第16話



【最終回・感謝の終焉】



「母さんも、気は強いが心は同じだ!」



「――赤ちゃんの頃」



「初めて俺の指を握ってくれた」



「初めて笑ってくれた」



「初めてこの腕で眠ってくれた」



「初めて寝返りをうった」



「初めてつかまり立ちした」



「初めて歩いた」



「何でも口に入れるし」



「深夜だろうと泣く」



「一つ一つの行動に、親はハラハラするんだよ。しかし同時に嬉しいんだ!」



「毎日が不安と感謝の連続だ!」



「大きくなっても感謝は変わらない」



「仕事中でも気にかかる。幼稚園で泣いてないだろうか?」



「小学校では友達できただろうか?」



「中学校ではいじめられてないだろうか?」



「時が経つのは早いもので、もう高校生か……」



「お父さんに言えない事もあるだろう」



「それでもいいんだ!」



「ただ、これだけは言わせてくれ」



「これまでの16年にありがとう。心揺れる思春期だ。ただの一つも嘘をつかれたことがなかったのは、奇跡に等しいと心得ている」



「最後に、一つだけお願いがある」



「俺はお前を信用している!! だから、お前が、ホントに本当!! 心の底から愛した相手が居るのなら、2回、2回音を鳴らしてくれ。1回だったら、お相手、察しの通りだ」



「2回だった場合、何が何でも!! 世界がひっくり返ろうとも!! 全身全霊をもってその恋を味方し、万が一、万が一にも、裏切られたら―― く!! 終焉だ」



「俺のありったけを受け入れてくれたなら、返事を聞かせてくれ!!」



ドン



扉を閉じたクローゼットの中からでも、二人には父親が土下座をし、頭を床に押し付けた本気が伝わった。



タケルは、ユリがうらやましかった。



ここまで本気の大人を初めて感じ取り、いったいユリはどうするのかと。



タケルがあまりに重い責務の念に駆られていると――。ユリの涙がポタリと手の甲に落ちた。



ひとしずくの涙が、タケルの心身を、理屈抜きで貫き通す。



感極まって抱きしめた。





―――― コン





―――― コン




ヤスオは立ち上がり、真意の丈を吼える。



「その恋、俺は信じる!!! 」



一見(いちげん)を省く事で、盲目の縛りを懸け、ヤスオは家を後にした。




――――【完結】



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10分で学ぶ小説の書き方 ねぎもば @negi1218

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