第5話 旅は道連れ

 アルノームから北西に行くと、宿場であるヤーゴという小さな村がある。

 が、そこへは立ち寄らず――時間も惜しいということでそう提案したのは、クレリックの少女だった――目的地である盗賊首領ジャルノスのアジト、朽ちた尖塔へと向かっていた。

 ヤーゴからは背の低い草の原を東に抜けて、小高い丘の向こうにあるというのだが。


「おっさんおっさん」


 道中、道案内するクレリックから少し離れた位置を歩いていると、女剣士が耳元へ小声で話しかけてきた。

 吹きかかる息がこそばゆい。


「なんだ?」

「声が大きいんだよ! トーンを下げろよ、馬鹿なのか?」

「す、すまん。気が利かんかったな」


 謝りつつ、再度自分から耳を近づけた。

 ……決して息を吹きかけて欲しいなどという下賎な思考からではない。なにやら緊迫した雰囲気なためにそれを汲み取った、高尚な思考からだ。


「ぜったいに気を抜くなよ」

「それはどういうことだ?」


 問うと、前方を歩くクレリックを気にしつつ、振り返らないことを確認した後、手を宛がいながら女剣士は口にした。


「さっきおっさんが叩かれただろ?」

「ああ、そのようだな」

「あれを見て多少心がすっきりしたんだけどさ――」

「そんなことを思っておったのか? やけに冷静に見定めていると思っていたら、酷いじゃないか」

「それは置いといて」


 置いておくのだな。それほどその事象は重要ではないということか。


「……それで?」

「その時のあの手の動き、見たか?」

「見えるわけないだろう。わしには掠れた影にしか見えなかったぞ」


 例えるならそうだ。筆で描いた文字の軌跡が、次第に掠れていくようなあの形。それしか認識できなかった。


「あの腕の振りの速さ、尋常じゃない。もしあいつが剣を持っていたら、あたしでも敵うかどうか分からないくらいだ」

「ずいぶんと弱気なんだな。あの時悪漢から颯爽と助けてくれたお前さんの言葉とは思えないぞ」

「それくらい只者じゃないってことだ。あいつもしかしたら、クレリックっていうのは偽りなのかもしれない」

「あの娘御が嘘をついていると?」

「……たぶんな」


 あんな綺麗な涙を見せていた少女が嘘を? あの話も嘘偽りだと言うのだろうか。

 この年にもなって感心することなどもそうそうないと思うが、若いのに苦労して、町の人々を救いたいというそれこそ高尚な目的に感心したものだが……。


「――着きました」


 女剣士とひそひそ話に集中していたら、不意に前方からそんな声が届いてきた。

 前を見やると、こちらを振り返るクレリックの少女と目が合った。

 その後方には、言葉通り尖塔が天高く……聳えてなどいなかった! いや確かに尖塔に違いないのだが、想像していたものとは外観が異なっていたのだ。

 勝手な想像によると、階層構造を持つ高い塔をイメージしていた。けれど目の前にある“それ”は、塔の先っぽだけを切り取って地面に下ろしたような、二階建ての民家ほどの高さしかない陳腐な塔だったのだ。


「……これが首領のアジトか?」


 女剣士もそうだったのだろう。呆れたような顔をして、というか若干顔が引き攣っているような気もする。きっと、こんなボロい所を拠点にしているような輩に敗北したことが、自分でも恥ずかしくて信じられないのだろう。


「そうです。では、参りましょうか、勇者様御一行」


 慰めではないが女剣士の肩をポンと叩き、そうして案内されるかのように、わしらは塔内部へと侵入した。

 円筒上の塔胴部の内部は薄暗く、荒れ放題の廃屋みたいだった。そこかしこに空き瓶や食べ物が転がり、テーブルは半分から割れて床に落ち、明かりを灯すランプは割れその役目は果たせそうにない。天井からは臭そうな干し肉が吊るされており、若干カビているようにも見える。

