50. 特異性の理論

山彦庵の応接室は異様な空気に包まれている。


レンと老師の狂気を孕んだ作戦は、緊張感と、そして僅かながらの恐怖心を大気へと浸透させた。


「老師、後、どれくらいですか?」


レンの質問には言葉が足りていない。だが、老師であれば全てを言わずとも、意図を察することは容易いだろうと判断しての、レンの発言だった。


「自我を保てるのは、おそらく、今日の夜までだろう」

老師が先ほどまでの狼狽を完全に消し、淡々と答える。

その様子は、悟りを得ることが出来たかのような、穏やかさを含んでいた。


(時間は、無いのか)

判り切っていたことではあったが、改めて言葉にされると、レンの心に焦燥と悔しさが滲んだ。


「我が怪異化を“受け入れて”以降、時の歩みに応じて、体内の源粒子の平衡が乱れていくのを感じる。そして、闇源技が我を侵食するのも、だ。今は辛うじて押さえ込んではいるが、もう、持たぬ」


「明日には、アヒムみたいに、完全に怪異化して、奴らの駒になるってことかよっ」

ディルクが悔しげに、吐き捨てる。


「その通りだ、竜属よ。そうなれば、怪異化した我の力により、エルデ・クエーレは、計り知れない被害を受けるだろう」

老師が、その真紅の目をディルクに向けながら言った。


「怪異に対抗できる私たちですら、属性怪異一匹に対して、あんなにも苦戦したのに、この世界で最も強いヒトが怪異化したら―――」

レイがその事態を想定する。


「そなたたちでは、怪異化した我を倒すことは、不可能だ。だからこそ、今。我が自我を保っているこの時に―――我を殺せ。レン」


老師が鋭い視線をレンへと突きつけてきた。

「―――それしか、無いのなら」

レンは目を伏せ、ポツリと呟く。


ダリウスの館へと向かう道中、レンは想定した。

山彦庵で老師の言葉を聞き、レンは確信した。

レイと言葉をぶつけ合い、レンは決心した。


「あぁ。他に方法は無い。ダリウスを生かすためにも。この世界を守るためにも。そなたのその力で――――我を、殺すのだ」


レンは、後ろにいるディルクとレイに顔を向ける。

二人と視線は合ったものの、誰も、何も、発しない。


ディルクも、レイも、沈黙という言葉でレンへと語りかけているようだった。


レンは、老師へと目を戻す。


そして、息を軽く吸う。


「――――わかりました」




(日本にいる、いや、もしかしたら、いないのかもしれない、顔も声も、記憶にすらない、父や母、兄弟、親族、友達のみなさん。今から、自分は、自分の意志で、目的に従い――――――“人殺し”になり、大切なヒトに、恨まれます)






―――――――――――







「ダリウスがここに来るまでには、まだ幾分か掛かるであろう。………それまでに、そなた達に伝えておかねばなるまい。――――この度の顛末を」


「顛末?」


レンが、老師を見上げながら問う。右手にしっかりと握っている銀色の差し棒が、僅かながらに、汗で湿っているのを、レンは感じた。


老師は、レンの言葉を聞くと、目を閉じ意識を集中させているようだった。そして、目を閉じたまま口を開く。


「そうだ。――――何故、我やダリウスが狙われたのか。何故、あの獅子族や下郎たちが、怪異化したのか。何故、ダリウスやデリア、ディ-ゴは逃れられたのか。何故、我が新規属性源粒子を研究しているのか。そして―――ベーベ、何故、そなたが今、ここにいるのか、を」


老師が、ゆっくりと、言葉で物語を紡ぐかのように、レン達に語りかけてくる。それは、今までの講義での老師の様子と被って、レンには見えた。


(自分がここにいる理由?)

