第2話

 メガネ屋へ向かう道すがら、山口の心をほぐし、私が信頼にかなう人物だということを知らしめるために、積極的に話しかけ、まるで芸人のごとくいろんな話を織り交ぜながら警戒心を解いていった。

 メガネ屋につくころには山口も笑みをこぼすほど、またその笑みに少なからず親しみが込められるようになったと思う。しめしめである。私のこのよく動く舌は、何も女子のお友達を喜ばすためだけにあるわけではない。

 最近のメガネ屋はおしゃれな店舗が多い。この駅ビルに入っている量販店もまた然りだ。

 よく分からずにおろおろする山口の腕をとり、(ここで若干の怯えが見られたが、笑顔で対処すると引込めようとした山口の腕がそのままになった。しめしめ)

 これはどうかあれはどうかと店員さながらにおすすめしているうちに山口もその気になって、なかなかこじゃれた一品を選んだ。

 うぬう!しかしこのデザインは凝ったものではないけれど、逆にそのシンプルさがそれなりな顔でなければ絶対にメガネに負けるはずなんだが、さすが玉じゃなくて山口。びっくりするほどよく似合う。

 「それすっごい良く似合うよ!それにしよう!」私は思わず手をたたいて喜ぶ。

 「そ、そうかな」

 山口は照れたように頭を掻いた。照れた顔はいいが、その動作はいまいちだ、山口!いろいろと教え甲斐がある。


 検眼をして、出来上がりまでにそこそこの時間がかかるとお店の人に言われたので、私は山口を伴って別の場所に移動する。

 「どこ行くの?木下さん」

 「山口君、あなたのその目に、その前髪はいかがなものかしら。やっぱり目に髪がかかるのはよくないしさらに視力を悪化させる原因でもあると思うの」

 「う、うん、まあそうかもしれないけど……」

 「実は私の知り合いの美容師がカットモデルを募集していてね、ここの駅ビルの中にあるからメガネができるまでそこで切ったらいいと思うのよ」

 「ええ!」

 山口は心底驚いた顔をした。そりゃ驚くわな。まあいい。そんな驚きも軽くスルーして、さあこっちこっちとまた腕をとってお店に向かう。私の勢いに押されてなすがままの山口は、頬がやや紅潮している。緊張しているのかもしれない。


 お店に入って私は知人の美容師に手を振る。

 「なっちゃーん!」

 「おお!華蓮!」

 「こちら山口君。よろしく頼みます」

 思い切り引いている山口を差し出す。

 「ほう!了解よ。さすが華蓮。見る目あるわね」きらりとなっちゃんの目が光った。

 なっちゃんは私の従姉だ。すごく小さいころから髪を切るのが好きで、私はいつもなっちゃんの実験台だった。それで小学校のころには相当ひどい頭にされたこともあったが、私はそれをすべて笑顔で受け入れてきた。

 それはなっちゃんの美しいものに対する探究心から来たものに他ならない。

 私程度の義性なんて、その偉業の前にどれほど小さなものか。

 そんな時期を過ごし、私はそれからもずっとなっちゃんの実験台を務め、いまやなっちゃんは、若いのにこのお店のチーフになっている。さすがである。

 小学生時代の事が頭にあるのか、なっちゃんは私のお願いを何でも聞いてくれる。とはいうもののなっちゃんにお願いすることは特にないのだが、今日この件をなっちゃんに頼もうと、先ほど山口が検眼している間にメールを打っておいたのだ。ちょうどなっちゃんが休憩時間でよかった。メールは確実になっちゃんに読まれ、準備万端今に至る。

 「さ、こちらにどうぞ」操り人形のごとく吸い込まれるように山口はなっちゃんの後ろをついていった。さてどうなるか、楽しみだなあ!

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