で来たからとすんなり上陸はさせてくれなさそうだ。

 砕け泡沫となって消えていく波が、島に拒絶されているように見えて少しだけ虚しく感じた。

 そんな島の中央には森が広がる。ほかに目立ったものがないため、恐らく神殿はそこにあるのだろうことが窺える。


「――レブルゼーレ、わしらを下ろしてくれ」

「分かった」


 ポンと首筋を叩くと、黒竜は緩やかに下降し雑草の茂る平地に着陸する。

 竜の背から下りてまず目についたのは、空からも見えた魔物の足跡だ。踏み荒らされた草花と抉れた土。蹴った拍子に削れたような跡が見えることから、足に大きな爪を持つ魔物であることが想像できる。

 足跡の一つを注視していたライアが静かに口を開いた。


「大きさはだいたい五十センチちょっとか……。体長三メートルくらいはありそうだな」

「魔王が送り込んできたというのなら、相当な強さは覚悟した方がいいかもしれないわね」

「ほかにも小さめの足跡がいっぱいあるから、一体だけじゃないかもしれないよ」

「ここまで来れたんだから、アタシたちなら問題ないっしょ!」


 楓の言葉に皆『そうだな』と頷いた。

 これまでも、難しい戦いはあった。だが皆で乗り越えた。

 それにだ、レブルゼーレに認めてもらったこと、ソフィアに至っては武闘会優勝と、自信に繋がる戦いを経てきたのだ。

 いまさら魔王が送り込んできた魔物に怯むような弱気の虫は、すでにわしらの中にはいない。

 現に、皆一様に晴れやかな表情を浮かべ、ライアとソフィアに至っては好戦的にしか見えない笑みすら浮かべているのだ。なんの心配もいらない。


「では、クゥーエルのためにも神殿に急ぐとしよう。レブルゼーレよ、行ってくる」

「ああ、気をつけて行ってこい。俺はここで待っている」


 レブルゼーレに見送られながら、わしらは森へと足を向けた。

 足跡を辿るように森の中へ入って、入り組んだ木々を避けながら中央を目指す。

 目的がなければただの森林浴と呼べるほど、清涼な空気と緑のにおいに癒される穏やかな散策だ。

 怪しい気配も感じられない。だが念のため、それとなく呟いてみた。


「……魔物の気配は、感じられんか……?」

「今のところはな」


 合っていた。


「でも油断は出来ないです」

「嵐の前の静けさってやつかもしれないしね」

「静かすぎるのが不気味だよねー――って……ん?」


 楓が何かに気づいたように声を上げた次の瞬間――地震のような地鳴りと共に、遠くの方からズガガガガッと地面を掘削するみたいな激しい騒音が聞こえてきた。

 その音はこちらへと徐々に近づいてきて、数秒と待たずにバキバキと木々を薙ぎ倒すような音が混じり始める。


「――みんな避けろッ!」

「えっ」


 ライアが叫んだ直後、わしの背後で仲間たちが散開するのを気配で感じた。

 しかし咄嗟のことで一瞬狼狽えたわしは、気づけばすぐそこまでと差し迫った音の正体を目の前にして、盾を構えることしか出来なかった。

 音の正体。それは衝撃波を伴った力の奔流だ。木々を根こそぎ吹き飛ばし、砂塵を巻き上げながらわしに迫ってくる。

 どっしりと腰を落として備えたその時、盾にもの凄い衝撃を受けた。折れた樹木は避けるようにして弾かれていくが、大量の土砂だけはどうにも出来ず……。

 気づけばわしは、胸元まで土に埋まってしまった。


「大丈夫か、おっさん?」

「少し泥を噛んでしまったが、わしなら大丈夫だ問題ない」


 ライアに腕を引かれ、湿り気を帯びた土が乾く前に急いで抜け出す。鎧にこびりついた泥を大まかに落とし、わしは技の放たれた方を見据えた。


「しかしなんという技だ。せっかくの森に一本道が出来てしまったではないか」

「ですが見通しは良くなりましたね。良好過ぎて犯人の姿もよく見えます」


 ソフィアの言葉通り、道の先に巨大な大斧を担いで武装した、これまた大きな図体をしている竜人が突っ立っていた。背にする神殿らしき建物は、見るも無残に崩壊している。


「あの魔物、前にベルファールが指揮してた中型の魔物によく似てるね」

「ってことは、あれもドラゴンの頭だけ本物で体は瘴気ってこと?」


 疑問を呈すクロエと楓に、ベルファールが答えた。


「あれは作り物じゃない、すべてが本物だ。おそらく過去の大戦の際に生み出された魔物の残りだろう。それと一つ断っておくが、あれはそもそもドラゴンじゃない、リザードマンだ」