老師の言葉を受けて、レンの心の中に疑問が生じる。


(あの日。自分は、エルデ・クエーレに引きずり込まれて、ゲムゼワルドの街に向かう途中“たまたま”ダリウスさん達の馬車に引かれそうになって、そして、出会ったんだ)


「レンや俺がダリウス達と出会ったのは偶然だ」

ディルクがレンの思いを代弁してくれた。


「否。ベーベ。そなたが、ダリウス達と出会い、アルテカンフに来たのは“必然”だ」

老師が即座に返答する。


「そんなっ馬鹿な!“獣源技”による召喚の儀と、実際にレン達が来た神獣綬日まで、かなりのずれが生じていたんだ!俺ですら“女帝”の獣源技によって、始めてニンゲンが居る場所を把握できたんだ!!この世界の誰にも、レンと、ダリウスを計画的に会わせることはできない!」


ディルクがさらに言い募った。


(獣源技って、ディルクが前に言ってた、神獣の力を直接的に発現できる属性のことかな?確か、発現に想像がいらない属性。この場合、誰にも知ることが出来ない情報をそれによって得たってことか。)


レンが心の中で、情報を吟味する。


(ディルクは勲者である“女帝”の獣源技で、自分の位置を特定した。ってことは―――老師も。)


「―――神獣綬日より30日は前であろうか、我は己の体の異変に気が付いた」

老師がディルクとの会話を打ち切り、語り始めた。


「その頃すでに我は病魔に蝕まれており、体を動かすことや源技能の発現もままならない状態であった。我は盲目ということもあり、既に山彦庵から外に出ることはほとんどなく、一日の大半は寝台で過ごしておった。―――だが、ある日突然、体に活力が戻り始めたのだ。初めは、極々小さな感覚であった、それは、日が立つにつれ、ゆっくりと体全体に強く、浸透していった。数日も経たないうちに、病魔は我から離れ、さらに、我の目に数十年ぶりに光が戻った」


老師は語りながら、応接間の長椅子に腰かけると、机の上に置いてある古い万年筆を、手に取る。


「我は素直に不思議に思った。この、この奇妙な事象は何なのかと。だが、ある日気が付いたのだ。体内を巡る源粒子が、少しずつ我の制御下から離れていくのを。そして、それは闇源子を含みじわじわと集合していくのを」


「―――怪異化」

レンが、老師の話から予測し、ポツリと呟く。


「そうだ。我も、即座にその結論へと辿り着いた。ベーベが予測した、怪異が持つ特殊な源粒子については、我も情報を持っておったからな」

老師が机の上の何かに、万年筆を用いて書き連ねつつ、レンに同意を示す。


「でも、どうやって老師を怪異化したのかしら?あのニコラスとかいう科学者は此処に訪れてはいないのよね?」

レイが疑問に思ったことを口にし、老師に尋ねる。


「そうだ。そやつは此処には訪れておらぬ。ニンゲンの小娘よ」

老師が手を止め、顔を上げレイを見ながら返答する。そしてレンの方へと顔を向けてきた。


(確か、ニコラスは―――もしかしてっ)

レンの頭が急速に回転を始める。


「―――食事、ですか?」

レンは老師へと尋ねた。


老師はそれにゆっくりと頷きで返答すると、口を開く。


「館から山彦庵に運ばれる食事、そこに怪異化を促す“毒”が入っていたのだ。正確には源鉱石の一種だろう。その時の我と外界を繋ぐ物の一つがそれだったからな。容易に想像できた。案の上、料理に含まれる源素組成を分析したところ、膨大な闇源粒子と未知の源粒子が含まれておった。そして、我の体内の源素組成も同様であった」


