第4話 魔王さまのくせに運命的な出逢いをする

 転移魔法陣の中央にいたはずのフィルは、身体がふわりと浮く感覚を覚える。


 何故なのかはすぐにわかった。


 実際地に足がついていないからだ。


 どうやら転移魔法が発動し、地上から遥か上空に投げ出されてしまったらしい。


 しかし。


 フィルはそんなことよりも目の前の光景に心を奪われていた。


「空が……青い?」


 それはいつも見慣れている赤黒く分厚い雲に覆われたものとは全く違ったのだ。


 ここがドラグガリアでないことはすぐにわかった。


 突き抜けるような蒼い空。


 優しく包み込むような陽光。


 鼻通りのよいどこか甘い空気。


 フィルは身体を反転させてみる。


 すると、そこには広大な大地が広がっていた。


 山々には青々とした木々が茂っており、地上からは生命のエネルギーを感じた。


 遠くには大きな街のようなものも見える。


 ははっ、すげぇ。


 未知なものへの高揚感から、フィルは思わず笑みが漏れてしまう。


「あ」


 そのとき、あることに気付く。


 そう、彼は今絶賛落下中だったのだ。


「うおっ。やば――」


 咄嗟に浮遊魔法を展開しようとするが、もうすでに手遅れだった。

 

 ――。


 ――――。


 ――――――。




「ぷはっ」


 フィルは水面から顔を出す。


 あえなく落下してしまった彼だが、幸いなことにそこは山中の湖だった。


「ぐお、思いっきり腹打った……」


 畔へと泳ぎ着いたフィル。


 不意に――。



「あの、……」



 頭の上から鈴の音のような声が降ってきた。

 

 フィルはそれを辿って顔を上げる。

 

 そして、息を呑んだ。


 流れるようなプラチナブロンドのロングヘア。


 髪の後ろで結ばれた大きなリボン。


 蒼いつぶらな瞳。


 質素な服を纏った身体はとても女性的な美しい曲線を描いている。


 そこにはフィルと同じ種族のような少女が立っていた。


 泉の畔に腹ばいになっているフィルが顔を上げたことにより、ふたりの視線が合った。


「……」


「……」


 この出会いが自分の人生を大きく変えることになると、フィルが知るのはまだまだ先の話だったりする。

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