「あれがリザードマン? 三メートルは間違いなくあるように見えるが……。あのような大きさのトカゲは見たことがないぞ」

「古代種だからな」

「古いと大きいのか?」

「古竜種なんかだとレブルゼーレの倍近いモノもいたらしいが……」


 そう言うなり前へ出たベルファール。

 よからぬ気でも感じたのか、巨大リザードマンの周りに現れた魔物たちが群れを成した。

 遠目に見ても二十以上はいる。それに加えて、今度は殺気を隠しもしない気配が道の両サイドに別れ無数に感じられた。

 さすがに百はいないだろうが、かなりの数だ。


「ベルファール、お前さん一体なにをするつもりだ?」

「こうも木が多いと戦うにも邪魔だろう? 仕方がないからついでに数も減らしてやる」

「まさか森ごと雑魚を吹っ飛ばすつもりか? せっかくの森なのに……」

「そんなもの放っておけば後からでも再生するだろう。甘っちょろい貴様たちは遠慮して出来なさそうだから代わりに私がやってやる。それに、捕虜とかいうふざけた地位に堕ちたせいで暴れられなくて今まで退屈していたんだ。憂さ晴らしにちょうどいい」


 わずかに口端を釣り上げた彼女の周囲の空気が、突然陽炎のように揺らぎ始めた。闇色のオーラが立ち上り、ベルファールの魔力が目に見えて充実していく。


「ちょ、ちょっと待つのだベルファール――」


 これは拙いと、わしはいったん制止しようと手を伸ばしかけたが、


「巻き込まれたくなければ前に出るな――ゾーダレスヴェリオール!」


 聞き覚えのあるような魔法名とともに放たれた魔法は、ベルファールを中心に放射状に広がった。

 闇の炎が暴風とともに吹き荒れ、風の中に混じるは聞くに堪えがたい死者の怨嗟の叫び。

 効果範囲内にある森の木々は萎れ、枯れながら燃えては灰燼と化していく。至る所で光の粒子が立ち上っているのは、無数にいたはずの隠れていた魔物たちだろう。

 肝心のリザードマンはというと。時折抜ける炎で火傷を負ってはいるものの、器用なことに斧を高速で回転させながら、火炎と風を凌いでいた。古代種というのは伊達ではないようだ。

 

「やはりそれなりには強いか……」

「その魔法、上の世界の魔王が使ってたよな。たしか『ゾーダレスペリオーム』とか言ってた気がするが」

「どこか聞き覚えがあると思ったら、そういえばそうね。クロエの話では禁術の一種だとかって話だったけれど」

「うん。図書館に保管されてた古の魔導書で読んだから、間違いないよ」

「アレすんごい体が怠くなった記憶があるよねー、しかも熱いしさぁ……」


 各々今となっては懐かしい戦闘を思い返し、四者四様の表情を浮かべている。

 クロエのディヴァインベールでも軽減しきれなかった苦い記憶だ。

 雑魚処理を済ませたベルファールが魔法を収めると、背中越しに告げた。


「ヴェリオールはペリオームの上位にランクされる魔法だ。ちなみに言っておくと、神聖と暗黒属性に関しては禁術が数種類存在する」

「ということは、今のよりもっと強いモノがあるのか?」

「これは所詮、小手調べとデバフ用だからな。雑魚なら耐えられずに燃え尽きる」


 今ので小手調べ……。上の魔王が使ったものとは比べ物にならん威力ではないか。まあどちらとも戦ったからこそ言えるのは、はっきり言ってベルファールの方が圧倒的に強いがな。あやつ魔王のくせに名前がエルムだったし……名前で強さが変わるわけではないとは思うが、弱そうであることに変わりはない。

 さらりと言ってのけたベルファールの一言に、仲間たちが反応を示した。


「へぇー。そう聞くと、他のも見てみたくなるな」

「この島が消し飛んでもいいなら使ってやるが」

「一気に威力が跳ね上がるわね。もう少しコンパクトなものはないの?」

「あるにはあるが……」

「わたしも後学のために見てみたいな」

「学んだところで人間には扱えない属性だ」

「それでも面白そうだから見たいんだよねー。アタシも興味あるし」

「……まあ別に構わないが……。でもいいのか? 私が処理しても」


 リザードマンを見据えながら訊ねたベルファール。

 ライアは肩をすくめると、その背に向けて言った。


「あたしらはまともにアンタと戦ってないしな。ここらで実力でも見せてもらおうかと思ってね」

「そういうことか。解った、なら打って付けのモノを使ってやる。だが、ヤツの後ろのゴミ山が吹き飛んでも文句は言うなよ」


 グッと右拳を握ったかと思えば、突如として指の隙間から黒紫の光が漏れだした。拳をわずかに開いてゆくと光はやがて伸びていき、まるで剣のような形を成す。

 武器なしのワルドストラッシュ……、いや破壊の魔剣レギスベリオンの固有技レギスペリオールによく似ている。

 わしがただ呆然としていたところ、ベルファールが「ふっ」と微笑をこぼした。

 それを見てなんとなく察する。


「その魔法は、もしかして……?」

「考えていることは大方合っているだろう。これはあの時に貴様に向けて放ったものと“ほぼ”同じだ」

「やはりそうか」

「ただ一つ違う点があるとすれば、魔剣の有無だな。負の感情を餌に無尽蔵に魔力を供給するレギスベリオンと、この魔法があってこそ初めてあの威力が出せる。MP消費量を増やせば威力が上がるとはいえ、さすがに空間断絶までは起こせない」

「ということは、威力の加減が出来る魔法なのか?」

「ああ……。まあなにを心配しているのか知らないが、瓦礫がどうなるかはトカゲ次第だ」


 顔に出ていたか……。

 だが、威力の加減が出来ると聞いて多少の期待はしている。きっと巧いことやってくれるに違いない。希望的観測というやつだが。

 あとはあのリザードマンの耐久とか実力とか、なんかいろいろ次第ということだ。

 大斧を持つ腕が微妙に震えているのが心許ないがな……。デバフの影響だと思うが、ステータス減衰の効果がどこまで出ているか、それが問題だ。


 そんな心配を余所に、剣状の魔力を勢いよく噴き上げさせたベルファール。

 視線の先。震える腕で大斧を持ち上げて、リザードマンは上段に振りかぶった。それを流れるように勢いよく地面に叩きつける!

 まさに破れかぶれといった風にトカゲが繰り出した技は、おそらく先ほど飛んできた技と同じ。

 再び道をなぞるように、土砂やら石を飛ばしながら猛スピードで衝撃波が襲い来る。

 冷静に、沈着に。その威力を見極めたベルファールは、少しだけ魔力の出力を上げる。そして「――ヴォーパルアルカリス!」目にも止まらぬ速さで剣を振り下ろし、極限まで研ぎ澄ませたオーラを解き放った!

 リザードマンの技とぶつかり合った瞬間、まるで拮抗することなく衝撃波を喰らい尽くし、あっという間に巨体を飲み込む。

 リザードマンは一瞬で肉が削げるように体を蒸発させ、骨となったかと思ったら盛大に爆散した。

 ……ついでに瓦礫の山も、直線上にあったものはきれいさっぱり消滅している。


「ああ……し、神殿が……」

「もっと落としてもよかったか……いや、拮抗するのも煩わしいしな。というか、そもそもヤツが弱すぎるのが悪い」

「あれはお前さんのデバフをくらっていたせいだろう」

「そうでなくても軟弱すぎるのが悪い」

「お前さんが強すぎるんだ……。でもまあそういうことにしておいた方が平和だな」

「なんだ、文句は言うなと言っただろう。こう見えても手加減してやったんだ感謝しろ」

「すみません」


 なぜか謝ることになってしまったが、たしかにそんなことも言っていたなと、責めたことを少しだけ反省した。

 一人頭を垂れていると、魔法を見ていた女子たちが感心に舌を巻く。


「たしかに禁術って呼ばれるくらいはあるな。ところで、あれってどこまで威力上げられるんだ?」

「消費MPに上限はない。だが魔剣無きいま、威力を上げられても効果範囲は多少広くなるくらいだから、あまり多用する意味のない魔法になった」

「威力はMP使用量に比例するわけね。でも、島が消し飛ぶと言っていた魔法ではなさそうね」

「最大出力で真下に向ければ消し飛ぶだろうが、それとはまた別だ」


 まだ禁術を隠しているのか……。いやはや末恐ろしい。

 いまは捕虜として従ってくれているが、野に放てばどうなるか分からん危険因子であることに変わりはない。……というか、一人にしたら自決するかもしれんし、なんとしてでもわしが保護せねばな。


「勇者さん。魔物も消えたことだし、早く神竜の首飾りを探そうよ」

「そうそ、のんびりしてる時間はないよー」

「む、そうだな! 苦労せず見つけられればよいが――」


 それから。

 クロエが風の魔法で大まかに瓦礫をどかしてくれたため、探しやすくなった神殿跡をわしらは手分けをして捜索することにした。

 上の世界と同様、神殿内部の中央部は円形に窪み、本来であればそこに魔方陣があるはずなのだが。壊されたからなのか、はたまた先の魔法で消されたのか、綺麗に整地されてしまっている。