「おい!館の料理ってことはアヒムが作ったってことだろ!もしかして、これまでの俺たちが食べた料理にも、その“毒”が入っていたってことか?!」

老師の言葉を受けたディルクが、その可能性に気が付き、焦ったように声を上げた。


老師がそれに、無言の頷きを返す。


「だから、アヒムさんの料理、あんまり美味しくなかったのかな?」

源粒子には味がある。ゲムゼワルドの宿で料理を食べた際に知った知識を思い出しながら、レンはぼんやりと呟いた。


「確かにあまり美味くなかったが、、、って、そんな呑気なことを言っている場合か!俺たちも、アルテカンフに来てから、ずっとそれを食ってるんだぞ!!」

ディルクが、レンに言葉で噛みついてきた。だが、レンはそれを受けてもあまり焦りの感情は沸かない。


「ディルク。大丈夫だよ。自分たちが発現している“銀色の源粒子”は怪異の源粒子と会合して大気に消えていく。体の中で溜まって、怪異化へと向かうことは無いよ、、、多分」

言葉尻に僅かな自身の無さが表れてしまったが、レンはディルクに自身の仮説を伝える。


「べーべの言うとおりだろう」

老師もレンに同意を見せた。


「なんだっ、ったく、ビビらせやがって」

ディルクが吐き捨てるように言い放つ。その顔には僅かな安堵と、取り乱したことが恥かしかったのか、橙色の皮膚が少し色づいていた。


「取り乱し過ぎ――――でも、良かったわ」

同じくそんなディルクの様子を見ていたレイが、バッサリと切り捨てた。


レンはその光景を見つつ、新たに沸いて出た疑問を口にする。

「老師。先ほど、ダリウスさんたちも、怪異化から逃れたといっていましたが、それは?」


「話を続けよう。怪異化へと到る“毒”が、食事に含まれていることを知った我は、すぐさま、ダリウスの館にいるすべてのヒトの体内の源素成分を、気づかれぬよう、検査した。幸運なことに、その時点で、怪異化の兆候が見られたのは、あの獅子族、エーベル・デュフナーのみだったのだ。おそらく我を怪異化させることが、やつらの目的の第一段階だったのだろう。」


(エーベルさんが一人目であり、きっかけだったのかな)


レンは、灰色の瞳を持つ雄々しい獅子族の青年を、脳裏に思い浮かべる。厨房で腕を押さえながら、母であるアルマの腕に倒れ込んでいる姿が、レンが最期に会ったエーベルの姿だった。


「ダリウスだけは、何としても怪異化される訳にはいかん。我は、まず“獣源技”を発現し、“ダリウスを救える存在”を神獣に問うた」


「そうか、あんたも元勲者だったなら、獣源技を発現できるのか」

ディルクが納得したように呟く。


「そして、二つの光景が、我の脳裏に映し出された。一つ目は、ゲムゼワルドの街の上に広がる数多の煌めく源粒子の軌跡の光景。そして、日中にゲムゼワルドと鉱山都市を結ぶ街道を馬車で移動しているダリウス、デリア、ディ-ゴの姿、だ」


「神獣綬日に、馬車でゲムゼワルド街道を移動する。それが、神獣からの神託だったってわけか。だが、獣源技は発現者に相当の負担が掛かるはずだ。それを一人でとなると、あんたは大丈夫だったのか?」


老師がディルクの言葉に頷く。


「無論、我も発現後は数日は意識を失い、床から体を起こすことさえ困難であった。だが、元々病床に伏していたおかげで、不審には思われずに済んだ。我は意識を取り戻すと、すぐさまダリウスを呼び出し、そこを旅するように命じた。ダリウスは我の命に疑問を持つことは無い。次の日には鉱山都市へと向かって行き、その間我は怪異化を押さえるべく、体内の源粒子の流れを強制的に乱し、闇源素と怪異の源素が集積せぬように務め、病魔に侵された状態へと戻った」


「その間に、アルマさんやアヒムさんも食事の“毒”で怪異化していったんですね」

レンが老師へと質問し確かめた。


「あぁ」

老師が目を瞑りながら、レンにそう返答する。


老師が、アヒム達を見捨てたことに対する罪悪感を有しているのか否かは、レンには判断できなかった。


「そして。ベーベ。そなたが、ここに来た。―――すべては、神獣の導きだ」

老師はそう言うと、万年筆で書きしめた手紙らしきものを、便箋へと仕舞い、しっかりと封をする。


遺書であろうか。レンは咄嗟にそう思ったが、それを老師に尋ねることは憚った。


「そなたとダリウスが、山彦庵に初めて訪れた時、そなたの力と、そしてダリウスとの関係を見て、我は、そなたに我を殺させることを計画したのだ―――ダリウスを生かす為に」


