第21話「ザ・ソース」

 気づいたときには丸一日たっていた。


「先輩おはよう。」

マキナが珍しくやさしいトーンで挨拶してくれた。

「何とかなったぞ。」

 相変わらずマキナのケータイの方から話しかけてきたソラ。


 そうか、まったく状況はわからないが、どうやら事態は解決したらしい。この間のマリンちゃん救出のように達成感がない。

 何かをした感じのしない僕だった。

 いま僕の視線の先には知らない天井が映っている。

 どうやらマキナの部屋で眠って、いや気を失ってしまっていたらしい。

 つまりそうか、やはり僕は廃人になったのだな。


 ゲームの最初の方は覚えている。

ゲームを起動すると、ハイティーンの可愛い魔女が出てきて、「あなたは魔法使いです。現実世界のあらゆるものを魔法力に変えて、このゲームの世界でそれを解き放ち敵を倒してください。」といわれた。

 カメラモードに変えると、映ったもの、例えばテレビは青色に点滅して、それが魔法力を吸収できるオブジェクトだということがわかる。そしてそれをタップして指を円状にくるくる回すと、という音がして、ケータイに吸い込まれるようなエフェクトになって魔法力の吸収となる。


 このていう音が何とも心地よくて、中毒性があるように感じた。


 どういう技術なのかわからないが、吸い込まれたオブジェクトがあった空間は何もなくなる黒い背景になって、そのオブジェクトの影だけが残る。


 部屋の中の何個かを試してみたがどうやら物体によってポイントが違うようだ。

テレビやパソコンは100ソース(エネルギーの単位)くらいで、食品は10ソースほど、マキナの玄関においてあった赤色のハイヒールは1000ソースもあった。


 部屋中のなかにオブジェクトがなくなってしまったので、外に出て、いろんなものの撮影を始めた。咲いていたタンポポなんかは意外に200ソースあったり、電柱は5ソースだったりいまいち基準はわからなかったが、郵便ポストは2000ソースとかなり高い数値を出した。しかもポストはスペシャルスキルゲットまでついてきた。


 火属性の魔法が使えるようになったらしい。


 撮影の他、敵を倒す方本編の方も進めてみた、がそっちはかなり単調で、集めたソースを使って敵にぶつけるとそれだけのものだった。何の攻撃も効かないスライムみたいな敵がいたので、おそらく手に入れた火の力で何とかするのだろう。

 

 撮影の方は本当に楽しかった。どんな物体がソースがたくさんもらえて、スペシャルスキをが手に入ることができるのか、それがこのゲームの醍醐味だと思った。あと、って音がすごい中毒性があった。

 ルイさんの息子カルラ君のように僕は夢中で撮影していった。結構撮影したものは覚えている。はて、一体僕はどこで記憶を失ってしまったのだろう。


あれか‥‥。


 僕は思い出した。このゲーム、レベルが上がることで動物や人物もソース化できるようになるのだ。もちろん試した。猫や犬、ダンゴムシ、カラス、学生、社会人、OL、買い物帰りのおばちゃんなどなど…、点数の高かったのはもちろん放課後のセーラー服女子高生だった。放課後のは関係ないけど。


 これはおそらく放課後の女子高生を撮影するというリスクの高さを示しているのだろう。何と10000ソースが手に入った。しかもスペシャルスキル獲得「ソース1.2倍増量」が手に入った。すげえな女子高生、ちなみにセーラー服は10000だったが、ブレザーの場合は2000だった。


 しかし、盗撮だと疑われないようにさらっと女子高生を取るのは難しかった、少なくとも画面の4分の1の大きさが必要で、しかもバックショットはダメ。ケータイをいじるふりしてすれ違った女子高生を瞬間的に取るっていう作戦を敢行した。

 撮ったあと、割と大きな音でて音が鳴るので、だいぶ怪しまれたであろう。

 セーラー服で10000なら、体操服、いや、スク水なら一体…と思わずにいられなかったが、衝動は抑えた。このままでは廃人の前に囚人になってしまう。そういえばマキナで試すって手があったが、その機会は訪れなかった。

 

 さてさらにレベルが上がったところで、チュートリアルの魔女が語り掛けてきた。

『カメラモードの切りかえができます。』

 画面の左上に点滅している箇所があったのでそれを押すと、カメラがインカメラ、つまり自分を映し出す方に変わった。

 すると、インカメラに移ってる自分が赤く点滅していた。どうやらソースに変換できるらしい。特にためらうこともなく僕は自分自身をタップしてくるくる回した。


ぎゅーーーーーーーーーぅうっ!


すごい大きな音がした。


そこからは何も覚えていない。


それから気づけば、僕は今に至る。




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