出会い
桃太郎が意気揚々と歩いていると、大型の犬とすれ違った。
「その腰に提げている、旨そうなものは、何でごわすか?」
桃太郎がきび団子であると答えると、犬はそれを分けてくれと催促してきた。聞くところによると、ここ数日間食料にありつけていないらしく、ヨダレが頬に滴っている。鬼退治と引き換えに団子をくれてやると伝えると、犬は言った。
「おやすい御用でごわす。」
桃太郎が団子を一つ与えると、犬は脇目も振らず小さなきび団子にむしゃぶりついた。クチャクチャと団子を咀嚼しながら、その味を何度も確かめた。が、当然きび団子一つでは、空腹が満たされるはずもない。
「これわ、これわ。大層上等な団子でごわす。あの、もしよろしければ、もう一つだけ、頂けないでしょうか?」
犬は上目遣いで桃太郎を見上げ、唇を舌で舐めまわした。余程団子が気に入ったのだろう。尻尾を振りながら、息をハアハアさせている。桃太郎は上機嫌になり、母親の手作り団子を誇らしく思った。
「そんなに旨かったか。よし、鬼退治の活躍次第では、考えてやらんでもない」
こうして犬が仲間になり、同様の流れで猿と雉が仲間に加わった。彼らは一様に腹を空かせていたため、きび団子という誘惑にコロリと懐柔された。空腹時の施しは、砂漠のオアシスくらい有難いのである。猿も雉も、犬と同様にきび団子が気に入ったようである。一つでは物足りず、今すぐにでも鬼を退治して、団子を食べたいという気概に満ちていた。
しかし追加の団子は、言わば褒美であり、努力次第である。餌で釣って、餌を褒美とする。それが彼らのパフォーマンスを高める桃太郎の作戦であった。が、彼らは協力するというよりも、寧ろ互いに牽制し、反目し合っていた。中でも猿は高圧的である。
「テメエ、もし俺の手柄を横取りしたら、タダじゃおかねえぞ。」
猿が歯茎をむき出しにして犬に迫る。
「心配無用でごわす。まあ、せいぜいご心身の尻穴でも突かれないように、用心されると良いでしょうな。」
犬は挑発的にあくびをしながら返事を返す。
「そんな事よりも、あなた達、アタクシの羽を引っ張らないでほしいわ。」
雉は高飛車に構えているが、何時でも戦えるようにクチバシの手入れをしている。何やら一触即発の雰囲気である。桃太郎は「喧嘩をしたら褒美はなし」と釘をさす事によって、彼等の緊張状態の解消を図った。大丈夫だろうか。そんな一抹の不安を抱えて彼らは鬼の生息地をめざした。
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