 奥にはスペースを巧いこと使って螺旋状の階段が設えてあり、最上階(この場合は二階だが)へと続いていた。この尖塔の設計者は、なかなか造詣に深い者のようだ。


「奥へどうぞ」


 先導するクレリックは見知っているかのように、薄暗く足元がごちゃごちゃしていてよく見えないにもかかわらず、その上を躓きもせずさくさくと進んでいく。

 転びそうになりながらも、女剣士の後ろを付いて歩き、階段を目指す。

 一階最奥の螺旋階段手前で一度振り返ると、クレリックは確認するかのように再度訊ねてきた。


「いいですね?」

「準備は出来てるさ、たとえこれが罠だったとしてもな」

「…………」


 女剣士の言葉に少女はなにも返答はせずに、表情を崩さないまま、


「では、参りましょう」


 静かに螺旋階段を上がっていく。

 この先に待ち構えているであろう初めてのボス戦に、緊張は弥が上にも高まってくる。心拍を落ち着けるためにも生唾を飲み込んだ。

 どうやら上の階は明かりが灯っているらしい。ほんのりと暖色が漏れている。確実に人がいるであろうことは容易に想像つくが、それが首領だと思うと足が竦みそうだ。

 やがて階段を上りきると、倉庫みたいな狭い部屋へと躍り出た。

 すると突然、クレリックは足取り軽くすたすたと意気揚々に、奥へと向かって歩き出す。

 一階とは打って変わり、金や銀で装飾された煌びやかな内装にまず驚いた。

 そして第二の驚きは、薄汚れたアンティークの椅子に腰掛ける、筋骨隆々とした大男に対して少女が放った一言だった――


「釣れたわよーお父様、勇者御一行の到着だわ」


 感情ない棒読み。幼子が演技で喋るセリフよりも酷いものだ。まるで抑揚が聞き取れなかった。


「おお、でかしたぞ我が娘。まさかこんなに早く連れてくるとはな」

「お父様?」

「娘……?」


 女剣士とわしは揃って顔を見合わせた。疑問符しか浮かばない頭に喝を入れたのは、女剣士の怒声だった。


「てめぇ! やっぱ嘘っぱちだったのかっ!?」

「だって、あなたたち疑いもせずにほいほい引っかかるんですもの。まるでゴキブリみたい」


 少女はくすくすとせせら笑う。

 開いた口が塞がらない。ついさっきまで淑やかな娘御だったのに今のこの豹変ぶりときたら、スライムがフライパンで焼かれて、でも死ななくてフライパン片手に逆に襲い掛かってくるくらいの衝撃だ。


「……ああそういえば、スライムには手がなかったな」

「なんの話かしら?」


 おっと、どうやら思考は口をついて出ていたらしい。

 いやなんでもない、と首を横に振った直後――――ドガッ!


