第11話
すぐ近くだし、時間があるなら見に来るかい?そう言ったカイルについてきた少年は今、家の小さなダイニングに収まり、出されたお茶を飲んでいた。
「そういえば、名前も聞いてなかったね」
一緒に歩いていた際には、カイルの描いたサラマンダーに対する思いを熱っぽく語る少年が微笑ましく、尋ねることをすっかり忘れていた。
「失礼した。トキ・アルファザードと言う」
いくつなのかを問えば、少し間があって十三だと答えた。
街中をはしゃぎ回る子どもたちとほとんど変わらない年頃にも関わらず、トキと名乗った少年には風格があった。
まとう腰帯の生地含め、身に付けたものは決して派手ではないのに、ひどく値が張るであろうものであることと、年不相応なほど落ち着いているのを除けばごくごく普通の子どもである。
強いて変わっていると言えば、耳に心地よい美声と大人びた空気。そして、どう見てもナイフではないサイズの柄だけの剣――
あれで殴りつければ相当痛いというくらいで、護身用にしても役に立ちそうもなく、何に使うのか見当もつかない。
アトリエとは名ばかりの寝室を兼ねた部屋に案内すれば、壁や床に
「あっちも見ていいか」
「構わないけど…下描きや素描ばっかだし、面白くないよ?」
古い物を見られるのは気恥ずかしく、大人ならば断わっていただろう。けれど自然と頷いていた
トキは画帳のひとつひとつを、カイルも呆れるほど時間をかけて眺め始める。
しばらくの間好きにさせていたが一向に終わる気配がなく、さすがに呆れて声をかけた。
「そんなにじっくり見てたら、何時間あっても足りないよ」
「…そうだな」
カイルの言葉に渋々ながら頷いて手を離したが、山を振り返りながらひどく残念そうな表情を浮かべる姿は、珍しく年齢相応に見えた。
そしてトキは部屋のあちこちに立てかけられている絵に取り掛かり、最後に部屋の正面に据えられたキャンバスの前で足を止めた。
それは、夜闇の中に赤々と立ち上る
「…売り物にする気はない、か」
呟きは、カイルの心情を的確に突いていた。
だが、そう言ったトキの空気があまりにも自然であったため、なぜ彼がそう思ったのかを尋ねることはなかった。
なんとなく黙ったまま、二人で未完成のその絵を眺める。
「…なるほど、わかった」
「わかったって、この絵を描いている時の俺の気持ちのことか?」
トキは呆れ顔でカイルを見やった。
「お前が何を考えて描いているかなど、わかるわけがなかろう。おれはお前の絵の中にある意思を感じただけだ」
「…ああ、そう」
呼び捨てやお前呼ばわりに関しては、子どもだから仕方ないと思っていたが…なぜこの少年はこれほどまで強気なのか。
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