interlude4

『潰せッ!』

 BOOMBOOMBOOM! 青樫の号令から数秒、そこかしこで爆発が起きた。地下駐車場を駆ける彼の視界に、蛍光グリーンのドットで構成された複数の人影が映る。慌てつつ銃を抜いた彼らは投げ込まれた爆弾により跳ね飛ばされた。

 青樫はコンテナに走りつつ、ガントレットめいた右腕の義手を握り込んだ。仕立て直した腕がしっくり馴染むのを確認し、コンテナに向かって走っていく。コンテナの裏から濁声だみごえの怒号。

「何やってんだ! 撃て! 撃てェッ!」

 BEEP! BEEP! BEEP! 警報が作動し、同時に黒服たちが銃撃を開始。疾駆する青樫は後ろで響く仲間の悲鳴を聞き流して素早く屈む。頭上を風が斬る気配。横に飛んで転がり起きると緑ドットで構成されたゴツい鋼の二足が見えた。警備ロボ。

『煙入れろ! ありったけだ!』

『う、ういす!』

 指令を飛ばし、青樫は再ダッシュ! 闖入者ちんにゅうした二足は人の腹ほどの全長で、胴の代わりに竹蜻蛉たけとんぼじみて高速回転するブレードがついている。非常用の迎撃ロボはブレード下のモノアイで青樫を捉えた。

『ゲンダイ、陽射ひざしはコンテナ開けろ! 他はクソ警備ロボとダークスーツ共をやれ!』

 通信を飛ばすと青樫はブレードロボに真っ直ぐ突っ込む。ロボもスピードスケートめいた動きで急接近。青樫は回転斬撃を股下スライディングでかわし、右手で片足をつかむ。義手が甲高い駆動音を上げ、鉄の足を握り潰した! バランスを崩したロボはあえなく転倒!

「へへ……!」

 片足でもがくロボを捨て置きコンテナへ直行。ダークスーツの銃口を見て射線を潜り、白い煙を肩で切る。網膜インプラントが示す世界で、目出し帽を被った二人がコンテナの扉をこじ開けた。BOOOM! そこかしこで起こる爆発!

『リーダー、開いたぞ!』

『でかしたッ!』

 部下に歓声を飛ばす青樫の顔が狂喜に歪む。開いたコンテナの中に、本命がある。伸ばした手がコンテナに届く寸前、青樫は前にすっ転んだ。アクション映画めいて地面を転がる!

「だッ! ……!?」

 毒づき、己を見下ろした青樫は目を見開いた。自身の右足首から先が無い。離れた場所に落ちた自分の足を見つけた瞬間、切断面から血が噴き出した。剣山を突き刺したような痛みが脳を焼く!

「ぐああああああッ! 足がぁぁぁッ!」

 絶叫する青樫の前で、離れた足が黒いブーツに踏み潰される。右膝を抱えて半身を起こした青樫の視界に、ロングコートの長身が映り込んだ。手には鋭い日本刀。白煙に剛流の濁声だみごえが響く。

「ソードマン、全機出撃! 一人残して全員バラせ!」

「ぐえッ……!」

 同時にコンテナ開錠役二人の悲鳴。糸の切れた人形じみて崩れ落ちた二人の首が、青樫の傍に落下する。コンテナからはロングコートに日本刀の人影が歩み出、駐車場には同じ影がさらに二つ駆けている。前にいるのも含めて、四人。

 悠々と、しかし隙の無い立ち姿で距離を詰めてくる二人の刀使い。話に聞く最新の戦闘用アンドロイド、ソードマン。剛流を甘く見過ぎたか? 鈍化する時の中、青樫自身の声が脳内を揺らす。

 剛流は連合のサイフだって知ってただろう。時間を惜しんで戦力分析を怠ったせいだ。ふざけやがって。青樫は胸元からアンプルを取り出し、強く握った。脳には仲間の断末魔と高居の切羽詰まった撤退の催促。

「…………………クソッ!」

 毒を吐き、胸にアンプルを突き立てた。胸の内側に冷たいものがみる感覚。痛みが遠のくと共に、頭のしんが熱く脈打つ。左足を曲げ、床に両手を着いた直後、青樫は背後に吹き飛んだ! 身をひねって後ろ向き、背後に立つソードマンの胸に右手を当てた。DOOM! ソードマンは吹き飛び壁に激突!

「ぐっ、ぐおおおおおおおあああああッ!」

 青樫はよろけながらも右手を握り、裏拳を振り抜く。間近にあったもう一体に直撃し、頭を風船じみて爆発させた。ボーリングのガーターめいて残骸が真横を滑り、壁にぶつかって停止。倒れた青樫は身を起こし、コンテナに向かって這いずっていく。通信で煙幕全ての投入を命じ、匍匐前進ほふくぜんしんでコンテナを目指す。

 長狭谷の失脚、一発逆転、より上位の組織に近づくチャンス。電撃戦を挑んだ理由は、あのコンテナの中身を手に入れるため。腕も、連合内での昇進のチャンスも失った。ならば、長狭谷を蹴落とし別の手で成り上がるまで。

 薬で高揚した思考を巡らせ、くらい笑みを浮かべた青樫はコンテナのそばに到達。端に手をかけて立ち上がって中を覗き見……そして、その場で凍てついた。

 思考、表情、全てが硬直。ソードマンに襲われた面々の連携する声が脳を上滑りする。コンテナの中には椅子と解けた青白い発光ケーブル。それ以外には何もなかった。もぬけの殻だ。呆然とコンテナの壁にもたれ、荒い息を吐く青樫の意識を、高居の声がひっぱたく。

『リーダー! おいリーダー! あと一分弱で煙消えんぞ!? 何人か死んでる! ブツ取ったら早いトコ……』

『無ぇ』

『……えっ』

 一言で告げ、空のコンテナに背を向ける青樫。目出し帽越しに額に人差し指を当て、生きてる仲間全員に指令を飛ばした。

『あるもん全部あるったけ入れろ! ずらかるぞ!』

『けどリーダー! カタナ野郎が一匹……!』

『ヤクザのクソ連中が……』

 次々出てくる反論にこめかみが痙攣けいれん。片足で跳躍を繰り返し、出来る限りの速度で動く。

『うるせえ! ずらかるっつってんだろうが! 文句あンなら一人ずつ来い! 殺してやるよッ!』

 薬のブーストを受けた心臓が拍動。中指を当ててチャンネルを変え、高居に繋いだ。

『高居、お前は後で殺す』

『は? …………は!? なんで!? ちょっとおい、何があったんだよ!? おい!』

 額に当てた指をひねって通信を切り、煙が晴れる前に表へ向かう。

 破壊したロボ、周囲の爆発、ソードマン。目に焼き付いた空のコンテナ。仲間の死体を避けながら来た道を急いで戻る。途中、頭上を長方形の物体が飛び去っていくのを目にしてポケットからペンライト型のスイッチを出してプッシュ。ふつふつと湧き上がる怒りを持て余す青樫の耳は、一際大きな爆音を聞いた。

 CABOOOOOOOOM!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る