鬼退治へ
動物たちのピリピリとした空気は拭えないまま、一行は鬼の生息地に到着した。そこは決して人が立ち入る事の出来ない山岳などではなく、ましてや島でもない。ちょっと足を伸ばせば誰でも行ける、うらびれた海岸である。鬼達はそこで掘っ立て小屋を作り、のどかに生活をしていた。
その数は決して多くはないが、かと言って手に負えないほどの規模でもない。外では小さな鬼が無邪気に鬼ごっこをしてはしゃぎ回っている。ここで申し上げておかなければいけないのだが、鬼は必ずしも人間に害をもたらす存在ではない。彼らは彼らなりに、他の動物と同じように生活をしているだけである。食料を探し排泄をし、時期がくれば発情して繁殖もする。何ら他の動物と変わりない。
ただ実際問題として、彼らの存在そのものが、時として人間に不愉快な印象を与えてしまうのも事実である。丁度ハエやゴキブリが、罪もなく人間を不快にさせるように。しかし多くの鬼は、そんなことはつゆ知らず、ただ呑気に生きているだけである。もちろん、中には人間を懲らしめることが生き甲斐であるという、確信犯的な鬼もいるが、どちらかというと少数派である。我々が鬼に対して恐ろしいという感情を抱くのは、一部の過激派に対する印象にすぎない。多くの鬼は、自分たちの生活の範囲内で慎ましく暮らしている。
殺気立った犬は、小さな鬼が遊んでいるのを見るや否や、一目散に飛びかかり、その喉元を次から次へと引き裂いていった。悲鳴をあげ、突然の襲撃にパニックになる小鬼たち。悲鳴を聞いた大人の鬼達は、小屋から飛び出して逃げ出し始めた。しかし走るのに不慣れな鬼達は、棍棒を持った猿に襲われ、無残に倒れていった。雉は斜め上空から真っ直ぐに飛行し、その尖った口先で、慌てふためく鬼の首筋を次々に刺して回った。たった三匹の動物達の奇襲により、鬼の生息地はパニック状態に陥った。
一時間もすると、あらかた鬼の掃討が完了し、死屍累々の山が出来上がった。ある者は小屋に隠れている所を襲撃され、ある者は逃げる途中で捕まり、凄惨な死を迎えていた。桃太郎は、予め全ての鬼を殺さないよう指示し、捕虜となった鬼達を次々と縄で縛っていった。動物達はそれぞれ、自分が倒した鬼の鼻を引きちぎり、それを手柄の証拠として桃太郎に献上した。桃太郎は血なまぐさいそれらの鼻を勘定し、それぞれに見合った数の団子を与えた。が、困った事に団子の数が足りない。彼らは余りにも多くの鬼を葬ってしまったのである。動物達は、「不公平だ」、「約束が違う」などと言って、口汚く桃太郎を罵った。その鼻息は一様に荒い。
「不足分は後で必ず埋め合わせるから」
桃太郎は動物達をなだめるため、そう約束した。何とか動物達も理解をしてくれたようである。そして捕虜として捉えた、首長とみられる鬼を自分の元へと呼び寄せた。
「財宝があると聞いたが、それは何処にあるんだ?」
長い角を持つ老いた鬼は、苦悶の表情を浮かべながら言った。
「それを教えたら、どうか、他の者達の命を、助けてくれますでしょうか?」
桃太郎は眉をしかめた。質問をしているのは俺である。桃太郎は猿に指示をして、その場で縛られていた小さな鬼の頭を、粉々に叩き割らせた。飛び散る血しぶき。叫びーー。縛られた鬼達は殆ど錯乱状態に近い悲鳴を上げていた。
「財宝はどこにある?」
桃太郎が再び尋ねる。首長の鬼はがっくりうなだれ、財宝の在り処と鍵の場所を桃太郎に教えた。桃太郎は教えられた場所に行き鍵を開け、扉を開けるとそこには数え切れない程の金貨が積まれていた。思わず唾を飲み込んだ。これは予想以上だ。一度に持ち帰ることは出来ないから、数回に分けて持ち帰ろう。桃太郎は不足分の団子の数と自分の家の住所を紙に書き、動物達に渡した。彼らはまだ興奮状態で、目がギラギラしている。鬼達は、獰猛な殺戮者達を目の前にして、為す術無くおびえている。
「後は好きにしていいよ、ご苦労様。」
桃太郎はそう言い残し、持ち帰れるだけの金貨を持ち帰ることにした。鬼の小屋を出た瞬間には、この世の終わりのような断末魔が聞こえた。
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