第23話「最後は愛だろ?」
結局最後までマキナもソラも答えを教えてくれなかった。
聞くまでもなくわかってるけどね、なんもなかったに決まってる。
2人とも僕の反応を楽しみたいだけなのさ。
早速翌日、解決策を導いた僕らはその事実を、ルイさんに伝えることにした。
もちろん、実際に試してみたからわかったなんて言うことを伝えても、信じてもらえるわけがないので、そこはうまくごまかした。
「すでに治った例が何件かあることがわかりました。辛抱強く、子供に対して愛を伝えるという方法です。『必要なんだよ。』ということを繰り返してあげてください。それだけで、早い子は一日で元の状態に戻りました。」
「たったそんだけ…?信じられないんだけど。」
そりゃそうだろう、こんなあまりにも簡単なことで治るならだれも苦労しないはずだ、しかし…、
「失礼ですがルイさん、カルラ君が変な状況になってどのくらい彼と向き合いましたか。」
ルイさんの言ったことを思い出す。一緒にいると辛いから母親に任せていたはず。
「それはその…、もちろん向き合ってたつもりですが…。」
しどろもどろでルイさんは答えた。追い詰めるつもりはないが僕はそこをしっかり詰めていった。
「ルイさん、仕事に逃げたいと自分で言ってたじゃないですか。そもそも、親ともコミュニケーションが少なかった子が、今回の症状が起きたというケースが多いようです。僕が言うようなことじゃないですが、ちゃんと息子さんに接してあげてください。忙しさは子供にとって理由にならないということだと思います。」
まるで学校の先生とか、カウンセリングの先生のように僕はルイさんに
「……そうですね。全然ああいう状況になってからは逃げるようにしていました。もう一度ちゃんとカルラに、カルラとコミュニケーションを取りたいと思います。畑さんしばらく休みをいただいてもいいですか。」
ルイさんは意を決めたかのようにきりっとした表情に変えて、畑に伝えた。畑は「もちろん」といって快く承諾した。
ぼくはまた、他のママさんにも同じことを伝えるようにルイさんに頼み、また、ちゃんとカルラ君がもとに戻った時には、ツイッターなどで廃人化を治す方法を拡散してくださいと頼んだ。実体験に基づく情報ほど確かなものはないからだ。
そう、直す方法はわかったのだが、問題はそれをみんなに伝える方法だった。「愛を伝えてあげる」が解決方法なんて、あまりにも情緒的で非科学的だし、警察に言っても政府に言っても取り合ってもらえるわけがなかった。
そこで、僕はソラにルイさんのツイートが半ば強引に拡散されるようにプログラムをいじってくれと頼んだ、ようはハッキングになるのだろうが、まぁここはソラの力でばれないよう、うまくやってもらうしかない。情報を見て。だめもとで試した親が成果を確認すればやがて自然に拡散して、テレビ等でも広がっていくと考えたのだ。
しかしそれを言うと『別にそんなハッキングなんて非合法な方法取らなくてもいいだろう。すでに俺はツイッターのフォロワー数は100万人超えてるからな。』と言っていた。えっ、おい、お前いつの間にそんなことやってたんだよ。
マキナは『えぇ今急上昇中の@sora はやっぱソラくんだったかぁ。』と言っていた。何でも知ってるなマキナはと思ったが、何でもは知らないよ、知ってることだけ、とは言ってくれなかった。
ということでソラは拡散希望ということで以下の内容をツイートした。
「何でも知ってる宇宙人のソラです。今回例の廃人事件について相談を受けましたので解決方法を教えます。廃人になった方を深く愛することそれだけです。」
「本当にそれだけで戻ります。実践例の方のリツイートも紹介します。どうか廃人になった方に何度も何度も声をかけ続けてください。」
内容はこんなものだった。ソラは、何でも知ってる宇宙人の相談コーナーというツイッターで人気を博していた。何がすごいって送られてくるすべて(一日1万以上)の質問に正確に答えるのだ。
しかも、その質問は、勉強、科学、仕事、恋愛、政治、人間関係とありとあらゆるものに対して答えるので、フォロワー全員にソラは人間なのか疑われていた。
まぁもちろん人間ではないのだ。というか、なんでお前が恋愛の質問に答えられるのかは
ルイさんに話をしてから二日後、ルイさんから連絡がきた。カルラ君が無事に元に戻ったということだった。
「本当に、本当に太陽君ありがとう。もうなんて言っていいか…。」
あの後、ルイさんは仕事を休んでひたすら、カルラ君に語りかけ続けたらしい。ルイさんがどういう思いで、カルラ君を産んで、育てて、それで伝わらなかったかもしれないけど、あまり一緒にいてあげられなかったけど、本当にカルラ君を大切に思って、必要にしてて、そして愛してきたかを丁寧に何度も何度も伝えたのだということだった。
もちろんはじめは何も反応はなかったけど、そのうちうっすらと目に涙を浮かべるようになり、最後には、
「おかあさぁん。」
と叫ぶように大声をあげてルイさんに抱きついた。
たまらず、ルイさんも泣きながらカルラ君を抱きしめて、二人でずっと泣きながら抱き合ってたんだそうだ。
そしてルイさんは同じ症状になってしまった子供を持つママ友と、そして約束通りママ友ネットワークを使って「愛を伝える」こと、その成果を伝えてくれた。ネットワークを通じた人たちも、ママ友もみな信じてそれを実行した人は症状が治った。
また宇宙人ソラのツイートを信じた人たちの中にも、症状が治る例が各地で確認されたので、マスコミも、「廃人化が進んでるお子様をお持ちの保護者の方は精いっぱいの愛を伝えてあげてください。」とキャンペーンを張るようになった。
人気急上昇のソラのツイッターは、愛の伝道師、廃人化対策をいち早く示した神としてネット上の間、いやネットだけではなく日本中で一躍時の人となっていった。フォロワー数はうなぎのぼりに増えていき、なんだかいろんなテレビからテレビ出演の依頼が来ているという。もちろんソラはそれに出るわけにはいかないので、全部断った。
ということで無事に今回の廃人化現象は収束に向かっていったのだった。子供のほとんどは元の状態に戻ったらしいし、もちろんすべてではなかったが、そこは行政が何とか対処していくであろう。子供じゃなくて、廃人化現象になってしまった青年の解決は難しかったらしいが、そこまでは何ともできない。誰かに愛を伝えてもらうしかないだろう。
さて、そういえば僕は何か大事なことを忘れてないだろうか。
そうだよ何か明確なメリットが僕にあったはず、でなければ僕がこんなに危険な頼みを受けたりするはずがない。
確かルイさんと何か約束をした気がするのだが……。
思い出そうとしたがどうも、一時的にとはいえ廃人化のせいで記憶を失ってしまったようである。仕方ない迦楼羅君と全国の子供たちに笑顔が戻ったことが何よりの報酬だということにしよう。
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