第32話 新たな依頼を受注する
ギルドに戻り、依頼を完了したことの証明書を貰ったわし。達成報酬として、屋敷が設定していた50000Gを受け取った。
まさかこんなに高い報酬を出すとは。あの変態爺さんは今ごろ後悔しているだろうな。だが、メイドがいいと言ったのだ。これで良いのだろう。
とするならば! 据え膳は用意されておるのだ! この街の風俗の一つや二つ、体験しなければ男の恥というもの。うはははは!
まあ、まだ日も高い。風俗は逃げないから、焦ることも逸ることもない。
それに待ち人もおるしな。
あの二人ならばすぐに戻ってくるだろうと考え、特にやることもないため、わしはとりあえずテーブルに腰かけて帰ってくるのを待つことにした。
昼も過ぎるとギルドも賑わい出し、掲示板の空いたスペースには新たな依頼書が次々に張り出されていく。
人波の満ち引きをぼうと眺めながら、待つこと三十分。
「なんだ、もう帰ってきてたのか」
「勇者様、ただいま戻りましたわ」
目を向けると、ライアとソフィアが揃って椅子に腰かけた。
しかし街を出る前と今とで、その外見に差異が生じている。鎧や法衣にところどころ焼けたような跡、一部に裂けが見て取れた。
「お前さんたち、それはどうしたのだッ?!」
「ああ、これか? Aランクの対象になってた魔物が思ったより手強くてさ」
「久々に腕が鳴りました」
ふーっと息をつき少し疲れた様子のライアと、対照的に楽しげに笑うソフィア。
Aランクでそのくらいの苦労ということは、魔王はもしかして強いのか?
……いや、しかしエルムだしな。良くてSではないか? だとすれば、わしにも倒せる可能性が……。
「ところで、おっさんの方はどうだったんだ?」
「ぼーっとしてましたし、もしかして失敗したのですか?」
「わしか――」
わしはな、言いながら道具袋に手を入れ、さきほど貰った証明書を取り出した。
テーブルに広げると、二人はのぞき込んで成否を確認する。
「おっ、すごいじゃないか! やったな、おっさん!」
「勇者様もやれば出来るのですね。感心しましたわ!」
二人に手放しで褒められ満更でもない気になる。ここまで褒められることは珍しいからな。というか滅多なことではない。
なかなか気分はいいが、同時に思い出して憂鬱になる。
小さく息をつき、「だが、大変な目に遭った」と前置いて、わしは依頼の顛末を話した。おパンツを覗かれ、太ももを撫であげられ、そして極めつけは股間を握られたこと……。
わしが屋敷の主人にされたことを聞き終えた二人は、なんとも例えようのない渋面を浮かべている。
「それはなんていうか、災難だったな」
「同情しますわ」
「しかし、成功は成功だからな。わしも頑張った甲斐があるというものだ」
されたことを考えるとトラウマレベルだが、それも達成済みのハンコを押された証明書を見れば水に流そうと思える。
なんといっても、Sランクの依頼をやり遂げたのだから。
「お、前向きなのはいいことだぜ」
「自信にはなったしな。結果としては成功できてよかった」
証明書を道具袋にしまったところで、二人が急に席を立つ。
見上げると、それぞれの道具袋から魔物討伐の証である戦利品を取り出した。
「なら、あたしらは報告に行ってくるから、おっさんはちょっと待っててくれ」
「すぐに済みますから」
「あ、ああ……」
そうしてわしに背を向けて、受付へ向かったライアとソフィア。
二人が道具袋から取り出したモノを見て、わしは息を呑み身震いした。それは、前腕ほどの長さがある、血塗れの大きな牙だったからだ。
道具袋から魔物大百科を取り出し、ロクサリウムの頁を繰った。
該当しそうな魔物は一種類だけ。
『ブラッドパンサー』
体長およそ五メートル。常に肉を咀嚼している獅子型の魔物。その肉がなくなるとたちまち憤怒し、狂暴化する。狂化状態になると火炎を吐くようになる。だそうだ。
「こんなのと戦っておったのか……」
だから装備に傷が付いていたのだな。しかもそれでまだAランクの魔物だというから驚きだ。
もしもわしがそこにいたのなら、確実に足手まといになっていただろう。
「……報酬は、装備に回すしかないようだな」
せっかくの50000Gが……。グランフィードと同じであれば洗体も視野に入ったというのに!
しかし死んでしまっては元も子もない。風俗は逃げない、逃げないのだ。
一人ぶつぶつごちていると、
「終わったぜ、おっさん!」
「ついでに、少し気になる依頼を受注してきましたわ」
受付で証明書と報酬を受け取った二人が戻ってきた。
貰えた金額が多かったのだろう、ライアはにこにこし嬉しそうな顔をしているが――。ソフィアは眉間に薄く皺を刻み、なんだか小難しい顔をしている。
もしやと思い、わしは尋ねた。
「ソフィアよ、もしかして女の子の日なのか?」
「はい? なんのことです?」
「生理というものが重いのではないか? そうであるなら無理はするでないぞ」
「なにを言っているのか分かりませんが、私が難しい顔をしているからといって勝手な想像しないでください。それに、私は軽い方なので心配しなくて結構です」
「――なんだと!? お前軽いのかよ、あたしと変わりやがれ!」
いまの言動で分かることは、ライアは重いらしいということだ。
まあ、そんな女子事情を知ったところで大して妄想のネタにすらならんのだが……。出来れば二人のスリーサイズが知りたいな! あ、あとおパンツの色とか形とか!
「しかし、生理でないとするならどうしたというのだ?」
「これですわ」
呆れたように差し出してきたのは、受けてきたという依頼書だ。
わしとライアはその文面に目を走らせた。
内容は、アイーザ村の住民が眠ったまま起きないという事案が、三日前から発生している旨だった。
訪れた旅人なんかも村に入ったきり、そのまま寝続けているという。
「アイーザっていったら、東の森の手前にある村だよな?」
「ええ、良質な杖の材料を採る木こりの村よ」
「そこの住民が起きないと? 本当に眠っておるのか?」
「それは行ってみないことには分かりませんが、ランクはA~になってますわ」
「下手すりゃ、もしかしたらSにもなり得るかもしれない、ってことか?」
「そういうこと」
従士になるためには依頼をこなすしかない。
二人もBやAの依頼を複数やり遂げてきているため、わしのSと合わせて確実に目標には近づいていると思うのだ。
この依頼、ランクはA以上ということだが。もしSだった場合にかなりの危険を伴うだろう。Aランクの魔物であれだけダメージを負ったのだ。いまSクラスの魔物などに当たろうものなら、全滅もありうるかもしれん。
しかし、
「もう依頼は受けたのだろう?」
「ええ、ハンコも押されましたから、キャンセルする場合はけっこうお金取られますね」
「では、行くしかなかろう」
「いいのか、おっさん?」
「いいも悪いも。早いとこ美しい女王に謁見したいしな!」
「やはりそこなのですね」
「風俗よりは動機としてよいだろう?」
「自覚はあるんだな……」
唖然とする二人。
わしだって常日頃から風俗のことばかり考えてはいない。街に着いた時なら、そりゃあ期待があるから考えはするが。
近くにこんなにも愛い女子が二人もいるからな。頻度的には、二人のことを考えることの方が多いくらいだ。
まあ、そんなことを口にすればきっと小突かれるだろうが……。
「それはともかくだ。依頼を重ねなければ従士になれんのだ。いまはなんでもやるしかなかろう」
「ま、その意気や良し、だけどさ」
「そうですね。では、念のため装備を整えて、明日向かうことにしましょう」
そうしてわしらは武器防具を買い揃え、宿へ戻った。
報酬として受け取った50000Gは、9000Gを残し、武具と魔法の袋代に消えた。保険だと思えば、これも致し方ない。
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