第22話「トランキーロ!」
目を覚まし、気が付いた僕にソラは語り始めた。
「好奇心がポイントだったんだ。プレイヤーから得た情報で分かったのは、人によってオブジェクトの点数が違うということ。実際のゲームではあなたについて教えてくださいというアンケートが10問くらいあって、それによって、何に興味を持つか、判断してたようだな。興味を持っているものはポイントが高くなっていた。」
僕の場合は、セーラー服女子高生かよ。
「あれ、おれアンケートやってないぞ」
「先輩の趣味なんておみとおし。」
「おれも大体把握できてたし、太陽はたぶんアンケートを偽るからこちらからはじめに設定しておいた。」
なんで、僕の趣味知ってるんだよ…。
あっ、僕のFC2動画の履歴‥‥、そういや最近セーラー服ものばかりだった。
そういやユーチューブで、珍しい郵便ポスト画像集とかっての見てたよ。
くそっ、ソラめ、プライベートに干渉しないって言いながらきっちり調べてるじゃねえか。
「マキナの話だと、マキナ自身はそんなにたくさんのポイントが出るようなオブジェクトがなかったらしい。しかし、プレイ情報を集めていくうちに、オタク層、アニメに限らずアイドル、鉄道、プロレス、あとはサッカーのサポーターとか野球のファンとか、特定のジャンルをすごい好きっていう人間はそこに対するポイントが異常に高いことが分かったんだ。あとは色もすごい大事だ、好きな色のポイントは跳ね上がる。」
僕の場合は赤いハイヒールに、郵便ポストか、そういや食品でもリンゴは高かったな。
「好奇心に応じてポイントが高いっていうのはいいが、それがなぜ廃人化につながるんだ。最後に自分をソース化した行動が廃人化につながったんだとは思うが、そんなのが実際の脳に働きかけるものなのか。宇宙人のテクニックとしか思えないが。」
「それだと、今回の廃人の犯人が俺になってしまうだろ。たしかに太陽のいう通り、実際にそんなことが起きるとは俺も思えなかった。だから人体実験したんだ。結果君は10時間ほど廃人だったよ。本当にそうなるとは作った俺も驚いてる。」
10時間廃人だったのか。いまは深夜3時、確かに夕方位からの記憶がちょうどない。
「で、なんで俺は廃人化したんだ。わかってるんだろう。宇宙的技術じゃないのか。」
ケータイだけでそんな技ができるとは思えない。
「廃人は一種の脳の錯覚なんだよ。実は自分をソース化しても必ず廃人になるわけではない。廃人化する例とそうじゃない例がある。そうじゃなければ、自分をソース化する段階があるという情報が入ってこないからな。このゲーム、興味のあるものをだんだん吸収していくゲームのように思えるが、実は画面を見ると現象は逆なんだ。わかるかい。」
画面は逆?
確かこのゲームは撮影するとそのオブジェクトは、画面には二度と映らなくなってしまう。つまり、撮影すればするほど画面の上では…。
「…興味のあるものの存在が消えていく…」
「そう、吸収したものは黒く塗りつぶされ、ないものになってしまう。ゲームに夢中で画面しか見てないプレイヤーはその物体が現実にも本当にないような気がしてしまっていた。ぎゅーーっていう音も重要でね、あれはかなりインパクトの強い音にすることで、正常な感覚をマヒさせる働きをしている。」
ぎゅーーーっは確かに中毒性強かったんだよなぁ、あれか、スロットとかパチンコの演出の際の無駄に派手な効果音みたいなもんだな。ぴぴぴぴぴぴぴぴーーん的な。
「プレイヤーは段階が進むと、他人を吸収するようになる。それはすなわち、他人に興味がなくなっていくということだ。実はこの段階でかなり正常な心理状態を奪うことに成功しているのだ。」
恐ろしいゲームだな。
僕はソラに解答を出してみた。
「それで、最後に自分自身を吸収し、自分が自分に興味がないと思わせた、自分に価値がないと思わせるようにしたと、そういうことでいいかい。」
「そういうことだ、画面の中のことだが、自分が失われる感覚になったんだ。だから、はじめに言った通りこの廃人化はただの錯覚なんだよ。」
ただの錯覚…、一時的に自分の価値を失う。『生きる意味を失った』とそんな感じかな。
「それじゃあ、被害者のほとんどが子供なのは?」
説明がつかないじゃないか、それならプレイヤーみんなが廃人化してもおかしくない。