老師はそう言うと、便箋にも万年筆を滑らせた。

そして、僅かな沈黙が場を支配する。


(―――嘘だな)


「デリアは?デリア達もアルテカンフに戻ってきてからはレンと同じように、その“毒”入りの料理を食べていたんでしょう?もしかして――怪異化が進行しているの?」

レイが僅かに緊張した様子で、老師へと尋ねる。


「否。ベーベ。そなたは、ダリウス達にそなたの世界の装飾品を贈ったであろう。それらは、高密度の源鉱石と同様に、源粒子を纏っている。それも、そなたが言う銀色の源子“破源子”をだ。その破源子によって、怪異の源粒子は浄化されておる。故に、ダリウス達は怪異化から逃れておるのだ」


レンは、思いがけない事実に驚きを隠せなかった。


「自分が贈ったものが、ダリウスさん達を救っていた?」


ゲムゼワルドの宿で感謝の気持ちを込め、ダリウスに捧げた時計が、デリアに贈ったリストバンドが、ディ-ゴに渡した手拭いが、彼らを助けていた。


「―――良かった」


心に暖が生じたかのように温かい気持ちになり、レンは素直にそう思った。


しかしながら、一方ではそれを導いた獣源技、そして神獣の力に対して、僅かながらに恐怖を覚える。


確かに常識はずれの力だ。一体神獣にはどこまで視えているのだろうか。



「破源子っていうのはなんだ?聞いた事が無いが。」

レンが神獣に関して思考を巡らせていると、ディルクが先ほどの老師の話の中で出てきた源粒子について尋ねていた。


「そなた達とダリウスが扱える、新規属性源粒子のことだ。源粒子の集積を視ることができるベーベには、銀色に視えているようだが。そしてそれが、ダリウスが、そなた達が、奴らに狙われる要因なのだ」


「怪異に対して絶大な効果を持つ破源子ってことは、それを扱えるヒトが邪魔だから、あいつらは私たちを狙っている?」

レイが自らの仮説を老師へとぶつける。


「違うな。無論その意図も含んでいることは間違いないが、もっと根本的な理由が存在する。そしてそれが、我が新規属性源粒子を研究する理由にもなる。ベーベ。そなたの言う、銀色の粒子と灰色の粒子の特徴と関係性を考えれば容易に答えに辿り着くはずだ―――なまじ、源粒子を可視化して観察しているが故に気が付かぬのだろうな」


(二つの粒子の特徴?)


レンは、怪異の灰色の粒子を“自分を含めた属性源粒子と、極めて会合しやすい源粒子”と、そして、銀色の粒子“破源子”を、“その会合を外す属性源粒子”と仮定した。


(まてよ?)


破源子はどうやって、その会合を外しているのだろうか。


おそらくは、破源子と灰色の粒子が、他の源粒子よりも強く会合するが故に、外すことができるのだろう。


そして、これまでのレンの雷源技の発現から、雷源技能にも破源子が交じっていることは確かである。


その、事実をレンが認識した瞬間、ある仮説が導き出された。


「まさか、両方とも―――同じ?」


「そうだ。破源子も怪異の灰色の源粒子も元は“ほぼ同一の源粒子”だということだ。おそらく、破源子が僅かに変異したものが、怪異の源粒子なのだろう」

老師がレンの言葉に上塗りするように、言ってくる。


「そうだったのか………」


両方の源粒子の性質だけ抽出すると、両方とも“他の属性源子と強く会合する”という特徴を有している。


会合相手の選択制や会合体の大きさの限界に多少の差はあれど、源粒子自体の特徴だけ見れば、二つはほぼ同じものである、という評価は間違ってはいない。


そして、そこから導き出される結論に、レンは気が付く。


「おそらく、自分たちは怪異の源粒子を扱う適性も―――段違いに高いんだ。そんな自分たちが怪異化したら、普通のヒトを怪異化するよりも、もっと安定して、怪異の力を得ることが出来るに違いない。つまり、最高の“素材”だ」


