第5話 1人じゃない

「少しここで休む? モニカ、罠とか作るので大変だったでしょ? もし飲みかけでよければ竹筒に水があるから飲む? 」

 モニカに竹筒を渡すとモニカは少し照れながら竹筒を受け取り水を飲んだ。

「モニカ大丈夫? 疲れてない? 」

 倒れている石柱に座り、隣に布を敷きモニカに座るように促す。


「ありがとう、そういう然り気ない気遣い

 嬉しいな」

 そういってモニカは隣に座る。

「モニカ、あの罠をよくあんな短時間で作れたね」

 隣に座るモニカにどうすればあの短時間で罠が作れたのか聞くと「愛の力が成せる技です! 」と嬉しそうに笑いかけてきてくれた。


「そろそろ行こっか? 」

 モニカが石柱から立ち上がり振り返りながら声をかけてくる。

 彼女の髪がふわっと広がり思わず見とれてしまった。

「早く行こ! 」

 そういってモニカは俺の手を握り歩き出す。


「やっぱりかわいいな…」

 モニカの後ろを歩きながら、そう呟いた。

◆◇◆◇

「ここまで来れば、あと少しだね! 」

 モニカはそういって、こっちを見つめてくる。

「そうだね、やっと山の麓まで来れたね」

 ここに来る途中に沼だったり色々あったけど

 

やっと麓に着いた。

「ここから山の中腹にある洞窟までどのくらいかかる? 」

 モニカは少し考えたあとに

「ライムって山登り得意? 」

 と聞いてきた。


「ぜんぜん、本格的な山登りは初めてです」

 実際、むこうの世界に居たときも山登りなんていっさいした覚えがない。

「そっか~、じゃあ途中で休憩することも考えると大体1時間ぐらいかな? 」

 あと1時間って所までは来ているらしい。


「ライム、疲れたら言ってね、私はある程度慣れてるから平気だけど、初めての山登りなんだから! いい、わかった? 今度は無茶とかしないでよ♪ 」

 そういってモニカは俺の手を繋ぎ横を一緒に歩いていく。

「ねぇライム、ライムって私と会う前って何をしていたの? 」

 こちらを見つめながら質問をしてくる。


「そんなに面白い人生じゃないよ? それでも聞きたい? 」

 モニカは頷いて、こちらを見てくる。

「簡単に説明すると家族はならず者達に殺されて、それからあんまり人のことは好きになれなかったかな…。それと弓矢を習ってた。だから結構上手いでしょ♪ 」

 そういって胸を張っるとモニカが泣き顔で胸に飛び込んできた。


「どうしたの? 何で泣いてるのモニカ? 」

 泣いている理由が分からず混乱しているとモニカは泣いたまま

「何でそんな大切で辛いことを笑顔で笑ってるの? …悲しくないの? 私はその話を聞いただけでライムが辛い思いをしたんだって考えたら、とっても辛いよ…。」

 俺の胸の中で泣きじゃくりながらモニカは抱きついてくれる。


「確かに辛いこともあったけど今はそれ以上に、その…大切な存在に会えたし、次は絶対に守りきるって心に決めてるから迷う事じゃないから。でもそんなに思ってくれて嬉しいよ♪ 」

 そういって抱きついているモニカを抱きしめる。

「そんな恥ずかしいこと言わないでよ♪ 嬉しいけど…」

 モニカは腕の中で顔を真っ赤にして涙目でこっちを見つめてくる。


「えっ、また俺はモニカを悲しませる様な事言っちゃった? そんなに泣かないでよモニカ」

 モニカは首を振って

「嬉し涙だから、それよりもう大丈夫だから早く採石しに行こ♪ 」

 モニカはそういって俺の手を引っ張り早歩きで登って行く。


「そうだね、レッツゴー! 」

「何、レッツゴーって…? 」

 どうやら通じる言葉と通じない言葉があるようだ!

「何でもない、気にしないで! じゃあ行こっか! 」

 それからしばらくすると辺りは岩ばかりになってきた。


「スゴいね…辺り一面岩ばっかり」

 前を歩くモニカに話しかける。

「そうだね♪ でもあと少しだから一緒に頑張ろう! 」

 そういってモニカは、ぴょんぴょんと飛び跳ねる様に山を登っていく。

 俺も負けてられないな!


 そう思い、俺もモニカの後を追っていくとモニカが急に歩くのを止めて息を殺して辺りを警戒している。

「何かあったの? 」

 モニカに話しかけるとモニカは足元にある血まみれの防具と大きな足跡を指差す。


「何に殺られたんだ? 」

 モニカは辺りを見回し何もいない事が分かったのか警戒を緩めてこちらを見て、ここで何があったのか教えてくれた。

「たぶんだけどね、この冒険者たちはオーガに殺られたんだと思う、防具を見る限りこの人たちはまだ駆け出しだったんだと思う。オーガは初心者殺し《ルーキーキラー》って呼ばれてるの、今の私たちが会ったら瞬殺だと思う。だからライムここから先、赤くて大きな生き物があなたの視力で見えたら私に知らせて! いい、絶対だからね! 」

 

そういって俺に詰め寄ってくる。

 俺は頷き周りを見渡すがそれらしい生き物は居なかった。

「隠れてるのかも知れないけど周りには居ないと思う」

 そう伝えるとモニカは肩の力を抜き手を握ってきた。

「よかった、これからは周りを警戒しながら行こうライム! 」

 

握っている手は微かに震えていた。

「大丈夫だよ。2人ならきっと上手くいく!

だからとりあえず今は洞窟を目指してゆっくりでもいいから進んで行こう」

 そういってモニカの手を握り進もうとした途端、10時の方向に赤く蠢く影がこっちにむかってくる。

 

何だよ、このお約束の展開は💢…。

「モニカ逃げるよ、あっちから赤い生き物がこっちにむかってくる」

 そういってモニカの手を引いて、岩影に隠れる。

「あれ~? 確かここに人が居たと思ったんだけど、ウチの勘違いだったかな? 」

 

俺とモニカがさっき居た場所には180はあるだろう赤色の鬼が周りを見回している。

「モニカ、あれがさっき言ってたオーガなの? 」

 モニカに聞くとモニカは全身が震えていてきちんと声が発せられないのか必死に頷いている。


「何かあっちから人の臭いがする。さっきの奴らの仲間かな? 嫌だなぁ、私は戦いたくないのに人が攻撃してくるんだもん。あぁ、痛いの嫌だなぁ、まださっきの傷が痛いのにまた痛い思いするの」

 そういってこっちに近づいてくる。

 モニカは腰が抜けてしまったのか立てず魔物の言葉も全てが共通では無いのか1部分しか聞き取れなかったのか

「臭いがするって言ってます。それに攻撃って…逃げて、私を置いて逃げてください! 」

 そういって叫んでいる。


「大丈夫だよモニカ、俺たちは1人じゃない! 」

 そういってこっちに近づいてくるオーガの前に身を出した。

 まさか、こんなところで転生特典が役に立つなんて…よし、相手(オーガ)も戦いたくないって言ってるし…ここは交渉(話し合い)だ!






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る