「おいおいおい、だから君は廃人化したんじゃないのか。普通中学とかに入って、社会性が身についてくると自分自身の価値をある程度知るし、自分への興味っていうのは薄くなるんだよ。他人があっての自分っていう風に、他人によって自分が決定されるんだ。子供とか君のような人間は、自分自身こそが自分を決めているという思い込みが強い。簡単にいうと自分大好き人間が、今回廃人になったんだよ。」
えっ、それって僕が子供ってこと。成長できていないってこと?自分大好き人間だってことですか。社会不適合人間ってことですか。
「別に悪いわけじゃないと思うぞ。そういう人種の方少ないからある意味貴重だと思うしな。ある意味じゃメンタルが強いんだよ。素敵なことじゃないか。マリンちゃんなんて、自分の価値を見つけられないからあそこまで他人に依存してるんだし」
そのマリンちゃんは、今日から新しいメイド喫茶で働きに行ったので、今はいないらしい。
「マ、マキナは。マキナだって自分が好きじゃないか。なんで廃人化してないのさ。」
そうだ、マキナはマリンとの対極にある自分が強すぎる女子だ。俺よりよほど廃人化しやすそうなもんじゃないか。
「私はほら、飽きっぽいし、自分自身をソース化するレベルまで上がんなかったの。っていうか、オブジェクトのポイント低くてさ、街行く人々のポイントが10ソースとかだったし、バーレスクのグッズですら50とかだったよ。こんなんじゃ絶対レベル上がんない。なんだこのくそげーって思った。」
今まで黙ってた口を開いた。
それって、マキナさん他人とか物に興味なさすぎやしませんか。
たしかに僕は自分大好きだし、12歳以下の子供ってみんな自分優先だもんな。
いろんなものに興味があって、自分には無限の可能性があるって信じている。大人になると、自分の可能性をある程度知っちゃうもんな。じゃあ俺ってまだ自分に可能性があるって信じてるのか…。
「わかったよ。で、どうやって戻したんだ。僕のこと。」
今こうして戻っている以上、戻す方法があるってことなんだろうからね。
「だから錯覚だからね。自分に自信があるとか、生きていいと思わせればいい。あるいは人生に生きてる意味を与えるような刺激を与えるのでもいい。手はいくらでもあるさ。」
「刺激を与えればいいって、電気ショックとか、バンジージャンプとかか。」
「バンジージャンプはありかもしれないが、電気ショックはただの刺激だろ、精神的な意味の刺激だよ。だから、君をその気にさせるために言ったマキナの提案は童貞の君にとっては、あながち間違った方法じゃなかった。」
「セックスってことか。それ子供にやらせるのは倫理的にどうよ。」
「だから、そういう手もあるってだけだよ。子供に価値を与えてあげるのはやはり親の愛だろうね。時間をかけてでもゆっくり必要な人間なんだよってことを伝えてあげるのが一番だと思う。愛を伝えてあげるっていう何とも古典的な、そして情緒的な手段がこの現象への対処法ってことさ。」
子供に愛を伝えてあげるか。ほんとうになんだか啓発セミナーみたいな結論だな。
自分しか見えていない子供が廃人化し、それは他人がその子を認めてあげることによって、愛を伝えることで回復するという結論。まさか最後「愛」が出てくるとは思わなかった。
よく考えればルイさんの子供もケータイゲームに夢中になるくらいだったし、ルイさんの仕事を考えればほとんど接触なかったのかもな、もちろんルイさんは子供を守るために働かなきゃいけなかったし、すごい愛してたんだと思うけど、伝わるかどうかは別問題だったか。
壊れるほど愛しても3分の1も伝わらないという意味が、実は男女の恋愛に限らないんじゃないかと今僕は改めて思った。
「あれ、そうなるとなぜ、こんな短時間で僕は戻ることができたんだ?……まさか、マキナ本当に?」
僕は例の約束を思い出し、マキナの方を向いた。
愛の刺激によって戻るというならならば、最も効果的な手段は一つしかない。
真剣なまなざしで僕はマキナを見つめた。
答えは一体なんだ、返事を待ちきれない、僕は廃人化の間に初体験を済ませたのか?そういえば、なんとなく誰かの体がずっと隣にあったような気がする。
そして答えを待つ僕にマキナは言った。
「その答えはもちろん…。」
じっくりと間をあけて、そして、人差し指を僕の唇にあてながら、
「トランキーロっ☆あっせんなよ!」
とまさかの新日本プロレス内藤のきめ台詞を言った。ウインク付きで。
女子がいうとかわいいですね、そのセリフ。
マキナはそうプロレス女子でもあった。
まあきっと、にわかだけどね。
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