桃太郎に侍る動物たち
@JonMan
旅立ち
ある年老いた夫婦がいた。
彼らは長い間、子供に恵まれないまま時を過ごしていたのだが、歳を重ねるにつれ、次第にその熱も失われていった。しかしある日、健康に効くという噂の桃を食べて劇的に若返り、桃太郎を生んだ。しかし若返ることは、いい事ばかりではない。彼の父親は、若々しい頃の肉体を取り戻すだけでなく、精神的な面でも大いに若返ったのである。彼らの価値観はすくなからず以前のものとは異なるものになり、次第にその「ずれ」を大きく感じるようになっていった。
程なくして彼の父親は外に愛人をつくり、それが原因で両親は離婚した。桃太郎がまだ一歳になる少し前の事である。
「うちはお金がないから、これで我慢してね。」
それが母親の口癖であった。桃太郎が友達の家の話をすると、母親はきまって申し訳なさそうな顔をした。よその家はよその家。うちはうち。幼いながらに桃太郎はそれを理解した。しかし桃太郎は、自分が不遇であるとは思っていなかった。桃太郎にとって、父親がいないという事は当然の事であったし、母親の愛情が、この世界の全てであると感じていたからである。
しかし他の家庭とどこか違う。歳を重ねるにつれて、桃太郎は「父親がいない家庭」の子供であるという事を、無意識的に理解していったのである。そして父親に関する話題は、母親と桃太郎の間では常に「タブーな話題」であるように感じられた。
桃太郎の母親は、パートタイムのアルバイトをしながらお金を稼ぎ、桃太郎の学費と生活費を工面していた。そうは言っても大した金額ではない。生きていくのに精一杯であるという事は、幼いながらも桃太郎には十分理解できた。
「鬼を退治して、お金持ちになる」
桃太郎は幼い頃からずっと同じ夢を描いていた。学校の作文にもそう書いたし、周りの友人にも公言していた。桃太郎が一五歳になり、背丈も大人くらいになると、彼は旅立ちを決心した。
「少ないけど、これで我慢してね」
そう言って母親は、桃太郎にきび団子を手渡した。だがそのボリュームは、いつもの弁当の倍くらいに感じられた。特別な日だから、多めにしてくれたのだろう。その優しさが身にしみた。桃太郎は、旅立ちを前にして、内心の興奮を抑えられずにいた。鬼を退治すれば大金が手に入る。自分を育ててくれた母親に恩返しができる。そんな無邪気な野心を抱き、桃太郎は鬼退治に向かったのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます