第10話「危険な友達」
「宇宙人かよぉマジかっ。すげーぱねぇー、今どきの宇宙人はケータイに住むんだな。やべぇな昔はUFOとかに乗ってやってきてたのになぁ、斬新ー」
うるせー、テンション高すぎるわ。大体なんだよ今どきの宇宙人て、話聞いてたか? お前はUFOでやってきた宇宙人を見たのか? UFOでは星間移動できないって話をしてんだってば。
「ソラ君超かっこいいじゃん!光そのものとか超グリッドマンじゃん」
グリッドマンって、誰がわかるんだよ。僕もわからないぞ。
電話で呼び出すと、15分ほどで畑はやってきてくれた。
「太陽の頼み事なんて、そんな珍しいこと聞くに決まってるだろ」
っていって、快諾だった。いいやつだなぁ……。
さっきはソラとマキナにひどいこと言われたばかりなのに。
一通り今回の出来事を伝えたあと(畑も宇宙人の件に関してはあっさり受け入れてくれた。もう少し疑っていいと思うのだが。)本題を切り出すことにした。
「で、畑に頼みっていうのはさ」
しかし、畑にとってはそれは、もはやいうまでもないことだったらしい。
「オーケー、オーケー。言わなくてもわかるさ。親父に頭下げろってことだろ。」
畑のおやじ……そう、彼に用があった。
「そんなこったろうと思ったぜ。マリンちゃんもかわいいし、なによりマキナの頼みじゃ断れないしなぁ」
畑の親父の名前は、畑
何を隠そう紅会の現会長である。
瀬織はその末っ子であるらしい。
自ら公言しているわけではなく、昔この親子に知り合う機会があって、僕がたまたま知っていた。畑瀬織がそういう関係者だと知っている人は少ない。ひょっとすると大学では僕くらいしかいないかもしれない。
「一応、俺はやくざ稼業にはもう手を出すなって親父に言われてるし、基本俺になんの力もないけどな。しかし、今回の件は人助けだ。それに、親父にとってもこれは看過できない事態だ。人身売買はともかくだな……」
といったところで露骨にマキナの表情が変わった。人身売買をともかくにできてしまう畑に不信感を抱いてるといった感じだ。
「マキナ言いたいことはわかるが、そんな顔しないでくれ。やくざ稼業の中では、行き場のなくなった女の子が、怪しいところに連れてかれるなんていうのは、そんな珍しい話じゃないんだ」
想像したくない話ではあるが、事実なんだろうな。それでもだいぶ。そういうのは減ったとは聞いているが、僕の知識は実話系雑誌に基づいてるので細かくは知らん。
畑はさらに話を続ける。
「今は一般の常識はおいて考えてくれ。やばい世界という前提で話しよう。話を戻すが、十文字はけじめをつけなきゃいけないはずの河原を、自分の愛人にするために囲ってしまった。これは上に立つ人間にとって致命的だ。筋を欲で曲げちまったからな」
「筋ですか?」
マキナはあまりなじみがないといった表情の顔をする。
「ああ、筋は大切だ。しかしまあ、十文字のおっさんのことは昔から一応知ってたが、そういう趣味だってのは初めて知ったよ」
まあ、普通隠したい趣味ではあるよな。自分の上がゲイだって分かった瞬間舎弟はついてこないだろうし。
「やくざの世界で、というか特に
「じゃあ、結構その十文字って本部長だっけ、その人は、結構危険な橋を渡ってるっていうことなんですね」
マキナの顔が少し明るくなった気がする。今の畑の話になんかの光明を見出したのだろう。
「ああ多分な、そしてマリンちゃんを監禁してるってことを、組は多分関知してない。紅会はフーゾクのみかじめの仕事とかスカウト関係とかはあるが、裏で女を扱うような仕事はしてない。紅会くらいの大きな組織だと、警察とも仲良くやらなきゃどうにもならないからな、そうそう露骨な犯罪はしない。特に今性犯罪にはうるさいしましてやクスリとなればな」
ヤクザに関わりたくないっていいながら、さすがに結構詳しいな畑。
河原という男はクスリにも性犯罪にもどっぷりだ。それを囲ってる十文字の本部長という立場を危うくさせるには十分な爆弾だな、もちろん紅会にとっても放ってはおけないのか。
しかし、それだけのリスクを冒してまで河原を囲うっていう気持ちがわからないな。……そういえば、いまんとこ出てきた人間ゲイばっかじゃないか。大丈夫かこの物語、あとでLGBTからクレーム来ないだろうな。