「――ぐぁっ!?」


 後頭部に激しい痛みが走った。気まで失いはしなかったが、痛みのあまり立っていられそうにない。


「おっさん!」


 女剣士が気にかけ声をかけてきたが、彼女はすぐさま振り返り、相手を確認した。

 首を僅かに動かし、わしも上目で敵を視認する。


「――てめえ、なにしやがる!」


 その先には、腕よりも太い角材を持った薄汚い盗賊子分が仁王立っていた。

 状況からみても、こいつがボーギンという輩であろう。

 瞬時に刀を抜き放ち、女剣士は戦闘姿勢をとる。わしは鈍痛に襲われていて身動きが取れない。


「おっさん、無理すんじゃねえよ。こいつはあたしに任せて、少し休んでな」

「大丈夫か?」

「あんたに心配されるほど、あたしは弱くはないっての」


 言葉はわしに向けて放たれたものだが、その視線はわしに向いてはいなかった。

 どうやらわしの奥にいる、クレリックの少女を気にしているようだ。

 ジャルノスは余興が楽しみなのか、椅子から微動だにしない。


「っしゃあ! ならいくかっ!!」


 気合十分。その気合だけで丸太を両断できそうなくらいの気迫をもって、今まさに斬りかかろうとしたその瞬間――――


「――ちょっと待って」


 声と同時だった。蹲るわしの首元に、冷やりとした何かが宛がわれていた。


「お、お前さん、一体なにを……」


 ちらりと横目で見たそれは、柄に宝石が散りばめられた、湾曲線の美しい短剣だった。

 気づいた女剣士が吐き捨てる。


「あっ、てめえ汚ねえぞ!」

「盗賊が汚いことして、なにが悪いって言うの? これだから武器を振るうことしか能のない脳筋は、頭でっかちで困るわね」

「誰が脳筋だ! 待ってろおっさん、いま助けてやるか――」

「動かないほうがいいわよ。手元が狂って首スッパリいっちゃうかもしれないから。この太ましい勇者様、人質だって忘れないでね」

「……くっ」


 情けない。敵の気配に気づくことが出来ないどころか、挙句人質にされてしまうとは。

 これで勇者だなんてよく言えたものだ。これじゃあ、勇者を見返すことなど出来やしない。

 女剣士の悔しげな歯噛みに、自身の情けなさを痛感させられる。

 そうしてわしらは後ろ手に縛られ、これも盗品なのだろう、幾何学模様の小奇麗なカーペットの床に転がされた。


「どうして戦わせなかったのだ?」

「お父様、当初の目的をお忘れですか?」

「……おおそうだったな。勇者を誘拐して、アルノーム城からたんまりと身代金を要求する算段だったな、フハハ」


 元城主がここにいるのにもかかわらず、ジャルノスは秘密なはずであろう話を明け透けにした。

 今の口振りからすると、わしがアルノームの王であることは知られていないのか? 王冠をしているのに? アルノームの紋章が刻まれているのにか?

 ……こいつはわしよりも馬鹿なのかもしれない。


「緻密な作戦を練って、それから行動に移しましょう、お父様」

「フハハ、そうだな。今日は気分がいい、酒盛りでもするか――」


 言葉通り、作戦を練りつつ酒を飲む。これでもかというくらいかなりの大酒飲みだった。

 所狭しと床を転がる大樽が可愛く思えてくる。

 わしもかなり飲むほうではあると自負していたが、これを目の当たりにしてしまうと、ひよことドラゴンだなと思う。

 松明が灯され、夜も更けてきた頃……。


「ぐごぉぉおおお、がごぉぉおおおお」


 盛大に響き渡る二つのいびき。

 一つはさっきまで飲んで騒いで笑いっからかしていたジャルノスのものだ。そしてもう一つは、クレリックの少女、ではなく――思考しただけなのになぜか鋭い眼光が飛んできた――わしを殴ったボーギンだ。


「……女剣士よ」

「なんだ、おっさん」

「ジャルノスが寝てしまっておるではないか」

「ああ、そのようだな」

「これは逃げ出すチャンスなんじゃ……」

「馬鹿! なんのためにここに来たんだよ。あたしの愛刀を取り返しに来たんだろ!」

「――愛刀って、これのことかしら」


 ぱんぱんに膨れた皮袋や布袋がたんと積まれた部屋の奥、クレリックの少女がなにやら物色し、白い棒のようなものを引っ張り出した。そしてこちらへと歩いてくる。


「あ、てめえ、それで何する気だ! あたしの刀に触れるな! 返せこのやろう」

「何するかって、決まってるでしょ?」


 少女は妖しく微笑むと、すらりと静かに刀を抜き放つ。白鞘から抜かれた刀は白銀の、淑女のような清廉さを称えた刃紋の美しさ際立つ刀身をしていた。


「まさか、斬るつもりなのか?」

「ええ、切るつもり」

「人質なんじゃなかったのかよ」

「人質だったわ」

「過去形じゃねえか!」

「過去形をよく知ってたわね」

「馬鹿にすんな!」

「怒った? でも大丈夫、いま楽にしてあげるから……」


 二人のやり取りが終わり、クレリックが刀を大きく振りかぶる。

 ああ、終わった。そう思った。振り下ろされる瞬間に、わしらは二人して目をつぶった。贔屓にしていたパティスちゃんなら心中相手によかろう。

 そんなことを考えながら、赤い鎧を着込んでいるためにガチガチな彼女のつまらない胸元へ顔を埋める……。


「……?」


 けれどいつまで経っても痛みがない。まさかもう死んでしまったのだろうか?

