怪奇というには生ぬるい

梅丸

第1話窓の外

コツン

部屋で読書をしていると、窓の方から硬そうな音がした。またか、と小さく溜め息を吐く。森のすぐ近くに住んでいるので、夏の夜はよく窓ガラスにカナブンが激突してくる。窓から漏れる灯りに寄ってきて、そのままぶつかってしまうのだ。そして死ぬまでガラスへの頭突きを繰り返し、朝になると力尽きてベランダに転がっている。

リモコンを手に取り、部屋の電気を消す。光に集まっているわけだから、こうして暗くしていれば五分と経たずに森へ帰って行くのだ。スマートフォンの画面を確認すると時刻は現在午後十一時少し前。自分もそろそろ眠ろうかと敷きっぱなしの布団に潜り込むと、また音が聞こえた。今度は数回連続で。そして、十秒と経たない内にまた数回。どうやら虫は一匹だけではないらしい。

軈て音は一定のリズムで聞こえ続けるようになった。コン、コン、コン、と等間隔で叩かれる窓。明らかに虫ではない。二階なので恐らく不審者ではないと思うが、気になった。暫く待っていると音が止んだ。やはり虫だったのだろうか。窓に近付き、ソッとカーテンを開いてみた。

カーテンの向こう側には誰も居らず、窓には両面に網戸が張ってあった。

コツン

自分のすぐ隣で一回、音が鳴った。

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