「そういうことなのね。だから、ニコラスも私たちのことを、そう評した」

レイが、口元に手を当て、疑問が解けたように納得した様子を見せる。


「まさか、怪異の源子学的な謎がこんな形で解けるとはな。レン、この事実は世界にとって非常に重要だ。破源子を扱えるヒト達への注意喚起はもちろん、破属性持ちは、今後の対怪異の作戦の際にも要となりうる」

ディルクが、勲者の側近に相応しい発言をする。


「その通りだ、ディルクよ」

老師がディルクに同意すると、机の引き出しから大きな煉瓦色の封筒を二つ取り出した。


「この中には、破源子と怪異の源粒子の研究成果を記載した論文が入っている」

そして、それをディルクへと手渡した。


「ディルク。そしてニンゲンの小娘よ。これを跳伝所から送ってくれ。宛先は、王立源技能研究所と“皇帝”アマデウス・アドラー宛になっておる。やつらなら、有効に活用するだろう」


「わかった」

ディルクがしっかりとその論文が入った封筒を受け取ると、力強く答える。



そして、老師はレンの方へと顔を向けると、じっと見つめてきた。


それを受けて、時が迫っていることを、レンは悟る。



「ディルク、レイさん。それを送って、準備が出来しだい東通行門出口で待ってて。自分も“こと”が終わり次第、そこに向かう。だけど、もし、1刻、2時間経っても自分が来なかったら、自分のことは放って旅を始めて。―――“万が一”があるからね」


「―――あぁ」

「レン。必ず、来なさい」

ディルクとレイは何か言いたげだったが、二人とも端的にそういった。


「そして―――これを」

レンはポケットから黒いスマホを取り出し、レイへと渡す。


「このスマホも渡しておくよ。これも破源子を纏っているし、機能的にも重要なものだから―――一時的に預かっといて」

「わかったわ」

レイが大事なものを扱うかのように、そっと手に持つとポケットへと仕舞う。


「おい、今のうちにヴぃーもレンに何か言っとけよ」

ディルクがヴぃーに向かってそう言ったが、


【――――――――――】

ヴぃーは何も言わず沈黙を保っていた。


「おい、ヴぃー」

「ディルク、いいよ、大丈夫だ。さぁ―――行って」


レンがそう言うと二人は部屋から退出し、山彦庵から外へと駆けて行った。



「ふむ。まだ少しばかり時があるな。なら、ベーベ、一戦交えようぞ」



そんなレンの様子とは対極の様子を見せる老師は、穏やかにそう言うと、札遊戯の札を取り出し、机へと置いた。


そしてレンとは反対側の長椅子へと腰掛けた。


「こんな時に、ですか?」

レンは緊迫していた状況に不釣り合いな提案に思わず聞き返してしまう。


老師は一歩一歩死へと歩んでいる、この瞬間に一体何を思っているのだろうか。

少なくともレンがその立場にいたら、限られた時間の中で札遊戯を楽しむ余裕はないだろう。


「こんな時だからこそだ。これが七戦目になる。ベーベ、最期に、そなたの―――本気の力、我に見せてくれ」


老師が、挑発するように口元に弧を浮かべ、鋭い視線をレンへと投げかけてくる。


「わかりました」


その老師の様子から本気である、と判断したレンは、大きく深呼吸をする。

そして、レンは指で机を叩き始める。


視界が、意識が制限され、研ぎ澄まされていく。




(それを望むのなら。自分にできることなんて、もうこれぐらいしかないのなら。全力で相手をするよ、老師)





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