 女剣士ですら臆するくらいの速さを誇るらしいから、そうなっていても不思議はない。が――わしは目を開けてみた。また開けられた。


「あれ、縄が解けてる」

「おい、どういうつもりだ」

「怒らないで聞いてくれるかしら」

「話の内容による」

「とりあえず聞いてはくれるのね、どうもありがとう」

「礼はいい、から早く話せ」


 急かす女剣士に若干呆れながらも、少女は話し始めた。


「ジャルノスは私の本当の父ではないの。孤児院で育った私を、素質があるとかで勝手に引き取った」

「なんだ、それじゃただのロリコンではないか!」

「あんたは少し黙ってろ、話が長くなる」


 女剣士に片腕で首を絞められ抑制されたならば、大人しくしておくほかない。


「盗賊の首領やってるくらいだから生活に困りはしなかったわ。なに不自由なく育てられ、私は盗賊見習いとして修行をさせられた。けれどそんなある時、私は始めて実践で略奪を経験することになった。とある町へ金品を奪いに行ったの。でもそこは大して金になりそうな物もなくて、それに逆上したジャルノスはあろうことか町人を殺めてしまった――」


 初めて現場を目撃した少女は相当なショックを受けた、三日三晩食べ物が喉を通らなかったと話す。その表情は翳り、本当に後悔しているのだと窺わせる。


「そのジャルノスが殺した町人というのが、以前話した教会の神父さん。私は腕を磨くためだと嘘をつき、父の元を飛び出したわ。そしてその町を訪れた。町へ略奪しに行った時、私は顔を隠していたから町人に気づかれることもなかった。でもそこで悲しい現実を知ったの。神父さんがいなくなって、町で病を治療出来る人がいなくなったと――」

「それでクレリックに転職したのか……」


 女剣士の問いかけに、少女は小さく首肯した。


「せめて次の神父さんが来るまで、繋ぎになればと思って。罪滅ぼしでもあったかもしれない」


 やはり少女は優しい子だった。

 育ての親が盗賊首領という不幸、さらにその親が殺人してしまった不幸。自分に直接非がなくても、親の罪を肩代わりしようとしていた。


「けれど、私が罪を償おうとしたって、それは意味がない事だと悟ったの。だから、義父にしっかりと罪を償ってほしかった。……昔から義父は良いことがあると気が大きくなる人だったからといって、油断させるためとはいえ、利用するみたいになってごめんなさい」