「なんとかなるの畑先輩?」
不安そうにマキナはたずねた。
「……親父に言えば一発だろう。証拠なんてそのラインのやり取りとか、河原と十文字の写真で十分だ。警察じゃないからな。今日中にマリンちゃんは開放されるはずだ。証拠の出どころは適当にごまかしといてやるよ。さっそく連絡してみよう、クスリがらみの案件だし親父もすぐ動くだろう」
そういって畑はケータイを取り出しながら、いったん俺の部屋を出ていった。さすがに俺らの前で話すわけにはいかないんだろうな。
ふとマキナの方を見てみると、マキナからほっとした表情が見て取れた。眼には少し涙が浮かんでる。
「畑先輩……ほんと、ありがと……」
マキナは顔をうつむけてぼそっとそういった。畑に頼んでみてよかった、とりあえず何とかなりそうだ。
外にでて、10分位で畑は戻ってきた。
「ちょうど親父は暇だったらしく、電話にすぐ出てくれた。俺からの電話なんて珍しいから驚いてたよ。十文字と河原の件を話したら、ちょうど親父の方でもいろいろ探りを入れてるところだったらしく、むしろ感謝されたよ。今回の件は格好の餌だとさ、十文字派を整理する火種にさせてもらうんだと。さっそく組員を派遣することになった」
会長にとっても渡りに船だったか、うまく行き過ぎて逆に怖いくらいだな。ご都合主義が過ぎるというかね。
「あんま、親父さんには借り作りたくなかったんだろう。よかったのか。」
「気にするなよ、むしろ気にするなら頼むなよ。結局のところむしろ、貸しを作った形になったからな、お前に一個くらい貸しを作っておきたかったんだ、俺にとってもラッキーだったぜ」
それはなによりだ、そういってもらえると僕も気が楽だ。ただ、気になるなこういう時の貸しって本当に高くつくからなぁ。
「あと頼みたいんだが、警察には知らせないでほしい。親父たちが動きづらくなる。それから、マキナわかってると思うが、俺の素性は誰にも言わないでくれよ。ばらしたら沈めるからな」
畑は笑いながらそう言った。おい、そのジョークおまえが言うとまじ恐いから、ブラックジョークが過ぎるわ。
「……はははっ、言わないよ。もう、怖いこといわないでよっ。本当にありがとうね先。」
マキナは涙をぬぐって微笑みながら答えた。
それにしてもこいつ、メンタルやばいな。こいつ組長の子供なんだぜ。そのブラックジョークを平然と受け止めるなよ。
「じゃ、……言わないついでに、畑先輩、お礼に今度Hなサービスするね」
…!?おい、マキナおまえ今何って言った。
僕は心の中で声にならない声を上げる。
「おぉ、マジで!やったぜ、おもいっきり濃厚な奴頼むぜ」
僕の驚きをよそに、畑はいつものチャラいノリでそう答えた
おれはすっげぇ表情で二人をにらみつけた、いやもう無意識で。
「わーわー。太陽、怒んなよ、なんだ泣きそうじゃねぇか。大丈夫だってお前のマキナちゃんを取ったりはしないよ。マキナもあんま太陽のこといじめるなよ。シャイなんだから本当。それにたしかマキナはゲイなんだろ? そんなお礼がわりのHで俺はテンション上がんねぇよ」
とあわてて俺に弁解を始める畑、畑にとっても、マキナにとっても、ジョークのつもりなんだろうが、それが通じない俺だった。
そうか、ジョークだったのか。ふう、なんだよ二人で寄ってたかってさ!
「でもまじで畑先輩ならいいのにな……。あーあ、太陽先輩マジで邪魔者じゃん。畑先輩って友情を優先できる、すごいいい人なんですね。好感度あっぷ☆」
なんだこの状況……なんか理不尽じゃない?
えっ、マキナってこんな人だっけ。
俺も今回マキナのためにいろいろしたよね。
ねぇ、ソラ何か言ってくれよ友達だろ。
僕は横目でちらっと、ソラのスマホを見る。
「お前は、会って半年たたないと友達認定しないんじゃなかったか?」
がくっ……宇宙人にも見捨てられたぜ。
ずいぶん砕けた最後になったが、こうしてあっさりとマリンちゃんの救出ははたせそうであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます