第33話「宇宙人とドエスとメンヘラ少女と童貞卒業」

 結局のところ千葉港には何もなかった。アジトだと紹介された倉庫にはすでに何もなかったし、周辺を探し回ったがもちろん何らかの手がかりもなかった。

 その後マキナの部屋に戻り残されたパソコンなどから行先の手がかりを探ろうとしたがパスワードの時点で断念した。僕らのメンバーでこれを何とかできる人間はいない。


 畑は本当にいいやつで、乗り掛かった舟とばかりにやくざのネットワーク、つまり紅会の力で、マキナの行方を追ってくれるという。万が一にもないだろうが、危ない連中に誘拐されたという可能性がないわけではないからだ。

 しかし、幸いというべきなのだろうがそちらのネットワークに引っかかるようなことはなかった。


「本当どこ行っちゃったんだろうね、半年も探してるのに連絡どころか手がかりの一つもないなんて。」

 マリンちゃんはたびたび僕の部屋に来るようになっていた、はじめはお互いにマキナやソラを探すための情報交換のためだったが、半年もたって進捗がなくなると、ただただ、暇つぶしに来てるという感じになっていた。


「ご両親の存在もよくわからないしね、その辺の調査も畑に頼んだけど、孤児院出身だったんだなマキナは。中学でそこを強引に飛び出すと、JKカフェみたいなとこや、キャバクラとかで稼いだりして、全部自分の金で高校行ってたとか。それで浪人もせずにこの大学来てるとか、マキナは半端ないんだな。」

 もちろん18以下でキャバクラで働くのは違法なんだが、一人で生きていくためには仕方なかったってとこだろうな。

 それにしても高校の時に夜の仕事をしながら学校の成績は常に上位だったっていうんだから本当にすごいな。僕は高校時代なんて部活もやらず、ただゲームと勉強をするだけの日々だったけど、なんか情けないなぁ。


「高校時代の話面白いんですよ、学校ではいつも援交してるとか噂されて、最初は我慢してたけどムカついたから、噂してると思われる奴を、男女問わず片っ端からぶん殴っていったら、いつのまにか、女の子のファンばっかりになってたって言ってました。男はみんなビビって近づかなくなったとか。」

 マキナはものすごい強いからな。並みの男や女じゃ勝てないだろう。あの細い体のどこにあれだけの力が込められているのだろうか。


「そういえば太陽さんのこと褒めてましたよ、どんだけ蹴っても殴っても倒れないって、今まであった中で最も打たれ強いかもしれないって言ってました。撃たれることだけじゃなく、ちゃんと攻撃することも覚えればきっと、大会とかで優勝できるのにって言ってましたよ。」

 自慢じゃないが、相手の攻撃を痛いと思ったことはほとんどないしKOされたことももちろんない。が、いつも攻撃の手数が足りないので判定負けにされてしまうのだ。師範にもっと手を出せといつもきつく言われるが、どうも人を殴るのが苦手だ、じゃあなんで僕はキックボクシングなどをやっているのだろう。


「マリンちゃんは今日はバイトはいいのか?」

 今はまだ昼の12時だ。通常ならそろそろマリンちゃんは秋葉原にいって23時くらいまでメイドのバイトをしなければならない。そういう俺も平日の12時に部屋にいるのはおかしい、大学の食堂にいるならば話は分かるが。


「なんかだんだんしつこい客が増えてきたんでやめちゃいました。下手にライン交換したら、もうくどいくどい。みんなデートの誘いばっかしてくるんですよ。そりゃあ50万とか使ってくれたら1回くらいはデートしてあげますけど、一回来たくらいでLINE交換しようとして来るし、マジでうざい。」

 まぁそんな感じでマリンちゃんはメイドが天職だとか言ってた割に、すぐやめてしまうのだった。話を聞く限りもうこれで3回目か、雇ってくれるとこなくなるぞ。


 そういう僕はバイトとかどうなのかというと、実はきっちりソラが一億を残してくれたので、それを元手に株式とか、仮想通貨をうまく利用して正直ウハウハだった。

僕、たぶん仕事する必要ないわ。

 

 仮想通貨に関しては、なんとなくソラが作ったソラコインが不安な気がして(何せソラ自身の行方が不明なのだから)、ソラコインのせいで暴落してしまったその他の仮想通貨を超低価格で買えるだけ買った。

 

 すると案の定ソラの喪失から3か月ほどでソラコインは暴落し、代わりにほかの通貨が高騰した。おかげで僕の資金はわからないけど10億を超えてしまったのではないだろうか。


 ちなみに親にも、畑にも、マリンちゃんにもこのことは言ってないが、僕の羽振りがいいので、なんとなく気づかれてるかもしれない。そういえばバイトすぐやめてマリンちゃんは大丈夫なのだろうかと心配していたが、よく考えればこの子は、ほぼほぼ毎日僕に飯をおごってもらっているので、生活費などかかっていないのだった。

 思い出したぞ、なぜ僕がマリンちゃんの生理用品やら化粧品までかわなきゃいけないのだ!

