肌寒い
日々はどんどん過ぎて、夏休みに入った。ここ数日、気温は既に35℃を回っている。これからどんどん暑くなっていくんだろうか。気温が高いと調子がいいから夏は嫌いじゃないけど、あんまり暑くて暑すぎて溶けちゃうよ。茹だるような暑さだった。
だというのに、私は肌寒さを感じていた。この肌寒さは気温とは関係ない。自律神経がバグっているのか、心因性か、それとも気のせいなのかわからない。幼い頃からの感覚で、病院にも行ったがこれといって原因は分からなかった。たぶん自律神経が悪さしているのでしょうと言われて漢方薬を処方された。漢方薬は味のないきなこみたいで飲みにくくてすぐにやめてしまった。
この寒さは他の誰かも感じていることなのか、前にそれとなく亜希に聞いてみたことがある。しかし、亜希にはその感覚はないらしかった。「おばあちゃんみたいだね!」と笑われたものだ。確かに、筋肉量が落ちた人は代謝が落ちて熱を作りにくいとか、脂肪が多いと冷えに弱いとか、そんなような話を聞いたことがある。私はまだピチピチの17歳だ。まだおばあちゃんには早すぎる。その時は、「運動不足からかな?」ということで話は終わったが、実際にこの寒さはどこから来ているのかわからない。
例の事件の報道は苛烈を極めていたが、依然新しい情報はなく、今までの事件の詳細を繰り返し報道している。
「もっと楽しいニュースを流せばいいのに」
──なーう
「ねー、動物園でヤギの赤ちゃんが生まれましたーとかの方が面白いよねー」
──なーぅ
クロが私の独り言に反応し相槌のように鳴く。夏休みに入って、クロは私の部屋で過ごすことが多くなった。暑い廊下よりも古いエアコンのある私の部屋の方がまだマシということだ。リビングには新しいエアコンがあるので、ここよりは涼しいみたいだけど、慣れた私といたほうが気兼ねなく過ごせるのだろう。
「うーん…この人と会ってみようかなあ…」
スマホには「会えませんか」と相手からのメッセージが来ていた。例のまだ会っていない相手だ。実はやりとり自体は数ヶ月前からしていて、それでも会うにはまだ至っていなかったのだ。私は会いませんかと言われる度に曖昧に濁しては会うのを先延ばしにしていた。だと言うのに相手はまだ会おうとしてくれている。
誰とも進展がなく、夏休みを迎えた今、会うのもいいかもしれない。新しいことをしなくちゃ。
私は日時を決め、慣れた手つきでメッセージを打ち込み送信した。程なくして、相手から了承のメッセージが届いた。これで会う日は決まった。約束は二週間後、待ち合わせはいつもの駅。彼は
私は大量に出された宿題を亜希の家でやったり、一緒におしゃべりをしたり、買い物に行ったりした。普通の女子高生みたいなこともできるんだ。勘違いみたいな恋バナをして、くだらないことにいちいち笑って、笑いすぎてお腹が痛くなるみたいなこともある。
流行りに疎い私に、亜希は「この髪型が流行る!」とか「このブランドのワンピがキテる!」とか言って、ニコニコ笑って、私の手を引いて街に連れ出すのだ。そんな風に、亜希と過ごすのはとっても楽しい。亜希は夏が似合うハッピーな女の子だ。だけど、亜希といてこんなに楽しいのに、同時に漠然とした不安や寂しさに襲われる。
私は恋なんかしたことない。可愛い服もお化粧も、今時の歌手も芸能人も、亜希がいなければ知らなかったことだろう。別に、それが嫌なんじゃないけど、楽しさの中にさみしさが焦がれたようにチリチリと主張するんだ。
そんなことをしていて、約束までの二週間はあっという間に過ぎていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます