第3話 遊び場
小学生の僕は、言われたことや、課されたことに何の文句も言わず、黙々と事をこなす子どもでした。
何よりも怒られることに絶対的な恐怖を感じていた僕は、何も起きないように何も起きないようにとひたすら「良い子」を貫き通してきました。
そのせいで、地元の友達と幼い頃に共有できなかった、いわゆる「ヤンチャ」な思い出が数え切れないほど存在します。
僕の住んでいた田舎町の遊び場は、僕の家がある「駅前エリア」と、駅近くの踏み切りを越えた先にある「田園エリア」に二分されていました。
広大な公園などがある「田園エリア」とは対照的に、「駅前エリア」は商店街が立ち並ぶ所謂、メインストリートで、公園なんかもほとんどないし、あったとしても狭い敷地に鉄棒しかない粗末なものだったので、外でワイワイ遊ぶには向いていませんでした。
よって大体「駅前エリア」に住む子どもたちの遊びのルーティンは、互いの家に集まってポテチを食べながらゲームをするという、極インドアなものでした。
しかしある日、我ら、インドアチルドレンを高揚させた、ある出来事が起こります。
僕の家の隣には閉店したショッピングセンターの建物が丸々残されています。
田舎にしては珍しい立体駐車場も併設されている比較的大きいものです。
そこは僕たちが物心つく前に閉店したため、僕たちが小学生の時には、既に完全なる廃墟と化しており、なんとなく子どもたちの興味をそそる建物として、じっとそこに聳え立っていました。
くすんだガラスの扉から中を窺うことはできますが、お客様入り口をはじめ、勝手口、従業員入通用口、至る所に当然ながら鍵がかかっているので、中に侵入することは不可能だと思われていました。
しかし小学五年生の頃、一つ上の先輩が従業員通用口の扉の錠前を破壊し、中に侵入したという噂を耳にしました。
嘘くさいなー、あの先輩にそんなことする度胸はないだろう。と思いつつ友達を引き連れて見に行ってみると、まあ盛大に錠前は砕かれ、扉は半開きの状態になっておりました。
その扉を見るや否や、
「これは、入るしかねえ!」
と、毎度格闘ゲームで下キックばかり繰り出す姑息な戦法しかとらない根暗な友達が、目を輝かせて言いました。
後にも先にもあんなに生き生きしていた彼を見るのは初めてだったように思います。
翌日の放課後に懐中電灯を持って集合という運びになり、僕は家で懐中電灯を探していました。
なかなか見つからないので母親に場所を尋ねると、「何で必要なの?」と当たり前な返答が返ってきます。
そこで何を思ったか、僕は正直に隣のショッピングセンターに侵入するから。と答えてしまったのです。
「バカなんじゃないの、あんた!明日絶対真っ直ぐ家に帰ってきなさいよね!」
物凄い剣幕で怒られ、げんこつを食らってしまった僕は意気消沈。
翌日友達に、具合が悪いから今日はやめとく。と告げて、結局自分の家でゲームをしていました。
幼心にも友達は、「あんな血色良い顔した病人いるわけねーだろ!」と思っていたと思います。
後で友達から聞いた話では、そのショッピングセンターの中は、妙に寒いし、くさい水があらゆるところからしたたってくるし、ゴキブリだらけで、散々だった模様。
あれから十数年、時が経って僕たちはある程度大人になりました。
友達との遊び方は、インドアやアウトドア、エリアごとの遊び区分はなくなり、ただただ酒を飲んで語らうくらいになりました。
あるお盆の夜。久しぶりに顔を合わせた当時の友達と思い出話に花が咲いて、景気よく二次会のお店に向かっていました。
道中、例のショッピングセンターの脇を通りかかり、せっかくだから当時の入り口を見てみようという話になって向かってみると、依然として錠前は破壊されたままで扉は半開き、いつでもウェルカムな状態。
「うわ、あの頃のまんまだ!新しいショッピングモール開くわけでもねえのに、いつまで残してあんだよ!さっさと解体しちゃえばいいのになー!」
とケタケタ笑って歩き続けていく友達の後ろで、僕は一人、入り口を見つめたまま、小さく呟きました。
「あのー、今日は、具合悪くないんだけど・・・?」
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