閑話

とある清掃員の証言 

 俺はとあるビルの清掃員をしている。名前は※※※だ。ここ、ピーって音を入れておいてくれよな。顔もモザイクをかけてくれ。こんなことがオーナーにバレたら、クビにされちまうからな!そこんところ、しっかりしてくれ!



 俺はシフト制で、毎日同じ時間にいるってわけじゃあない。だが、あのホテルを見下ろす形の、向かい合わせだとかそういう距離じゃあないんだが、ともかくあのホテルの窓が開いていると覗ける位置にある、とあるビルで働いている。あの日、あのメッタ刺し事件があった日だ。ええと、第3の事件だったかな?会社員風の20代男性が殺されたってやつさ。ああ、そうだ。俺は犯人を見たんだよ。


 俺はいつものように、掃除機、ああ、掃除機って言っても、業務用のでけえやつな!ありゃあズゴゴッって動いて、制御するのが大変なんだ。ん?ああ!事件の話?まあ、そう慌てなさんなって、ちゃあんと報酬の分は話すさ!おっと今のはオフレコで!そんでな、掃除機を制御っていうか、まあホースを持って移動するだけなんだが、いいじゃねえか、それも仕事なんだよ。


 そんで、事件の日、俺は掃除機かけながら廊下の奥に行ってな、夜のシフトは少人数で住人たちも家に引っ込んでるし、管理人も管理人室のある一階に引っ込んでるから、上階は清掃員の俺達しか出歩いてる人間は基本的に見ないんだよ。もちろん、こんな街だから、そんな時間から出勤してく奴らもいるんだけどよ。そんで、俺は掃除の合間に窓辺でタバコ休憩しながら、窓から見える夜景を見るのが好きなんだ。あのホテルのいくつかの部屋も、あのホテルの窓、磨りガラスにはなってるけど外はそこそこ薄暗いし、中の照明がついてりゃ影でおおよそはわかるもんさ。


 あの事件のあった部屋の窓、照明が付いてるだけじゃなくちょーっと隙間が空いてたもんで、中が見えたんだな。このへんはホテルって言ってもピンキリでさ、どんな客でも部屋を壊さなきゃどんな客でも拒みやしないだろ?まさか殺人が起こるなんて、まあ殺人もここらじゃそんな珍しくはないけどよ、清掃すりゃあまた元通り営業も再開できるさ、ここらはそう言う場所だからな。


 それはそうと、その日も窓の隙間から情事を覗いてたんだが、途中からぎゃあぎゃあ男が喚き出してよ、おっ、これはSMプレイか~~~元気だな~~~っつっておじさんもよ、笑って見てたんだが、どうも様子がおかしい。隙間から見えた男は血まみれで、助けを求めてる感じだった。


 俺が警察に連絡しなかったのはなぜかって?そりゃあ、勤務時間中にタバコ吸いながら人んち覗いてたのがバレたら困るからに決まってんじゃねえか。道徳心なんかクソくらえってんだ。他人を助ける前に、自分のおまんまの心配をしたいもんさ。



 あの晩、窓から見えたのは、化物だ。怪物か、妖怪かはわからん。鬼婆かもしれん。おいおい、待て待て!与太話扱いすんじゃねえよ!俺は見たんだ!窓に映った影はこの世のものとは思えない恐ろしい姿だったさ!頭がみょーにでかいっていうか、長いっていうかよ、イソギンチャク乗っけてるみたいな感じでよ、それがうねうね動いて血まみれの男をパクッと、そう、食べてたんだ…あれは人間じゃなかった…あ?俺は酔ってねえよ!ちょっと待てよ!俺の話を聞け!俺は犯人を見たんだ!そうさ!あれが連続メッタ刺し殺人の犯人さ!妖怪イソギンチャク!!おいおい待てったら!仕方ねえな…


 よお!面白いネタがあるんだ、買ってくれねえか!

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