第14話
「なんだよそれ、馬鹿にしてるのか?」
カイルの中に怒りが湧き上がってくる。
「バカになどしていない。一体どこからそんな発想が出て来るんだ」
「絵師たちが魂を削って精霊を描いていることすら、まったくわかってないじゃないか。…まあ、そもそも何も描かれてないブランクなんかを手にしている奴になんて、永遠にわかりっこないだろうけどさ」
自分が精霊の恩恵を受けていることも忘れ、彼はブランク・マスターという立場でさえ『残念ながら』と言い切るのだ。
傲慢すぎる少年にケルベロスが与えた称号など、愚かしいとしか言いようがない。
「何を言っている?」
「君の言葉は絵師どころか、ブックマスターすべてを侮蔑したのと同じだ」
なぜカイルが絵師とならないのかを問うたことさえ、おそらくトキには意味などなないのだろう。
「…人の身にはすぎると理解しているからこそ、おれはブランク・マスターなんて名を冠しているのだがな」
そんな言葉にも耳を傾けず、カイルは言い募る。
「どうせお前が払った大金も、俺の身柄の担保のつもりだったんだろ。ワットさんの店に預けたままだし返す。万一足りなければ請求してくれてもいい。だから帰ってくれ」
大量の金貨を家に置いておくのは怖いと、ワットに預かってもらっていることさえ悔やまれる。
「…今は何を言っても無駄のようだな。だが金はサラマンダーを手に入れた相応の対価だ。本当はあれでも足りないほどの物を、おれは受け取っている」
「…なんだよ、あれでも足りないって」
「お前には関係ない、そうだろう?」
意趣返しのつもりか、トキは眉を上げてからかうような笑みを浮かべる。
こんな少年の元に絵が行ったと思うと癪だったが、返せというのはさすがに気が引ける。カイルはトキに背を向けた。
「そこまで頑固だと、いっそ清々しいな」
そんなことを呟きながら、椅子を離れ戸口へと向かう足音。
「カイル」
扉を開けたトキが名を呼ぶ。
「出てけよ」
カイルは、トキに背を向けたまま言葉を投げつけた。
「オルガ・ディプトリーという名に、聞き覚えは?」
「…は?」
カイルは驚きに目を見張る。
まさかその名を、この少年から聞くことになるなど思ってもいなかった。
「お前、一体何を知っているんだ!?」
一日だって忘れるはずもない、彼女の存在を。
なぜ、それがトキの口から出てくるのか。振り向けばトキは挑むような表情で告げた。
「お前に一晩考える時間をやる。知りたければ俺の屋敷に来い。明日昼ごろにまた顔を出そう」
返事をする間もなく、気づけばトキは扉の向こうに消えていた。
慌てて追いかけてみたが、彼の姿は道のどこにも見えなかった。
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