 目を皿のようにしてしばらく探し回っていると。クロエが片した際に積み上がった瓦礫近くにいた楓から「――オジサン、階段があるよ!」と声が上がったのだ。

 そこまで急ぎ駆け付けて、その階段とやらを確認する。

 瓦礫に埋まっているが、ブロックの隙間からは確かに階段らしき段差が見えた。

 クロエが再び風を巻き起こしてブロックを退かすと、人ひとりが通れる幅の地下への階段がお目見えする。


「これは怪しいな。というか、魔物どもは首飾りを目当てに来たわけではなかったのか?」

「そもそも、先に神殿壊しちまって、階段を探せなかったとかじゃねえのか?」

「あり得るわね。頭悪そうだったし」

「中、照らすね」


 尚早を感じさせる声音で言うと、クロエがさっそく光源魔法を階段の中に放り投げる。

 クロエはクゥーエルと一番仲が良かったからな。可愛がってもいたし、やはり人一倍心配なのだろう。

 そんな想いを汲み取り、地下が明るくなったのを確認した後、わしを先頭に皆で地下へと下りた。

 階段を下りきり床を踏むと、扉のない部屋の入口に突き当たる。

 中を覗いてみるとそこはかなり狭い小部屋だった。さすがに全員では入れなさそうだったため、皆は先に地上へと戻りわしに任務が託されたのだ。


 光源で照らし出された小部屋の中央。

 黄金の台座の上に、金剛石のように透き通る、翼を広げて咆哮する竜の彫像が置かれていた。大きさは幅が二メートルくらい、高さは一メートルあるかないか程度だ。

 その首にはオーブの色と同じ青、緑、赤、紫、黄、銀、金の宝石が散りばめられた、豪華な首飾りが掛けられている。


「これが、神竜の首飾りか……」


 わしは彫像から首飾りを外し、大切に地上へと持ち帰る。

 待っていた仲間たちにそれを示すと、皆一様に首飾りに注目した。


「意外にカラフルだな」

「そして結構大きいわね」

「これでクゥちゃんも元気になるかな?」

「きっと間違いないよ。オジサン、女神様からそう聞いたんでしょ?」

「うむ。これを手に入れればクゥーエルは力を取り戻すと、女神はそう言っていた。クロエ、だから心配するでない」

「よかった……」


 ホッと安堵するような息をついたクロエ。多少の不安は取り除けたようだ。

 だが、クゥーエルに届けるまで安心は出来ん。

 首飾りを手に入れるという目的が達成された以上、一先ずここにはもう用がない。

 わしらは急ぎレブルゼーレの元まで戻ることにした。

 来た道を走って戻ると、顎を地面につけ楽な姿勢を取っていたレブルゼーレが起き上がって言った。


「どうやら首飾りを手に入れたようだな」

「うむ、おかげさまでな」

「ところでさっき不穏な気配を感じたが、まさか禁術か?」


 訊ねられたベルファールは、ふんと鼻を鳴らしながら答える。


「だったらどうした?」

「神竜の生まれた土地で暗黒魔法を使うとか、非常識だと思わないのか? それも禁術を」

「意外だな、魔竜族のくせに常識を語るとは。貴様もどちらかといえばこっち寄りだろう」

「ただの殺戮者と一緒にするな」


 ピリッとした空気が張り詰める。また、一触即発……。

 この二人が相容れることなど未来永劫ないのだろうな。

 ここは中立の立場として、わしがしっかりと仲裁せねば。


「お前さんたち、いまは小競り合いをしている場合ではないだろう。早いところクゥーエルに首飾りを届けねば」

「そうだったな。不毛で無意味で無味乾燥なくだらない喧嘩などしている場合ではなかった」

「貴様が余計なことを口走らなければ発展することもなかっただろ」

「わかった、わかったからここで納めよベルファール」


 相変わらずベルファールはカッとなりやすい性格の女子だな……。レブルゼーレも言われれば言い返すし……。

 仲を取り持とうとする、わしの気にもなってもらいたいものだ。

 このままではストレスで太ってしまうだろうに。

 ……もう太ってるとか言われそうだから口には出せんがな!


「別に仲良くとは言わんが、バチバチは極力避ける方向で頼むぞ。胃に悪いからな! とまあそういうことだ。レブルゼーレよ、ダムネシアまで頼む」

「解らないが分かった。乗れ」


 そして竜の背に乗ったわしらは、クゥーエルの元へ急ぐため再び空を行く。

 ずいぶんと待たせてしまった。だが、ようやくここまで来た。

 道具袋に収めた神竜の首飾りを、そして今も一人頑張っているクゥーエルを想い、空の上から遠く水平線を望む。

「待っていてくれ……」その呟きは、レブルゼーレの羽ばたきと風音に流されて消えていった。

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