混浴でドッキリ! 悟とアラサー女子の、アツアツ温泉紀行 7

 

「まぁッ!」


 既に浴衣を脱いでいた下着姿の愛菜は、自分の素肌を隠す手段もなく、ただただあからさまな軽蔑の目を悟に向けてきた。


「な、なんかすごいねこれ。このカーテン、勝手に開くんだねぇ」


 悟は、さっきまで脱衣場をへだてていたアコーディオンカーテンを見た。電動で開閉する仕組みになっているとは意表をつかれた。それが開き、男女の脱衣場がひとつに繋がったわけである。だが、なぜこのような構造になっているのか?


「勝手に、ですって?」


「そう、勝手に」


「勝手に開いた、ってことですか?」


「そうそう、勝手に開いたの」


「嘘つき」


「え?」


 悟は愛菜を見た。その目に強い抗議の色がある。BL大好きな二十八歳の裸身はスリムなものだった。彼女が身につけている黒いシームレスタイプのブラジャーとパンティは量販店で買ったものだろうか? さほど高価ではないようだが、ほっそりとした肉体を程よく引き締めていた。


「一条さんが、開けたんですね?」


「え?」


「覗かないって約束したのに……」


「い、いや違う違う。勝手に開いたんだよ、このカーテン」


 愛菜は、どうやら誤解しているようだ。悟は既に全開済みのカーテンの端を持って、自分の潔白を主張した。


「一条さんは、やっぱり老師様がおっしゃったとおり“盛りのついた発情期の雄猫みたいな人”だったんですね」


「いや、だから勝手に……」


「これから、あたしを、どうするつもりですか?」


「え?」


「人がいないこんな時間にあたしを温泉に誘って……覗くだけじゃなく、エッチなこととかするつもりだったんですね」


「それは誤解だ。たまたま入る時間がカブっただけじゃねぇか」


「“タマタマが入る”、ですって!? まさか強姦目的だったんですか!?」


「君は難聴か」


「ジェントルメンが聞いて呆れるわ!」


「だから誤解だって」


「そりゃあ、あたしはBLとか乙女ゲー好きで彼氏もいないし、ものほしそうに見えたのかもしれないですけど、だからって着替え中にカーテンを開けるなんてひどいわ!」


 強気の気迫を発する愛菜の胸がすこしだけ揺れた。黒いブラジャーに覆われた胸はCカップほどか。形は良く、誰にでも馴染む手ごろな大きさの美乳と言って良いだろう。そして、くびれたウエストとほそい脚には瑞々しさがある。脂がのる前のアラサーの肉体だが、まだまだ若さのアピールが強い。


(困ったな)


 悟は、どうすれば誤解がとけるかを考えた。


(こういう場合、下手に言い訳すると逆効果かもしれん)


 との結論に達した。


「わかった。俺がこの場から出て行けばいいだろ? 言っておくが、俺は君が考えているようないやらしいことをする気は……」


「すれば、いいじゃないですか!」


「え?」


 悟は首をかしげた。なんだか話が妙な方向へとズレてきた。


「あたしの身体が目当てなら、そうすればいいじゃないですか!」


「おいおい」


「なんていやらしい人なの! あたし、今夜受けた屈辱は絶対に忘れませんからね!」


 愛菜は黒い下着姿のまま、なんと床に寝そべってしまった。


「さあ、あたし観念したわ。さっさと済ませてください!」


「あのなあ」


「あたしのことを、たっぷりと凌辱したいんでしょ!」


 彼女は脱衣場の床に寝たまま、しずかに目を閉じた。


「でも、この屈辱に耐えられず、行為の最中に自分の舌を噛み切ってしまうことになるでしょう。ああ……お父さん、お母さん、お爺ちゃん、先だつ不孝をおゆるしください」


「あらあら、なにかお困りごとでしょうか?」


 突如、女湯側の入口から声がした。見ると、この旅館の女将である鳥越茉莉花が、いつの間にやら立っていた。


「ひょっとして、お邪魔だったかしら?」


 茉莉花は興味津々といった表情で悟を見た。


「いやあ、この状況は、そのォ……」


 下着姿の愛菜が床で寝ている状況をなんと説明すればよいのか思いつかず、悟は頭をかいた。傍目には本当に凌辱一歩手前に見えるのかもしれない。悟のようなイケメンじゃなければ即通報、の事態だ。


 すると、さらに入口から四人の仲居が入ってきた。彼女らは着物の腕と膝裾をまくっており、そのまま脱衣場の奥にある大浴場へと入っていった。


(なんだなんだ?)


 と、悟が疑問に思っていると、一分ほどで仲居たちは大浴場から戻ってきた。四人とも大きな板のようなものを抱えている。


「あれは何?」


 悟は、その板の正体を茉莉花に訊いた。


「あれは、大浴槽を男湯側と女湯側で隔てている耐水性の仕切りでございます」


「男湯と女湯を隔てている仕切り?」


「はい」


「なんで外すの?」


 その悟の問いに、一瞬茉莉花は不思議そうな顔をしたが、すぐに壁の時計を指さした。


「日付けが変わりましたので」


 と、茉莉花。時計の針は午前零時を三分ほどまわっている。


「なんで日付けが変わると、仕切りを外すの?」


「あら、いやですわ。知らないフリをするなんて」


 悟の疑問に、茉莉花は妖艶な笑顔で答えた。


「当館の温泉は午前零時をすぎると、混浴になるのでございます」


 


 

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