interlude1

剛流ごうるさん、剛流さん」

「あァン?」

 運転席の部下に揺すられ、剛流ごうる咬地こうじはアイマスクを外してシートで伸びをした。四角いサングラスを装着し、軽く操作すると眠気は一瞬で消え去った。クリアになった視界に、『通行止め』の文字が入った。

「はあ? 通行止めぇ?」

「事故ですよ。……どうします?」

 うかがいを立てるドライバーに、剛流はしばし沈黙思考。

 予定では、二時間後に奪った女児の鑑定かんてい勘定かんじょう。その一時間後にみかじめ料の徴収ちょうしゅうをし、金と報告を上に収め、サイボーグ陸亀の取引をして終了だ。時刻は午前零時二分。フロントガラス奥では『KEEP OUT』、『交通事故により一時閉鎖』のメッセージが繰り返される。

「フーム。どうすっかねェ……」

 闇金やみきん元締もとじめである、剛流の一日は長い。朝から晩までビジネスをし、時には自ら遠くに足をばす。そうすると、今のようなトラブルが度々起こるのだが。

「あー……ちょっとお前、どんだけかかるか聞いてきて。俺ちょっと電話すっから」

「うっす」

 運転手が出るのを待って、剛流はこめかみの社紋しゃもんを指で押さえる。視界に現れたアドレス帳を反対の手でスクロールしコール。通信がつながるなり、脳内チャットを開始した。

『あっ、どうもすみません。黒潮くろしおファイナンスの剛流ですが』

 現代において、人間の機械化は大きく進むところとなっている。皮膚下ひふかのタトゥーPCは所詮しょせんじょくち。骨、内臓、脳に神経までもが機械化できる今、きや携帯デバイスは三百年前にすたれた化石に過ぎない。ごう違法いほう問わないサイボーグ技術の恩恵を、剛流は犯罪のために利用している。今や彼の脳は三割機械だ。

『で、ですね。ちょっと時間をずらして頂けないかと思いまして。ええ、今部下が進捗聞いてますんで。……はい、はい。ありがとうございます。それでは失礼しますー』

 通話を切り、次の相手へ。同じセリフを繰り返せば、暇な時間が少々できる。通話だけなら脳改造は必要ないが、睡眠操作や思考ブースト、サイボーグ動物の遠隔操作をするなら外せない。様々なビズをこなす剛流にとって、タイムイズマネーはの意味は重い。

「うーし、これで良ぉーし」

 全ての通話を終えた剛流は再び大きく伸びをした。通行止めが解除され、目的地に着くまで眠るのみ。強制レム睡眠を決行と同時、すぐさま暗くなる視界しかいおくづるを手にした刑事にきびすを返した部下を眺め、剛流は深い眠りに落ちた。

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