 しかし僕とマリンの関係はこのままずっと続いていくことになる、マキナとソラを探すという目的で一緒にいる二人ではあったが、気づけば一緒にいることが目的そのものになっていた。


 結局、僕は大学を卒業しなかった。単位が足りずに(もちろん授業に出なかったせいだが)3年次に除籍になってしまった。親にはもちろん大激怒されたが、お金はあるわけだし、今後生活に困るわけではない。

 かといって、無職というわけにはいかないので、畑のすすめもあり、なぜか探偵事務所のようなものを作ることにした。


 とくに仕事があるわけではない、たまに畑が持ってくる浮気調査の依頼とか、キャバ嬢の人生相談とか(ルイさんの時の僕の説教が評判だったらしく、なぜか話をしに来たがる人が多くなった。)、少し危ない仕事では、ネットとかを見張って麻薬の取引らしいのを紅会に報告する仕事とか、そういうことをやっていた。


 お金のためというよりは情報収集のためである。

 幸い資金は大量にあったので、パルナレア大使館の近くに事務所を構えて、格安で仕事を請け負っていった。紅会がらみはかなりお金をいただいたが。

 しかし結局、ソラとマキナの情報は手に入らなかった。


 そして、ソラがいなくなって5年後、僕が25歳の時、童貞だった僕はなんと結婚することになった。


 相手はもちろんマキナ……ではなくて、マリンである。


 なんだかんだで僕とマリンの二人は、ソラとマキナを探すという理由でともに行動をし続けた。

 事務所設立の時もマリンはそばにいたし、探偵事務所ではいつのまにか助手という形で彼女はそばにいた。

 あれから、二人は日常をいつもともに過ごしていったのである。


 そして僕の童貞問題は、ソラとマキナがいなくなってから半年あたりの時点で解決してしまっていた。

 そのあたりの時期に、正直に言うと酔った勢いで、マリンちゃんに迫られた僕はあっさり陥落し、初めての相手がマリンちゃんとなった。


 まさか結婚するとは思わなかった。彼女の性格を考えて、絶対浮気しまくると思ったし、あんなドMな女の子をドMな僕が制御できるわけはないと思った。しかしマリンは思った以上に浮気どころか、僕から離れることさえ少なかった。

 

 おそらくそれは病的なレベルでの僕に対する束縛をしたからだったが、そもそも僕は本当に友達が少なく、話す相手は畑とマリン位であったし、マリンと一緒に遊びに行くのは毎回楽しかった。

 なのでぼくには心地よい束縛だった、そのことを畑に話すたびに、お前はよくそれでやっていけるなといわれるのだが、正直僕にはマリン以上の女は、それこそいなくなってしまったマキナ位なのである。マリン以外の女は眼中にないといってよかった。

 

 それにメンヘラ気質だったマリンの性格はすっかり落ち着き、変態プレイも一切しようとする気配がなかった。僕とはきわめてノーマルなプレイのみをしていた。たまに首を絞めてといわれたので、それは仕方なく何度かやったことがある。ってやはり変態じゃないか。


 そんな僕らが結婚したのは、よくあるできちゃったという理由である。妙に義理堅い僕は絶対に避妊は欠かさなかったのだが、マリンがもういい加減子供が欲しいとせがんできたので、24歳位から妊活を初めて、今年の2月に妊娠が確認された。


 そしてそれをもって結婚を決めた。こんな風に僕らのことを書くと、すっかりソラとマキナのことをすっかり忘れてしまったように思われるかもしれないが、ずーっと二人のことは探し続けてはいたのだ。

 というかもうバルナレア公国にいるということはわかっていたのだが、まったく入国許可が下りなくて結局そのまま5年の月日が経ってしまっていたのである。


 というわけで結婚した僕らは(二人とも友達が少ないので挙式はせず入籍だけ)新居を都内に建てたので引っ越すことにした。その引っ越し作業の途中で僕は思わぬものを発見することになる。


 そうすっかり忘れていた。廃人事件の時にとってあったソラのバックアップデータである。そのSDカードを部屋の引っ越しをする際にいまさらながら発見した。確か何かあった時は、ネット環境のつながらないところで見てくれと、言われてわたされたやつである。


5年もソラを探しておきながらヒントは自分の部屋にあったのだ。


僕はSDカードをネットのつながっていないパソコンに向かって差しこんだ。


 

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