私と...
私の人生には決定的に何かが欠けている気がしていました。
何かはよく分かりませんでした。しかし、人生の節目になるとある程度の充実感とその背後に確実にある何物でも埋まらない空洞を感じていました。
その空洞を一番確信的に感じたのは、高校二年生のある日です。
私は高校時代、演劇部に所属していました。舞台には立たず、裏方の舞台監督をやっていました。
そしてその日も授業を終え、部活が始まり舞台の準備が出来るのを何も考えずに待っていました。いや、歌でも口ずさんでいたかも知れません。
その時、ふと私は目尻に暖かさと冷たさを感じました。正体が気になり手を当ててみると、私の目尻は濡れていたのです。私は泣いていました。理由はよく分かりませんでした。だけれどもその時、心にぽっかりと穴が空いていた気がしました。
若かった私は人に、何が足りない事を説明し、その何かを手当たり次第に聞いてまわりました。一人は愛と言い、一人は飯と言い、もう一人は睡眠と言いました。
しかし、どの答えも私を満足させるものではありませんでした。そして数日の内に私はその空洞の事をまた忘れてしまいました。
大人になってもふと、心の空洞を感じる事はありましたが泣くことはありませんでした。
私はこの空洞を理解出来ないものとしていました。
しかし、この空洞のことをあなたにこの手紙をかこうとした時にふと私は理解したのです。
この空洞とは私の幸福に比例した不安だったのです。幸福がいつか壊れてしまうのではないかという薄暗い不安が私には空洞に感じられたのです。
私は何故理解出来たのか考えました。そうして一つの結論に到りました。
理解した時から今まで、私に不安というものが無かったからです。
未来を考える必要が無くなった私には不安というものが無くなってしまったのです。
不安というのは誰しもが持っているものだと思います。そして、私はたまたまキャパシティを超えてしまったために涙という形で現実に現れてしまったのです。
私はあなたが自分の不安に押しつぶされない事を切に願います。あなたは幸せでしょう。だから、怖いのです。不安というのは幸せと共に心に感じない所でどんどん大きくなっていくものです。その事を肝に命じておいてください。
手紙を書けるあなたがいることに感謝します。
私は筆を置き、床につきます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます