第24話「パラダイムシフト」
ソラと出会ってからあっという間に1ヶ月がたった。出会いがあり、そしてメイド監禁事件があり、失恋して、廃人化事件があった。こんなに中身のあった1ヶ月を自分の人生の中で記憶していない。
あとソラは仮想通貨やら、株取引やらでもうけてるらしく、僕に口座を作らせると一定額を入金してくれるようになった。ほんとはかなり儲けてるらしいのだが、僕には常識的な範囲でしかお金をくれない。いじわる……。
ソラはそのお金でようやく、新しいスマホを手に入れた。ぼくは新しいスマホに変えて、古い方はソラの住みかとして提供した。
ちなみに古いスマホは富士通が出してる防塵、防水で強化ガラスを使用した丈夫なものだった。僕の新しいのはソニー製にしてみた、僕はソニー信者なのだ。
スマホを買ってすぐに、1週間ほどソラは僕のもとを離れマキナのところに遊びに行っていた。(とても寂しかったがそれは内緒だ。)遊びに行っていたというのは少し違うのかもしれない‥‥帰ってきたときソラの変わりように僕は驚かざるを得なかった。
小型のロボット、あのディアゴスティーニで作ることができたロビタ君をご存じだろうか。大体500mlの缶ビールくらいの大きさのロボットで、手足が動き、歩き、会話ができる優れもののロボットなのだ。
マキナはそれを魔改造しカメラ機能、通信機能を付け加え、さらにCPU性能を金の許す限り(ソラの仮想通貨による資金をつかった)、最強のものにしたのだった。
さらに、スマホとも接続できるようにした。ソラに頼まれてそれを作ったらしく、ソラはロビタに本体を移すことで自立移動ができるように進化したのだ。今までのように、カメラ位置を調整したり、電池充電の必要がない、もっとも移動に関してはゆっくりにならざるを得なく、ソラ自身もそれは相当フラストレーションを抱えていた。
「よくこんな器用なことできるよ感心するわ。」
僕は作り上げたマキナをほめあげる。自分にはとてもできない、もっともソラもそう思ったからこそマキナに頼んだんだろうが。
「私はソラ君の指示通りに組み立てただけだからね、一番面倒な制御の仕事はソラ君自身がやるわけだし。プラモデル組み立てるのとそんな変わんないよ。」
「それでも詳しくないと、組み立てとかできないよ。」
「そうかな、すごいのはソラ君だよ、あこがれちゃう。」
そういって、ソラをまるであこがれの人かのように語るマキナの表情は、なんとなく恋する乙女のようだった。
ソラにも居心地というのがあるらしく、ロボット状態でいるのは必要な時だけで、相変わらず一番初めのスマホにいることが多かった。だからコミュニケーションは、今まで通りだった。
さて、もうすぐ大学も夏休みに入ろうかという時折、試験も差し迫る中、そういえば僕がどのくらい大学に通ってたかというのは内緒だが、ソラが突然訳のわからない
ことを言い出した。
「太陽、お姫様を助ける王子様になってみないか。」
大学にもいかず2チャンネルでなんJに書き込みをしていた僕に唐突にソラはそんなことを言った。
「ん?どういうこと?」
何だろうお姫様を助けないかとか言ってたが、この物語は急に異世界ファンタジーになんてしまうということだろうか。
「お姫さまを助けるんだよ。」
「‥‥全然伝わらないんだけど。」
「君も大学生なんだから、パルナレア公国って国を知ってるだろう。」
「パルナレア?聞いたことないな。」
「知らないのか、ヨーロッパの小国だよ。国連加盟もしてないし、地味な国ではあるが、金融と情報工学、遺伝子工学ではそれなりに知られている。そこでクーデターが起こったというニュースはこの間流れてたじゃないか。」
「そういえば、クーデターのニュースやってたな。興味ないから流してしまってたけど。」
「これは、ニュースになってないが、今パルナレアの第一皇女イエンカ=パルナレアが来日している、自分の国にいたら危ないからな。警察ネットワークに介入して、わかったんだが。」
なんだか、ソラはちょいちょい警察のネットワークを利用してるな。ばれたら完全に捕まる。誰が捕まるんだろうなこの場合。
「イエンカ姫は親日家で、ジブリ美術館にどうしても行きたくて、避難先を日本にしてたのだが、それが裏目に出た。ジブリ美術館の周辺でどうやら行方不明になっている。警察は公表してないが、警視庁は上から下まで大騒ぎになって捜索中だ。十中八九誘拐されたんだろうな。」
おいおい、また誘拐話かよワンパターンだな。
「クーデター側が、姫の行動パターン読んで誘拐したってことか。」
だとしたら、姫様はずいぶん無警戒だな。というか、日本で誘拐話があったら向こうの国が大騒ぎするだろうに、いまだニュースになってないのか。
「クーデター側が誘拐したってのは間違いだ。何せこのクーデターの首謀者そのものがイエンカ姫だからな。」
「‥‥なんだって?イエンカ姫は国側の人間だろう。だって第一皇女なんだろ。」
状況がはっきり見えないな。お姫様自ら自分の権力を転覆させるのか。
「仲が悪いんだよ、イエンカ姫と国王のカランカはさ。大塚家具の親子みたいなもんだよ。加えてカランカは国民の評判が非常に悪い、無駄な建設物に、高い税金、コネしか使わない人事とか、愛人疑惑と悪口を言い出したらキリがない。」
典型的な独裁者かな、でも、それほどまでひどいという気もしないけどね。今どき王制を敷いてるくらいだから、愛人くらいいるだろうし、福祉をちゃんとさえしてれば税金高いのは仕方ないだろう。
「一方のイエンカ姫は国民人気が恐ろしく高い。生物学で有名なスタンフォード大学を卒業していて、評価の高い論文をたくさん提出してる、国の研究所の所長を自ら務めるほどの才女だ。さらにあまりにも頭の悪い父親に嫌気がさし、ユーチューブとかユーストリームで自分の父親批判や、自分が作りたい国家論を定期的に発信し続けた。そして何より…」
そういって、ソラは僕のスマホに画像データを送ってきた。
見るとそこには金髪の白人少女が映っていた。
「それがイエンカ姫だ。人類史上でもっとも美しいと最近話題になっている。日本だとファンタジーの世界がリアルに来た結果とか、2000年に一人のアイドルとかがかすんで見えるほどのかわいさといわれている。しかも年齢18歳!姫にして国民の総アイドル、それがイエンカ姫だ。」
確かにものすごくかわいい、これがCGだといわれても信じてしまいそうだ。可愛いお姫様といえばオードリーヘップバーンだが、それを凌駕するかもしれない。見るだけで失神してしまいそうだ。
「18歳だって……?大学出てるんだろ?」
計算が合わないじゃないか。
「普通の物差しにはかるな。スタンフォードを出たのは15歳の時だ、16歳からは国の大学で教鞭をふるい、さらに生物学の研究所で所長をしている。まさに才色兼備、国民からの人気があって当然だろう。」
18歳で美少女で、頭もいいって、もうパーフェクトヒューマンそのものじゃないか。
「どうだ、イエンカ姫に会ってみたくないか。」
どうやら僕の物語は、SFからお姫様を助けるファンタジーへと変わりそうだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます