プレイ・2

「づっ!!!」


 無防備だった陰嚢を蹴り上げられ、衝撃で一瞬腰を浮かせ、そのまま膝から床に崩折れ、両肘を床に突き土下座のような体勢になった。私はおじさんの腕を掴んで起き上がらせる。おじさんはぶるぶる震えながらも私に従い、再び膝立ちになり腕を頭の上で組む。


 私はその姿を見て、おじさんが急に愛おしく感じて、おじさんの肩に手を置いてバランスを取って、おじさんの股にぶら下がったかわいい膨らみを蹴り上げる。今度は倒れ込むことを許さず、連続して蹴り続ける。一度、二度、三度、四度と立て続けに睾丸を蹴り上げる度に、おじさんは「うぐっ」だとか「ひうっ」だとか押し殺したような悲鳴を上げた。痛みに崩折れそうになる体を無理やり立ち直らせて、爪先で睾丸を弄び陰嚢の中でグリグリと逃がすと、女の子のように高い悲鳴を上げた。足の裏で玉を押し潰すと「ひあ」と鳴いた。そして間髪入れずに膝蹴りを入れると、おじさんはほとんど言葉にならない、声にもならない悲鳴を上げて床に転がった。情けなく股間を押さえて、内股で、ひどく滑稽な姿だった。


私は、床に転がるおじさんに囁く。


「もうおしまいにしたいの?」


おじさんは、咳き込み、荒い呼吸で喘ぎ、えずきながら


「もっ…と、やって、くださ…い」


と、かわいい声を絞り出したので、私は


「いい子ね」


と返して、床に転がるおじさんの頭を爪先で蹴ってあげた。おじさんは眉を寄せて苦しそうにうずくまっていたけど、顔を見たらその口角は上がっているし、下に視線をずらせば、ガチガチに勃起しているのが見えた。


 私はにこにこした。私のお腹の、おへそのちょっと下のところがじわじわ温かくなった。その時、寒さは吹き飛んでて、耳の奥でドクドクと血が波打っているのを感じた。こうした行為の中、普段なら聴こえる、チューニングを間違えたテレビの砂嵐みたいな、強い風が吹いているみたいな強い雑音は、完全にどこかへいなくなっていて、ざりざりした黒い線に覆われることも、視界が暗転することもなかった。私は私のままだった。これが、きっと私だ。私なんだ。私は嬉しくなって、そしてとっても楽しくなっていて、衝動に突き動かされるままに暴虐した。


 おじさんの体は適度に弾力があって、肉を蹴っている生々しい感覚が心地よく、くぐもったうめき声と時折聴こえる女の子のような高い悲鳴は愛おしく、ああなんと満たされた時間だろう。なんと有意義な時間───


「ま、待って、」


「は…?」


「お、願、い、す、少し…だけで…いいから…っ、やす…ませ…て、くだ、さい」


楽しい気分が一気に盛り下がった。おじさんは床に転がって顔は天を仰いでいる。激しく息を切らして口がしまらないらしかった。目もあっちこっちへ動いて少しおかしい。仕方ないなあ。


「じゃあ、少し休憩ね」


「あり、がとう、ござ、い、ます」


 床に転がるおじさんの体をぐいぐい引っ張って自分の方へ寄せると、おじさんはちょっと困惑してこちらに顔を上げる。私はおじさんの横へ座って、両手を伸ばして両の手のひらを見せて「おいで」ってやったら、したいことがわかったみたいで自分からごろんと私の腕に落ち着いた。


 私は、痛めつけた相手がぐったりしてる時に抱っこするのが好きなのでよくこういうことをする。だけど例えば奴隷関係にあったりするとこういうことはしないのかもしれない。私は遊ぶのが好きでプレイをしてる。主従とか奴隷とかはめんどくさくって、あんまり手を出してはいない。この遊びを始めた頃にちょっとだけ手を出してみたことはある。それでわかったのは私には向いてないらしかったということだ。あれは頭の回転がいいお姉様方がやるものなんじゃないかな。言葉責めとかバカには難しいよ。私は雑談したりハグしたりラフな感じでプレイがしたい。それって、そうじゃない人には「Sらしくない」とかって言われるの。私はやりたいようにやりたいだけ。


「気の合う人や相性の合う人に出会えたらいいだろうね。それが趣味の合う人だったらとても運がいいと思うよ」


「でも、なかなか出会えないんだぁ…おじさんもわかるだろうけど」


「おじさんもまだ出会えてないんだ。ずっと探してるんだ」


「そっかー。」


 私は、疲れて静かになったおじさんの頭を膝に載せて、そんなことをまったり話していた。気分は盛り下がったけどおじさんとのおしゃべりは楽しかった。肌寒さは鳴りを潜めて束の間だけ暖かかった。心も体も暖かかった。

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