 頭を下げるクレリックから、女剣士は居心地悪そうに目線を外して頬をかいた。


「……ふぅ。それで、これからどうするつもりだ?」

「ジャルノスはこのまま朝まで起きないわ、薬を大量に盛ったからオーガでも起きやしない。縛り上げてアルノームの外にでも放っておけば、じきに捕まるでしょ――」


 その提案にわしらは乗り、ジャルノス、そして子分を抱き合う形で一緒に縛り上げた。そしてアルノームへ戻り、門の外に放置。


「……わしなら、あの縛り方はぜったいに嫌だな」

「だろうな」


 むさ苦しい男二人が裸で抱き合う汚らしいオブジェを一瞥し、女剣士は憐れむように同意した。

 あやつらが起きた時の反応が楽しみだな。

 互いのチ〇コが肌に触れ合っているとか、考えただけでおぞましい。

 義父だという割には容赦のない仕打ちに初めは驚いたが、先の豹変ぶりを鑑みれば、別段驚くほどのことでもないのだろう。


「してクレリックよ、お前さんはどうする?」


 問いかけに、少女は俯き、手をもじもじさせながら呟いた。


「……もし、ご迷惑でないのなら、私もご一緒させて下さいませんか?」

「お前さんがいなくなったら、町の人々が困るのではないか?」

「それならご安心を。私がここに帰ってくる前に、新しい神父さんがいらしたので」

「そうか、それなら安心だ――」


 そう言って胸を撫で下ろした瞬間、わしは襟首を掴まれて乱暴に引き戻された。


「なにが安心だ。まさかこいつをパーティーに加えるのか?」

「そのつもりだが」

「なに考えてる?」

「女子が増えて嬉しい」

「だと思った。おっさん、その助平心をまずどうにかしろ、そして考えろ。またこいつの演技だったらどうする。また罠に嵌められるのはご免だぞ」


 女剣士の言葉にさぞ心外だと言わんばかりに、クレリックは一歩踏み出し力強く言った。


「失礼ね、さっきのは利用しただけ。仕方ないことだったのよ。よく言うでしょ? 敵をだますにはまず味方から」

「勝手に仲間になった気分でいるんじゃねえよ。あたしは認めない」

「あなたが認める認めないの決定権を持っているの? リーダーは勇者様でしょ? どうなんです、勇者様。私を仲間に加えてくださいません? きっとお役に立ちますよ、夜伽とか……?」

「よ、夜伽っ!?」


 つい言葉に反応してしまったが、気付けば女剣士がもの凄い形相で睨みを利かしていた。

 マイサンもさすがに萎縮してしまう。


「まあそれは冗談にしても、私、クレリックになる以前はバトラーやってたんです」


 バトラー。主に素手で敵を倒すことに長けた職業だな。武闘家の上位職だと習った気がする。用心棒、SPなどの要人警護も請け負ったりする職だ。ナックルなんかも装備して、その素早さは天下一とも称される。会心が出やすいのも特徴的だ。

 冗談だったのは残念だが、確かに、あの腕の振り、女剣士をも唸らせる技術は目を見張るものがある。味方になってくれるのであれば、心強いだろう。

 逡巡の後、わしは頷きながら答えた。


「仲間にするかしないか、だったな。女剣士よ、わしは不本意ながら勇者となった。それはあらゆるパーティーで決定権を有している、ということで相違ないな?」

「あ、ああ、まあ」

「では結論を出そう。クレリックは……仲間にする! 可愛いから! わしを守ってほしい!」

「普通逆だろ、守られる気まんまんじゃねえか」

「ありがとうございます、勇者様。私が、あなたを護る剣となりましょう」

「お前の場合は拳だろ……」


 肩を落とし、大層疲れたようなため息を吐いた女剣士。

 クレリックは、本当に嬉しそうに美しい笑みを浮かべて言った。


「それに、よく言うじゃない。旅は道連れって」

「おい、続く言葉はどこに置いてきたんだよ」

「続き?」

「世は情けだ」

「そんな言葉続いたかしら?」


 たしか、世を渡るには互いに情けをかけることが大切だとかそんな意味だったか? うろ覚えでしかないが。


「情けを掛け合って慣れ合うのは性に合わないけどな、仲間になるならそういうこともあるだろ」

「あら、認めてくれるのね」

「おっさんが言うんならしょうがないからな」


 女剣士の言葉に、クレリックは何度か目を瞬くと微笑を浮かべた。


「ありがとう、きっと役に立ってみせるわ」

「え、……ああ、まあ頑張れよ」


 どうやら素直な言葉に面食らっているようだ。かと思えば、少し照れくさそうに明後日の方を見やり頬をかく女剣士。

 クレリックのまっすぐな思いを受け、面映ゆくなっているのだろう。

 そんな初心な様子を傍目にし、わしはニヤつく顔を抑えきれそうにない。

 そんなわしに気づいたのか、


「あっ、こっち見んな!」


 そう言って女剣士はわしの首へ腕を回し、がっしと力強くホールドしてくる。

 慣れ合うのは嫌だというが、慣れ親しむのは悪くないだろう。それがパーティーの醍醐味でもあると、いまわしはそう実感している。


 こうしてまた一人、心強い味方がパーティーに加わった――。


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