啜り泣く声
七不思議の調査については、面倒くさいので、三人のやりとりだけで手短に済ませてもらったけれど、当たり前のように、特になにがあるというわけでもなかった。
あったと言えば、ネズミが前を横切って、ココナが、「きゃー」と叫びながらボクに抱きついて来るという小さなハプニングくらいで、特筆すべき点はない。
ただ、前にも断ったはずだけど、ココナに抱きつかれたところで、嬉しくもなんともないということだけは伝えておこう。
てっきり、肝試し中に、階段から転び落ちて大学生が死んだという事件が起きたことに由来する不思議があるのだと思っていたのに、そうではなく、しかも、七不思議のはずなのに、全部で八つもあり、その内容が適当すぎることに違和感を覚えずにはいられなかったけれど、とりあえずボクはスルーすることにしたし、これまで散々つっこみを入れてきたマキトも、いい加減疲れてきたのか、そういったことに触れようとはしなかった。
そして、ハラハラドキドキすることもない、予想どおりの展開な肝試しも、七不思議を残すところ一つとし、いよいよかどうかは知らないけれど、大詰めとなった。
残された最後の不思議。
その不思議を確かめるべく、いなくなった沖本レイナの亡霊が出るという、バラバラ殺人のあった病室のある、最上階の十階へとやって来た時、
ビビビビビビビビビビビビ………!
「凄い! 凄い反応だぞ!」
これまでで一番の反応を示すEMFを片手に、興奮を抑えきれないようにして、ヒロタが叫ぶように。
「まさか、これ程までとは……こんなにEMFが反応してるのは、これまでの数々の修羅場の中でも、初めてのことだ。諸君、心しておきたまえよ。この先、いかなることが起ころうとも、パニックを起こしてはいけない。このゴーストハンターヒロタを頼りに、慎重に進むように」
前々から、空気を読んで口には出さないながらも、インチキな自作自演だろうと二人も怪しげに感じていたことだろうけど、それはそれ。
さすがに、バラバラ殺人があった現場を間近にしているということで、EMFを片手に能書きを垂れるヒロタを先頭に、ボクたちはそれなりに慎重な足どりでそこへと向かった。
階段を上がって最上階の十階にたどり着き、まっすぐに伸びる通路の奥へと目を向けたボクは、
「やっぱり、奥の方の防火シャッターって、閉じられたままなんだな」
「みたいだな」
とマキト。
「確か、四年前の事件の前からああだったんだよな。そりゃあ、こんだけオンボロな廃病院だったら、機械も故障したりするよな」
そんな会話をしながら、その四年前の事件の時、その防火シャッターとともにこの通路を塞いだという、手前側の防火シャッターがある場所を潜り、その先に並ぶ病室の中で、バラバラ死体などが見つかったとされるところへと歩を進めた。
すると、
「……シク……シクシク……グスン……シクシク…………」
問題の病室の方から、啜り泣くような声が――。
「……シクシク……許さない……絶対に……グスン・・・・・・シク……………」
神様の存在を否定する無神論者のように、幽霊なんているわけがない、と考えているボクではあったけれど、その啜り泣く声と、剣呑に続けられた言葉に、思わずながら、背筋に戦慄が走るのを感じていた。
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