5.しげお

岩井重雄(しげお)72才


重雄は自宅の庭にある、手製の小さな池のそばにしゃがんで

池の中に落ちた枯葉を、とりのぞいていていた。

中には小さなメダカが、200ほどもいるだろうか?

元気よく泳いでいるが、

この寒さでは 半分程度は死ぬかもしれない。

メダカの寿命は、平均で1年半。

死んだとしてもしかたのないことだ。と、重雄は思った。


空を見上げ、

今夜あたりから雪が降るかもしれないと思いながら、

「毎年、師走は事件が多いな。

年を越せない奴らが、強盗に入ったりしてな。」と、つぶやいた。


暖房のきいた部屋に戻ると、

コタツ上には、さきほど食べたミカンの皮と、

灰色のノートが置かれている。


表紙には「MEDAKA NOTE」と書かれており、

中を開くと、ノートの使い方が書かれていた。

「Kono noto ni namae o kakareta ningen wa MEDAKA ni naru.」


一見すると、英語のようだが、よく見ると、

日本語がローマ字で書かれているだけで、

内容は、澤井たま子のノートと同じだった。


重雄は、テレビのニュースで、外国で起きた無差別テロによる爆発で、

子どもを含んだ30名が犠牲になった事件の,

テログループのリーダー自らが、ネットの動画サイトで

犯行声明文を読み上げている映像を見ながら、


ゆっくりと、そのリーダーの名前を、アルファベットのつづりを間違えないように

一文字々、丁寧にノートに書き写すと、

「12月31日、岩井重雄所有の庭の池の中」と、急いで書き足した。

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