プレイ・3
長くても3時間。それは私が飽きないで楽しめる時間で、超過すると私は飽きるってことだ。相手によっては「もっと長く」だとか「一晩中やってほしい」だとか言われることがあるんだけど…うん、私が言うのもアレだがお前ら正気か。
遊びが終わると、おじさんはうとうとし始めた。数分経たないうちにベッドにごろんと横になって、すやすや眠りに就いた。今回の遊び自体にはほとんど使われなかった、まっしろい布団は糊が利いてパリッとしたままだ。空調が涼しいので少し寒い。おじさんは体が火照っているようす。私との遊びは、ごっこではあるけど、やることがやることなだけに、相手の負担が大きい。
だから、私と相手はいつも「一夜限り」だったり「一度限り」だったりする。大抵、途中だったりひどい時は始まってすぐだったりに、「こんなことなら会わなかった」とか「こんなに痛いと思わなかった」とかって言われて、悪い時はそのまま一人で出て行かれるし、いい時でもホテルから出て別れる際に「また連絡するね」と言うくせにそれから連絡が来なくなったりしていた。だから、今日楽しんだおじさんとも、きっとその日限りだと思った。
時間が来て、ホテルから私たちは、おじさんの車が停めてある駐車場に連れ立って戻った。ホテルから出ると体を包む蒸し暑さと雑踏が耳に戻る。暑い。西日はあるも夕焼けにはまだ早い時間だ。私は電車だからここでお別れだ。おじさんはここにやってきた時と同じようにニコニコしていたけど、ちょっと歩くのがぎこちない。
「次はいつ会える?」
「えっ」
運転席に座って、さてさよならというところで、おじさんが言った。私はそれきりだと思っていたので、すごく驚いた。いやいや、社交辞令かな。たぶんそう。
「次は2週間後くらいがいいな、都合はどう?」
「マジかお前」
「うんマジマジ」
「えーと、2週間だとおじさんの体がもたないと思うよ」
つい、本音が口に出てしまった。それでもおじさんは笑顔のままで、私の言葉をとって続けたので私はちょっと笑う。どうやら本気らしい。ベテランさんだからだろうか。つまりドMだ、紛う事なきドMだ。そうか、ドMか~~~
「そうかな…うーん、でもまた会おうね」
「はいはい、またね」
「今日はありがとう。楽しかったよ。久しぶりに女の子と会えて嬉しかった。もちろん志穂ちゃんが相手でとても楽しかったよ。」
「こちらこそありがとう、ございます。」
苦笑した私の手をおじさんが取る。あたたかい乾いた、固い手だった。にぎにぎと握手してから、唖然として固まっている私をよそに、おじさんは車のドアを締めた。しかし、すぐにウィンドウを開けて顔を出す。
「またね志穂ちゃん」
片手を二回グッパーするのはバイバイのかわりなのかな?手を振ったあと、黒い車は颯爽と走り去っていった。
もわもわと暑い空気に、焦げ臭い排気が混じっている。車道を離れて駅前に続く通りを歩く。ドラッグストアにコンビニに、お弁当屋さんに飲食店。人いきれに空を仰ぐ。おじさんの手の感触が、自分の手に残っている。手のひらをまじまじと見つめて感慨に耽る。別れる時はいつも空虚感に襲われて寂しい気持ちになるのに、今日は寂しくならなかった。不思議な気持ちだ。
「へんなひと」
私の声は雑踏に紛れて消えた。
少女S ぶいさん @buichi
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