第2話 三角池
家のすぐそばに三角池という人工の貯水池がある。名前のとおり直角三角形をしていて芦や藻が生い茂っている、お世辞にも綺麗とはいえない池だ。この池で数年前に自殺未遂事件が起きた。自殺を謀ったのはイジメを受けていた小学生だった。水があまり溜まっていない状態だったので溺れることが出来ず近くを通り掛かった人によって救助されたのだ。少年はその後問題を解決し、他の県で人が変わったように快活になったらしい。なんで私がそんなことを知っているかというと、一連の騒動が平和で退屈な町を騒がすちょっとしたニュースになっていたからである。そんな池に、少年の幽霊が出るという。
私がその噂を聞いたのは小学四年生のときだった。死んでもいない霊とはなんなのか無性に気になって、放課後に一人で三角池へと向かった。田んぼに囲まれた中に高いフェンスで出来た三角形の覆いが遠目で見ても異様な雰囲気を醸していた。
池に着いても周囲には誰も居なかった。大して広くもない三角形の周りをグルグル回り、結局誰も居なかったので帰ろうかと池から背を向けると、不意に声がした。
「死にたかったのに。つらかったのに」
涙混じりのその声は少年とも少女ともつかなかった。
「もう嫌だ。苦しい、怖い、辛い、さみしい、消えてしまいたい」
私は振り返らずにその声を聞いていた。辺りがまだ明るかったからだろう、不思議と怖くはなかった。声はだんだんと細り、最後に一言だけ呟いて消えた。
「全部捨てていくなんて、押し付けていくなんて、ずるい」
自分の感情を殺したのだとしたら、彼の自殺は成功していたのかもしれない。少年は別の県で、人が変わったように快活になったという。
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