第3話人体模型

    理科準備室に人体模型が一つある。少し黄ばんでいる古い型の模型だ。数年前に内臓の取り外しが出来る新型の模型が導入されてからはお役御免になって、準備室の窓際に置かれていた。

    清掃の時間、理科準備室の窓は基本的に開けられている。けれど諸々の標本などの劣化を防ぐためにカーテンは閉められており、室内はカーテンの薄青を映しつつ暗く滲んだ。カーテンを背に此方を見下ろす人体模型。ふとした瞬間に目が合うのが嫌いで、私はいつもカーテンの向こう側に模型を追いやって掃除をしていた。


    その日は、友達がこっそり担当の教室を抜けて理科準備室に遊びに来ていた。人体模型はいつも通りカーテンで隠されていた。数人でふざけて回るうち、一人の友達が窓の方へと倒れ込む。カーテンを掴んで彼女が座り込み、ガシャンと外から何かの割れる音がした。

「あ、人体模型!」

「壊れた? 怒られるかな……」

     窓の外を覗くと、人体模型が仰向けに倒れていた。欠けたり壊れた部分は見当たらないようだがどうだろう。

「こっそり拾いに行けば大丈夫かも」

    待って。急いで回収をしなければと出口へ向かう私達に、座り込んでいた友達が消え入るような声で言った。

「……あれ、本当に人体模型?」

「え?」


「ぐにゃって軟らかくて、暖かかった。人間みたいに」

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